(文・都築響一)
「僕は二十歳だった。それがひとの一生でいちばん美しい年齢だなどとだれにも言わせまい」と、ポール・ニザンが『アデン・アラビア』の最初の行を書いたのは1931年だった。それから80年間以上、この冒頭のワンフレーズが、どれだけの子どもたちの魂を揺さぶってきたのだろう。
[折りたたむ]
「レイト」という謎めいたラッパーがいる。フルアルバムとミニアルバムが1枚ずつ。あとは客演が少しあるだけで、プロフィールを知るインタビューすらほとんどない。録音がいいわけでもないし、有名DJがバックを務めているわけでもない。ダンサブルでもないから、クラブでヘヴィローテーションされるわけでもない。
でも、そのリリックが描き出す世界は、いま学校や家庭や社会の片隅で、居心地のいい場所を見つけられないまま、膝を抱えてうずくまっている少年少女たちにとっては、だれよりもリアルに響くメッセージに、こころ震わされる物語に満ちている。「担任が言ってた『若いっていいね』 こんなんでいいならくれてやるよ」――そのワンフレーズをくりかえし聴くために、不釣り合いに巨大なヘッドフォンを固く嵌めて、俯きながら電車のドア前に立っている子どもたちが、僕には見える。
「トイレ」を逆から読んだ名を持つラッパー。異形で異端の天才児。トラック・メイキングからイラストまで独りで手がける。2008年ファースト・アルバム『明日など来るな』、2010年ミニ・アルバム『さよなら昨日』リリース。
公式サイトはこちら>>PC/mobile