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漢字は一五〇〇年前にわが国へ伝来したが、以来、創造力あふれる先人達はそれを巧みに日本語に取りこみ、中国とはまったく異なる独自の漢字文化を育ててきた。英語文化がゲルマン文化でもラテン文化でもないのと同様、漢字文化は日本文化である。本書はその立場に立った初めての辞典である。
これまでの漢和辞典は中国の言葉、とりわけ古代中国の言葉を読むための辞典であった。だからそこには、木漏れ日(こもれび)、東風(こち)、浴衣(ゆかた)、秋刀魚(さんま)のような美しい言葉はなかったし、秋桜(コスモス)、硝子(ガラス)、倫敦(ロンドン)のような外来語も当然なかった。
だからであろう、漢和辞典をパッと開いた時には見たことのない異国の言葉が並ぶ。一方、明治以降の日本文学にも目を配った本書を開くと、意味の分りそうな漢字ばかりが現れる。用例も前者は漢文が主であるのに後者は日本人に縁深いものが主だから見ていて楽しい。
これからは、漢文を読むには漢和辞典、日本語文中の漢字を読むためには「日本語漢字辞典」ということになるだろう。
本書は「漢字は日本語である」を宣言する書である。ここまで来るのに一五〇〇年かかったということである。国語史における偉業である、と同時に、感慨ひとしおである。
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