南リアス線を訪れた5月2日、沿線は心地よい春の日差しが降り注いでいた。三陸駅のホームから見る越喜来湾(おきらいわん)の静かな碧さが目にしみた。この海が突然どす黒いヨダ(三陸沿岸では津波をこう呼ぶらしい)となって陸地を襲った。作家高山文彦氏はヨダについてこう解説する。「怪物でも呼ぶようなこの言いかたは、津波というものがまるで別世界のものではなく、つねに身近に存在する恐ろしいものとしてとらえられていたことを教えている」(『オール讀物』平成23年5月号)
三陸駅は難を逃れたが、同じ越喜来湾を望む甫嶺(ほれい)駅はよだの餌食になった。ホームは残ったが線路・路盤はずたずた。東大地震研究所の津波調査地点ともなり、15.5mの記録を残した。
三陸鉄道の風景を描いたドキュメンタリー映画「おらほの鉄道~三鉄沿線奮闘記~」が7月25日に川崎で公開される。この映画の中で、無人の甫嶺駅を毎日掃除をする80代のご夫婦が登場するそうだ。
恋し浜トンネルを抜けると恋し浜駅。平成21年に小石浜から駅名を変更した。海から離れた高台にホームがあり、別状はない。待合室には願いごとを記した貝殻が壁一面に飾られている。運休後の貝殻もある。
三陸駅のホームから見る穏やかな越喜来湾 撮影/編集部 5月2日
三陸と甫嶺の間にある泊地区。堤防は砕け、築堤上の線路も消失 撮影/編集部 5月2日
崩れた築堤上に民家の2階が流れ着いていた 撮影/編集部 5月2日
甫嶺駅のホームから三陸方面を望む 撮影/編集部 5月2日
15.5mの津波が甫嶺駅を襲った。この駅の標高は15.9m 撮影/編集部 5月2日
恋し浜付近を走る三陸鉄道の列車 撮影/冨手淳 平成20年3月7日
恋し浜の待合室には願いを書き込んだ貝殻が壁一面にぶら下がっている 撮影/編集部 5月2日