ほんとうの英語がわかる―51の処方箋―
1,320円(税込)
発売日:2001/03/16
- 書籍
ガイジンさんが伝授する、日本人がネイティヴの気持ちを知るための秘策!
厳選した51の表現をマスターすれば、英語の核が理解できる! 日本生活30年以上の著者がユーモアあふれる例文で初学者の陥りやすい誤解を解き、英語を日本語の枠組みの中でとらえてしまう際に感じる違和感を解消。ネイティヴに通じる語学力が身につく、ほんとうの英語に触れたい人、外国語嫌いの人のための画期的な入門書。
書誌情報
読み仮名 | ホントウノエイゴガワカルゴジュウイチノショホウセン |
---|---|
シリーズ名 | 新潮選書 |
発行形態 | 書籍 |
判型 | 四六判変型 |
頁数 | 224ページ |
ISBN | 978-4-10-600599-2 |
C-CODE | 0382 |
ジャンル | 英語 |
定価 | 1,320円 |
インタビュー/対談/エッセイ
波 2001年3月号より 52番目の処方箋――心を入れ替える(alternate mind) ロジャー・パルバース 『ほんとうの英語がわかる 51の処方箋』
『ほんとうの英語がわかる 51の処方箋』を執筆中、ぼくは毎朝7時前から東工大の研究室で原稿を書いていました。しかし、たちまち行き詰まり、筆が(というかコンピュータのキーボードを打つ手が)はたと止まってしまうことも少なくありませんでした。ぼくは自分が書いた文章を眺めて、思わず絶望して天に腕を伸ばしたものです。ああ、同じ人間が話すことばなのに、英語と日本語は何と違うのだろう! 例えば、日本語では、文末や動詞のあとに「ね」とか「かな」といったものが付くことで、いわく言いがたい意味合いが表現されます。しかし、英語ではこうしたことはあまり見られません(あとで説明しますが、それは付くとしても、たいてい動詞の前です)。日本語と英語にもこうした違いがあるわけですから、外国語を話すためには、まず自分の「母国語の精神構造」を打ち壊す能力を身に付けなければなりません。しかし、これは何も、別の人間になれ、ということではありません。同じ自分であるけれども、心を入れ替えろ(becomenot another person but the same person with an alternate mind)、ということです。
具体的に説明します。
「昔は牡蠣をよく食べたものだけれど、今はちょっと食べられなくなっちゃってね」
この「食べられなくなっちゃってね」を“I cannot eat them.”と訳すのでは、やはり不十分です。と言うのは、「なっちゃってね」に話し手の何とも言えない気持ちがこめられていると思えるからです。翻訳するにあたっては、そのようなニュアンスも読み取らなければなりません。でないと、こうした微妙な気持ちが消えてしまいます。
ぼくなら次のように訳します。
I used to eat oysters a long time ago but I got to the point where I couldn't eat them anymore, you know.最後のyou knowで、日本語の「ね」という感じが出せると思います。
そして、pointという単語を使ったことに注目してください。これは興味深いことばですが、なかなか意味は複雑です。日本語では、もちろん「点」のことです(松本清張の代表作に『点と線』がありますが、これを英語にすればPoints and Linesです)。pointという英語は、「決定的であること」(a finality to it)を意味します。大昔は、「書いた点」ではなく、「小さな穴」を意味したと考えられます。puncture(点穴)という単語に関係があることからも、それはうかがい知れます。このpunctureから、日本語の「パンク」ということばが生まれました。punctual(時間をしっかり守る、規則的な)も、pointと語源的・語感的に共通するものがあります。
to get to the point where you do something(何かをする状態にたどり着く)と言えば、一つの過程を経た、そしてその過程で自分は努力もしたし、苦労も強いられた、ということです。
関連表現(RELEVANT EXAMPLES)
Rumiko got to the point where she couldn't stay in the same house with her husband.
留美子はついに夫と別居することになった。
I got to the point where everytime I saw raw meat I thought of how cruel we humans are to animals.
この頃は、生肉を見るだけで、人間はなんて動物に残酷なんだ、と思ってしまう。
注意点(EXTRA POINT)
「……してしまって」と言えば、日本語では時に「後悔」の念を表わすかもしれません。これを英語で表現すれば、(to) go andを本動詞の前につけるのがいいと思います。
例えば、「ああ、ウィスキーに氷をいれてしまったわ。ごめんなさいね」という表現は、“Oh, I went and put ice in the whisky. Sorry.”とするのがピッタリすると思います。
goを過去形のwentにすることで、同じように「後悔」の気持ちが表現できます。実際、人はどこかに行ってしまうわけではありません。(You do not actually go anywhere.)何かを行なう過程を経験するだけです。しかし、そのことで、その何かが決定的になったという感覚が得られます。もはや取り返しはつきません。(You just go through the process of doing something that has a sense of finality about it... irreversibility.)
「書いてしまった以上、、もはや取り返しがつかない」と思っているのは、著者だけです。『ほんとうの英語がわかる 51の処方箋』は、もうすぐ書店に並びます。ぼくはとにかくそれを書き上げてしまいました。(I went and wrote it.)
どうかたくさんの人に読んでいただきたいと願っております。
具体的に説明します。
「昔は牡蠣をよく食べたものだけれど、今はちょっと食べられなくなっちゃってね」
この「食べられなくなっちゃってね」を“I cannot eat them.”と訳すのでは、やはり不十分です。と言うのは、「なっちゃってね」に話し手の何とも言えない気持ちがこめられていると思えるからです。翻訳するにあたっては、そのようなニュアンスも読み取らなければなりません。でないと、こうした微妙な気持ちが消えてしまいます。
ぼくなら次のように訳します。
I used to eat oysters a long time ago but I got to the point where I couldn't eat them anymore, you know.最後のyou knowで、日本語の「ね」という感じが出せると思います。
そして、pointという単語を使ったことに注目してください。これは興味深いことばですが、なかなか意味は複雑です。日本語では、もちろん「点」のことです(松本清張の代表作に『点と線』がありますが、これを英語にすればPoints and Linesです)。pointという英語は、「決定的であること」(a finality to it)を意味します。大昔は、「書いた点」ではなく、「小さな穴」を意味したと考えられます。puncture(点穴)という単語に関係があることからも、それはうかがい知れます。このpunctureから、日本語の「パンク」ということばが生まれました。punctual(時間をしっかり守る、規則的な)も、pointと語源的・語感的に共通するものがあります。
to get to the point where you do something(何かをする状態にたどり着く)と言えば、一つの過程を経た、そしてその過程で自分は努力もしたし、苦労も強いられた、ということです。
関連表現(RELEVANT EXAMPLES)
Rumiko got to the point where she couldn't stay in the same house with her husband.
留美子はついに夫と別居することになった。
I got to the point where everytime I saw raw meat I thought of how cruel we humans are to animals.
この頃は、生肉を見るだけで、人間はなんて動物に残酷なんだ、と思ってしまう。
注意点(EXTRA POINT)
「……してしまって」と言えば、日本語では時に「後悔」の念を表わすかもしれません。これを英語で表現すれば、(to) go andを本動詞の前につけるのがいいと思います。
例えば、「ああ、ウィスキーに氷をいれてしまったわ。ごめんなさいね」という表現は、“Oh, I went and put ice in the whisky. Sorry.”とするのがピッタリすると思います。
goを過去形のwentにすることで、同じように「後悔」の気持ちが表現できます。実際、人はどこかに行ってしまうわけではありません。(You do not actually go anywhere.)何かを行なう過程を経験するだけです。しかし、そのことで、その何かが決定的になったという感覚が得られます。もはや取り返しはつきません。(You just go through the process of doing something that has a sense of finality about it... irreversibility.)
「書いてしまった以上、、もはや取り返しがつかない」と思っているのは、著者だけです。『ほんとうの英語がわかる 51の処方箋』は、もうすぐ書店に並びます。ぼくはとにかくそれを書き上げてしまいました。(I went and wrote it.)
どうかたくさんの人に読んでいただきたいと願っております。
(作家)訳・上杉隼人
著者プロフィール
ロジャー・パルバース
Pulvers,Roger
1944年ニューヨーク生まれ。作家、劇作家、演出家。UCLAおよびハーバード大学大学院で学ぶ。ワルシャワ、パリに留学ののち、1967年に初来日。1976年にオーストラリアに帰化。映画『戦場のメリークリスマス』の助監督としても知られる。著書に『旅する帽子 小説ラフカディオ・ハーン』『ライス』(ともに講談社)、『日本ひとめぼれ』(岩波同時代ライブラリー)、『ほんとうの英語がわかる 51の処方箋』(新潮選書)など多数。現在、東京工業大学教授。
上杉隼人
ウエスギ・ハヤト
翻訳家、編集者。主な訳書に、上記の『旅する帽子 小説ラフカディオ・ハーン』『日本ひとめぼれ』『ライス』などがある。
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