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時代の変わり目の深い考察
羽生善治
『ウェブ人間論』には時代の変わり目に対して深く広い考察が示唆されている。多くの人が現代が変化に富んだ激動の時代を生きていると実感している。しかし、その実態や度合となるとあまりにも漠然としていて途方に暮れてしまう。梅田氏と平野氏の長いマラソンのような対話は全く異なるジャンルでありながら、それに対してもつれた糸を解きほぐすような地味で根気を必要とする意義深い作業のように思えた。
シリコンバレーに存住し、インターネットの世界の変遷を十年以上に亘って現場で体感している梅田氏は本当の大変化はこれから始まると色々な形で発信している。平野氏はヨーロッパに脈々と流れる哲学と思想、文学の可能性を信じ、意欲的な作品をデビュー以来、発表し続けている。
“文明の衝突”ではないが、その会話からどんな接点が表われ、どんな方向へ議論が進んで行くのか、期待を持ちながら読み始めた。お二人は決して妥協をすることなく、また特定の話題を避けることもなく、現在ある二つの世界、存在、またその狭間について、的確に評論、実践されていてとても多くの示唆を示してくれている。
また、読み進めて行く内に両氏の考えが更にパワーアップし、進化をとげているような感覚に襲われた。
それはまさに現代に起こっている出来事がこの場にも同時に起こっているようだった。
話は進み、テーマは“人間はどう進化をするのか”という未来へと移って行く。
これこそが多くの人々が今、大きな関心があり、不安にもさせている要因だ。
個人でブログを始める人が爆発的に増えている現象について島宇宙化していくと表現されており、成程と思った。
今までもテクノロジーの進歩が人間の生活様式を変化させることはよくあった。
しかし、それらのほとんどは人間から見れば受け身で他の人々に影響を与えるケースはとても少なかったが、個人が情報を発信し始める行為はとても能動的で世論の形成など今までとは異なったプロセスをきっとこれからたどって行くのだろう。
また、増殖し続ける島宇宙が今後、どのような変化をとげて行くのかとても興味深い。例えばとてもマイナーな趣味を持った人達がネット等を通じて同好会を作る(一例としては交通標識を愛好する会、たぶん、存在していないと思う)。その交通標識を愛好する会に入会するためにはすべての標識を記憶していなければならず、極めて少人数で外界との接点の全くない同好会へと進んで行くのか、中国の交通標識を愛好する会(これもたぶん無いと思うが)と連携をして万国共通の標識にしようとか、片方にしか無かった解りやすい標識を取り入れようとするなどのコラボレーションのある会へと進んで行くのか。完全に二色に分類をするのは不可能だろうが、色々な組み合わせを繰り返している内に誰もが予想も出来なかった事が起こるのか、あるいは錬金術のようにある特定の条件をそろえなければ決して何も起こらないのか、興味は尽きない。
両氏の対話の最後のテーマは百年先を変える新しい思想で、どちらかというと今まで置き去りにされて来た思想が改めて何か必要となっているのではないか、そんな気持ちにさせられた。また、それが学問として存在するのではなく、生活をして行く極めて現実的な世界の中でテクノロジーとも不可分の領域の中でどんな方向へと進もうとしているのか、深く考えさせられる一冊だ。
(はぶ・よしはる 棋士)
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