(文・都築響一)
ワルでもなければ、タフでもマッチョでもない。アブク銭やビッチやドラッグのことも歌わないし、都会的ですらない。いわゆる「ヒップホップ的」な要素がひとつもない退屈で単調な郊外生活と、クライマックスのない日常と、ひとかけらの希望を歌いつづけるサバービア・ランドスケープの抒情詩人、それが田我流である。
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「田我流」と書いて「でんがりゅう」と読む29歳のラッパーは1982(昭和57)年、山梨県中央部の一宮町に生まれた(いちのみやちょう・現在は町村合併によって消滅、笛吹市に編入されている)。「日本一桃の里」と大書された看板が林立し、国道沿いには桃畑、ブドウ畑と、ガソリンスタンドや吉野家やマクドナルドや洋服の青山や東京靴流通センターが混じりあう、そんな田舎町に生を受けた彼にとって、「田地を流れる我がこころ」というステージネームは、生まれるべくして生まれたともいえるが、しかし田我流の父親は甲府の広告代理店勤務、母親は専業主婦という、周囲が農家ばかりの環境ではいささか異質の家庭だった。
「もともとはうちも畑がけっこうあって、桃やブドウを作ってたんですが、とにかくお祖父さんがどうしようもないっていうか、ロマンを追い求めるひとだったらしくて、畑を潰して囲碁場を建てちゃったんですね。それが大失敗して、畑を失くしちゃった。酒癖もすごく悪かったらしくて、よく他の家から連絡が来てました、『またアンタんところのオトンがつぶれてるから迎えに来て』みたいな。だから、それを見て育った親父はそうとう苦労したらしいし、すごい真面目な性格でしたね。」
田我流の音楽体験は、親の膝の上で聴いたレコードにさかのぼるという。
続きは本誌にてお楽しみ下さい。
田我流(stillichimiya)は山梨県一宮町をベースに活動するMCである。高校時代にHIP HOPの洗礼を受けMICを握り始めると、高校卒業後の2001年に武者修行の為アメリカ・ニューヨーク州へ留学。そこでHIP HOP以外にも沢山の魅力的な音楽がある事を知り、サイケバンドでギターを担当するなど様々な音楽の可能性を探求する。そして一人の黒人青年との出会いによって再びHIP HOP、そして生の黒人文化を体験し再びリリックを書き始める。
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アメリカ留学中に様々な経験を積み2004年に帰国。地元一宮町の幼なじみとラップグループ、stillichimiyaを結成。クルーとして二枚のアルバムと一枚のミックスCD、一枚のEPを制作した。またクルーの活動と平行してソロMCとしてのライブ活動や、楽曲制作を積極的に行う。
2008年にファースト・ソロ・アルバム「作品集~JUST」を自主製作し、発表すると、HIP HOPだけではなく様々な方面から賞賛を受ける。
その後、ラップだけでなく表現者としての活動の幅を広げ、2011年公開になる富田克也監督作品「サウダーヂ」では、映画初出演ながら主演を務めるなど、表現力を磨き続けている。
2011年には待望のセカンド・アルバム「B級映画のように」をMary Joy Recordingsより発表予定。
田舎独自の観点、またありのままの日本人としてのRAP STYLE、問題提起にこだわり、実験的かつストレートな音と表現に乗せて吐き出される田我流の音楽は音楽の核、SOULという一言に回帰する。
田我流プロフィール(Mary Joy Recordings)
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ラップグループ「stillichimiya」については
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田我流のセカンドソロアルバム『B級映画のように』が、11月9日にMary Joy Recordingsから発売されます! 詳細はこちら>>
田我流、stillichimiyaのメンバー達が出演する映画『サウダーヂ』(富田克也監督作品)は、10月22日(土)から東京・渋谷「ユーロスペース」での上映が決定! 不況と空洞化にあえぐ地方都市に生きる、若者と外国人労働者たちの真の姿を捉えた勝負作。
ロカルノ国際映画祭メインコンペティション正式出品作品。詳細はこちら>>