怪獣の名はなぜガギグゲゴなのか
748円(税込)
発売日:2004/07/18
- 新書
- 電子書籍あり
ゴジラ、ガメラ、キングギドラ……潜在脳に語りかける「音」の正体とは。脳科学、言語学、物理学を駆使した、まったく新しいことば理論。
ゴジラ、ガメラ、ガンダム等、男の子が好きなものの名前にはなぜ濁音が含まれるのか。カローラ、カマロ、セドリック等、売れる自動車にC音が多いのはなぜか。キツネがタヌキよりズルそうなのはなぜか。すべての鍵は、脳に潜在的に語りかける「音の力」にあった! 脳科学、物理学、言語学を縦横無尽に駆使して「ことばの音」のサブリミナル効果を明らかにする、まったく新しいことば理論。
商品名の音
音のサブリミナル
母を呼ぶ音
MとPの快感
音と人間の生理
気持ち良いことばは語り継がれる
この世の始まりの魔法
文字でも聴覚野が刺激される
名前は呪である
ことばの本質
文字のイメージ
音の共鳴体としての身体
脳に響く音
「ことばの音」の定義
「右脳で聴く」ということ
潜在脳のイメージ
サブリミナル・インプレッションとクオリア
「マニフェスト」の甘さ
脳科学から言語へ
感性工学から言語へ
マーケティング論の視点
九千年のタイムトラベル/インド・ヨーロッパ祖語からの発見
「培」「倍」「by」
肉体の悦び/発音の生理構造からの発見
粘りのある「バビブベボ」
カラカラとサラサラ
すべりのいい「S」
かたい「K」
とろみのある「T」
なぜキツネはズルイのか
濁音の見事さ
母音語の奇跡
辛口のキレを持つ「K」
Cの存在理由
確かな手ごたえの「T」
光と風のモニュメント「S」
未来への光「H」
ベッドルームの音「N」
満ち足りた女の「M」
哲学の響き「R」
男たちを興奮させる濁音
吐き出すブレイクスルー系
母音は世界観を作る
アイウエオのサブリミナル・インプレッション
エントロピー増大関数としての「Y」「W」
トマトジュースが甘い理由
少女たちの救世主
男の子が走り出す音
牛丼と豚丼
化粧品ブランドの棲み分けマップ
溶け合うことば、威嚇し合うことば
日本語は母音語
日本人の絶対語感
書誌情報
読み仮名 | カイジュウノナハナゼガギグゲゴナノカ |
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シリーズ名 | 新潮新書 |
発行形態 | 新書、電子書籍 |
判型 | 新潮新書 |
頁数 | 208ページ |
ISBN | 978-4-10-610078-9 |
C-CODE | 0211 |
整理番号 | 78 |
ジャンル | 言語学、政治・社会 |
定価 | 748円 |
電子書籍 価格 | 660円 |
電子書籍 配信開始日 | 2009/01/30 |
インタビュー/対談/エッセイ
波 2004年8月号より Sの誘惑 黒川伊保子『怪獣の名はなぜガギグゲゴなのか』
私には即座に答えがわかる。サワムラ シュンスケくんの方に決まっている。
Sawamura Shunsuke……名前に配されたS音の魔法のせいだ。十三歳から二十歳くらいまでの少女は、S音に格別の快感を覚えるのである。サンリオ、サンスターなど成功したファンシーグッズの会社はみな、名前にS音を持っている。
ことばの音は、口腔内に起こる物理現象である。S音は、舌の上を滑らせた息を歯と歯茎にぶつけ、口元で乱気流を起こして出す音。舌を滑る息は適度な湿り気を含んでいる。すなわち、S音は、口の中を吹き抜ける爽やかな風なのだ。と同時に、滞らないスムーズなイメージを喚起する。
一方で、思春期の少女たちはホルモンバランスが悪く、身体がだるさや重さをもてあましている。「何かがいつも滞っている」、そんな意識とイライラが彼女たちを支配しているのだ。中学生の娘が億劫そうに動き、注意をすればキレるのは、何も心の問題ばかりではないのである。
「サワムラくん」「シュンスケ」、そう呼んだとき少女のからだを爽やかな風が吹き抜ける。彼女の重い身体(というより意識)が一瞬軽くなってなんとも心地よく、この名の持ち主が救いの王子様に見えてしまうのだ。
とはいえ、カワダ ツヨシくんも落ち込むことはない。堅実な印象と共にある彼は、結婚適齢期の女性には好感度が高い。
このように、ことばには、音によって喚起されるサブリミナル効果(潜在意識のイメージ)がある。どのイメージが心地よいのかは、聞く側の生理状態に依存する。『怪獣の名はなぜガギグゲゴなのか』は、この音のサブリミナル効果についての私の考察である。
少女たちはS音を好み、その父親世代は、少女たちが大嫌いなM音とD音を好むのである。Mは成熟した女性の豊満なイメージ、Dは大きくどっしりしたイメージで、どちらも滞りの音。肩書きや大金を欲するオトナの男たちの音だ。
ところで、つい最近、あのマドンナが、エスターという名に改名したという。私は、はっとした。実は、女たちがS音の魔法を欲する時期が、思春期以外にもう一回あるのである。更年期だ。更年期のほてり滞る身体を癒すSの誘惑。
MとDで男たちを翻弄し続けたセックスシンボルが、Sの誘惑に身を委ねた。今年四十六歳になる彼女が、自然に清楚な大人の女性に変わろうとしている。彼女が持つ「自然」の力に感銘せずにはいられなかった。それこそマドンナ改めエスターの女としての野生の強さなのだろう。
蘊蓄倉庫
少女がメイン・ターゲットのファンシー・グッズの業界にはひとつの法則があるのだそうです。「成功した企業名は皆S音で始まる」という法則です。確かに、サンリオ、サカモト、サンスター、サンライクといずれもS音で始まっています。ちなみにこれらの会社は男の子相手には苦戦しがちなのだとか。なぜそんなことになるのか? 鍵は「音」が「脳」に潜在的に与える力にありました。詳しい種明かしは『怪獣の名はなぜガギグゲゴなのか』に書かれています。
担当編集者のひとこと
プーチンとガンダム
少し前に、島田紳助さんと松本人志さんの番組を見ていたら、「ニート」という言葉のことが話題に出ていました。何でも近頃は、働かない若い人をこんなふうに呼ぼうという動きがあるそうです。
それについてお二人は、「そんなもの、ただの無職なのだから、ニートなんて何かカッコよさそうな名前にしたら、そいつらは調子に乗る。カッコ悪い呼び名にしないといけない」というようなことを話していました。まったく同感でした。
そういえば少し前に「暴走族」のことを「珍走団」と呼ぼう、という動きがありました。これもカッコ悪い名前にしないと、彼らが調子に乗るから、という理由だったと思います。 不思議なもので、ことばの音にはそれぞれ何となくイメージがあります。濁音はどこか力強いですし、半濁音はどこか間抜けです。ゲルンバッハ博士なんて名前の人なら放射能とかそういう研究をしていそうです。ポンピュロス先生というと結構洒落のわかる人じゃないか、という気がします(どちらも適当に作った名前です)。
プーチンという名前に意表を突かれた方も多かったのではないでしょうか。これがロシアを牛耳る男の名前か、と。実際は別にして、名前だけはそれまでのゴルバチョフ、ブレジネフに比べるとどうしても迫力不足の感は否めません。どうしても、昔「週刊新潮」に連載されていた「プーサン」という漫画を思い出してしまいます。
それにしてもなぜ「ガギグゲゴ」は力強く感じられるのでしょうか。ゴジラ、ガメラ、キングギドラ、ガンダム等々、強そうなキャラクターの多くが濁音を含んでいます。
そしてなぜ「サシスセソ」は爽やかな感じなのでしょうか。印象を語るまでは誰にでも出来ますが、「そもそもなぜだろうか」と考えたら意外と答えられないような気がします。
『怪獣の名はなぜガギグゲゴなのか』では、このへんの謎に対する解答を示しています。単なる文化的な問題としてではなく、脳科学、物理学まで使って、大胆な仮説を打ち出しています。
その具体的な内容については本書をお読みください。「ウメボシを見ただけで無意識に唾液が出る」というのがヒントです。
2004年7月刊より
2004/07/20
著者プロフィール
黒川伊保子
クロカワ・イホコ
1959(昭和34)年、長野県生れ。奈良女子大学理学部物理学科卒。株式会社感性リサーチ代表取締役。メーカーでAI研究に携わったのち、ことばの感性の研究を始める。気持ちよいと感じることばに男女の違いがあることを発見、独自のマーケティング論を拓く。著書に、『恋愛脳』『夫婦脳』『運がいいと言われる人の脳科学』『家族脳』『成熟脳』『「話が通じない」の正体』『妻のトリセツ』『夫のトリセツ』など。