裁判所の正体―法服を着た役人たち―
1,650円(税込)
発売日:2017/05/18
- 書籍
- 電子書籍あり
司法の独立は嘘だった!
元エリート裁判官に伝説の事件記者が切り込む。
原発差止め判決で左遷。国賠訴訟は原告敗訴決め打ち。再審決定なら退官覚悟……! 最高裁を頂点とした官僚機構によって強力に統制され、政治への忖度で判決を下す裁判官たち。警察の腐敗を暴き、検察の闇に迫った『殺人犯はそこにいる』の清水潔が、『絶望の裁判所』の瀬木比呂志とともに、驚くべき裁判所の荒廃ぶりを抉り出す。
書誌情報
読み仮名 | サイバンショノショウタイホウフクヲキタヤクニンタチ |
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装幀 | Danita Delimont/Cover Photo(最高裁判所正面玄関(東京都千代田区))、Gallo Images/Cover Photo(最高裁判所正面玄関(東京都千代田区))、Getty Images/Cover Photo(最高裁判所正面玄関(東京都千代田区))、新潮社装幀室/装幀 |
発行形態 | 書籍、電子書籍 |
判型 | 四六判変型 |
頁数 | 368ページ |
ISBN | 978-4-10-440503-9 |
C-CODE | 0095 |
ジャンル | ノンフィクション |
定価 | 1,650円 |
電子書籍 価格 | 1,650円 |
電子書籍 配信開始日 | 2017/06/02 |
インタビュー/対談/エッセイ
裁判官は「ソンタク」する
今年の流行語大賞との声も聞こえる「忖度」という言葉。政権に対する諸々の疑惑に端を発し、マスコミの提灯記事、会社の上司や先輩に対する態度まで、世の組織では「ソンタク」流行りらしい。「みなまで言わさず推し量れ」は、日本人のどこかに染みついている悲しい性なのか。だが絶対にそんなことがあってはならぬ世界も存在するはずだ。
静寂な空気が張り詰める裁判所――。
見上げる壇上に姿を現す法服の裁判官たち。起立、礼。厳かに流れ出すのは神の声か。「主文……、被告人を死刑に処する」。時に人の運命を定め、すっとどこかに消えていく後ろ姿。彼らはいったいどこから来て、どこに戻るのか。どんな使命感や理念を持って働き、その結果としていかほどの報酬を手にするのだろうか。裁判所までどうやって通勤するのか。帰途にはグラスと焼鳥の串を手に、冗談のひとつでも飛ばすことがあるのだろうか……。
事件記者として裁判傍聴の経験は少なくないが、その楽屋裏となると全く知らなかった私は、いつかチャンスを見つけて取材をしてみたいと思っていた。そんな折、元裁判官の瀬木比呂志さんに話を聞けることになった。退職した判事は多いけれど、実名、顔出しという条件で司法の裏を語れる人はなかなか見当たらない。その点、瀬木さんは自著『絶望の裁判所』などで裁判所の内幕や人事などについても綴っている。取材するならこの人だ。丸々3日間に及ぶ膝詰め取材。ここぞとばかりに積年の疑問をぶっつけ、その経過を束ねたのが本書である。当初は元裁判官と事件記者の「対談」スタイルを想定していたのだが、私の疑問は途切れることなくひたすら続き、瀬木さんはそれに正面から答え続けてくれた。結果として、対談というよりロングインタビューといった方が適切な内容になったかもしれない。瀬木さんの口から飛び出す回答は、私にとっては驚愕の連続だった。
司法、立法、行政とは、言うまでもなく国家の三つの権力だ。これらが独立していることで権力の暴走を防ぐシステムが「三権分立」ということになる。立法権は国会が、行政権は内閣が持っているので、万一それらが暴走した場合には、違憲立法審査権を持つ裁判所が、「権力チェック機構」としてブレーキをかける。だが、もしもその裁判所が政治に「忖度」したらいったいどうなるのだろうか?
一例を上げてみたい。近年、国会でも憲法判断について議論になることが少なくない。「合憲」か「違憲」か、というやつである。だが、実は裁判所ではずっと前から「どちらでも無い」という謎の判決が下っていたりする。「一票の格差」と言われる投票価値の平等に関する訴訟で、「違憲
合計18時間に及ぶ取材で浮上した驚きの最たるものは、「三権分立は嘘だった」という空恐ろしい現実だった。どうやらこの国では司法すらも忖度の例外ではなかったらしい。
「いくら何でもそんな馬鹿なことは無いだろう……」と、思う人こそ、ぜひこの本を開いて頂きたい。我々が目にする厳正な雰囲気の法廷とは裏腹に、裁判所といえ単なる人間社会のひとつであることが垣間見えてくるはずだ。あなたの周辺にゴロゴロしているソンタク社会の一場面と重なるところも多いであろう。
冤罪だった「足利事件」を取材した時、幼女殺人の汚名を着せられ、再審の判決でようやく無罪となった菅家利和さんに、裁判官が謝罪する光景を目の当たりにした。17年半にわたって刑務所に幽閉したその人に対し、法服姿の3人が壇上で頭を垂れる姿はどんなドラマのシーンよりも衝撃的だった。しかしあの時の私は、たまたま起きた不幸な誤判だと思っていた。冤罪などそう多くはあるまいと。だがこの取材を終えた今の考えは違う。あれは起こるべくして起こった悲劇だったのだ。それ程までに「裁判所の正体」というものを思い知らされた取材だった。自分だけは安全だなんて思わないほうがいい。
(しみず・きよし 日本テレビ記者・解説委員)
波 2017年6月号より
単行本刊行時掲載
著者プロフィール
瀬木比呂志
セギ・ヒロシ
1954(昭和29)年、愛知県生れ。東京大学法学部卒。1979年より裁判官。東京地裁、最高裁等に勤務。米留学。2012(平成24)年、明治大学法科大学院教授に転身。2017年度中は滞米在外研究。著書に『絶望の裁判所』『ニッポンの裁判』(各講談社現代新書)、『リベラルアーツの学び方』(ディスカヴァー21)、『黒い巨塔 最高裁判所』(講談社)の他、筆名(関根牧彦)による4冊の書物と、『民事保全法〔新訂版〕』『民事訴訟の本質と諸相』『ケース演習民事訴訟実務と法的思考』(各日本評論社)等の専門書がある。『ニッポンの裁判』で第2回城山三郎賞を受賞。
清水潔
シミズ・キヨシ
1958(昭和33)年、東京都生れ。ジャーナリスト。新潮社「FOCUS」編集部を経て、日本テレビ報道局記者・解説委員。2014(平成26)年、『殺人犯はそこにいる――隠蔽された北関東連続幼女誘拐殺人事件』で新潮ドキュメント賞、日本推理作家協会賞(評論その他の部門)を受賞。同書は2016年に「文庫X」としても話題になる。著書に『桶川ストーカー殺人事件――遺言』(新潮文庫)、『騙されてたまるか――調査報道の裏側』(新潮新書)、『「南京事件」を調査せよ』(文藝春秋)がある。