竹中優子「水辺のフリスビー」
第49回 川端康成文学賞発表 奥泉 光「清心館小伝」
新潮 2025年6月号
(毎月7日発行)
発売日 | 2025/05/07 |
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JANコード | 4910049010655 |
定価 | 1,200円(税込) |
【創作】
◆虹の架け橋/松浦寿輝
昭和の象徴・松坂屋デバートでの空中通路の思い出。ノスタルジーを超えて未来へ橋を渡す、希望の物語。
◆水辺のフリスビー(240枚)/竹中優子
母と仕事を失った五十二歳の私は、今日も米を炊く。リワークセンターで再就職を目指す男女四人の連帯、恋、衝突、生きるための練習。新潮新人賞受賞作「ダンス」が脚光を浴びた気鋭による、瞠目の第二中篇!
【掌篇】
◆路面電車/筒井康隆
ぼくの人生の傍らには、いつも路面電車があった――。掌篇に封じ込められた鉄道愛と幸福な生涯。
【連作】
◆ヴァルプルギス/高山羽根子
自分はずっと「境目」を歩き続けてきた。世界からの離陸を目指して。では、宇宙人に登山はどう見えるか?
【連載小説】
◆マイネームイズフューチャー(第3回)/千葉雅也
人気ユーチューバーのカズキとカラフルスペース・雨音の不気味な関係。そして悠介は、父を思い出す。
〈第49回 川端康成文学賞発表〉
◆清心館小伝/奥泉 光
【選評】荒川洋治/角田光代/辻原 登/堀江敏幸/村田喜代子
【回想談】
◆坂東玉三郎、三島由紀夫を語る/聞き手 高橋睦郎・中村哲郎
幼い頃から死がすぐそばにあった。『椿説弓張月』も演じた当代きっての歌舞伎役者が明かす、作家の影響。
【対談】
◆恋愛で全てを捨てられない私たち/島本理生×鈴木涼美
結婚、出産、不倫にまつわる幻想に満ちた社会通念を、実感に即したユーモラスな言葉で解体する。
【随筆】
◆父を撮る/川崎 祐
十四歳で実家を離れたわたしは、写真を通して事び家族と向き合う。撮影者と被写体の関係性の考察。
【リレーコラム 街の気分と思考】
◆延江浩さんのこと/マーサ・ナカムラ
◆焼きそばを食べたことがある人は/ゆっきゅん
【新潮】
◆ベケットを翻訳して/小野正嗣
◆軍艦島、死と生のあわい/雜賀雄二
◆私らが文学をする理由/鈴木結生
◆死んだ後を生きようとする/細井美裕
【書評委員による 私の書棚の現在地】
◆鈴木光司『ユビキタス』/市川沙央
◆毎日新聞社点字毎日編集部編『点字新聞が伝えた視覚障害者の100年――自立・社会参加・文化の近現代史』/古川真人
【本】
◆山下澄人『わたしハ強ク・歌ウ』/柿内正午
◆田中 純『磯崎新論』/藤村龍至
◆梯 久美子『やなせたかしの生涯――アンパンマンとぼく』/柳瀬博一
【連載コラム】
◆料理の人類学のかたわらで(第11回)/藤田 周
夏野菜の思考
【連載評論】
◆雅とまねび――日本クラシック音楽史(第6回)/片山杜秀
◆小林秀雄(第117回)/大澤信亮
【連載小説】
◆Ifの総て(第12回)/島田雅彦
◆湾(第12回)/宮本 輝
◆荒れ野にて(第86回)/重松 清
第38回三島由紀夫賞 候補作品発表
第58回新潮新人賞 応募規定
執筆者紹介
この号の誌面
編集長から
松浦寿輝「虹の架け橋」
竹中優子「水辺のフリスビー」
◎昭和と令和の距離。松浦寿輝「虹の架け橋」はその残酷なまでの隔たりと失われた三十年への責任を、バブル期を生きた男たちの対話で浮かび上がらせる。気づけば世界はひどい状況になってしまった――だが、彼らの言葉に滲むのは痛切なメランコリーだけではない。諦念の先に置かれた結論は、次の世代への期待でもある◎竹中優子「水辺のフリスビー」は、母の死により鬱病を発症し、仕事を手放すことになった女性の再生の物語。主人公の山田その子は、五十二歳にしてリワークセンターで就労支援を受けることに。そこで彼女は仮初めの付き合いと知りつつも三人の年少の友人を得て、他者との関係を築き直していく。むろんそれは痛みも伴うことだ。衝突し、相手の境遇に嫉妬し、自らの冷たさや暴力性を突きつけられることにもなるだろう。それでも人生を変えるのに、再び世界への希望を抱くのに、何歳であっても遅すぎることはない。フリスビーが反射する光の行方を追いながら、そんなことを思った。
編集長・杉山達哉
バックナンバー
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雑誌から生まれた本
新潮とは?

文学の最前線はここにある!
人間の想像力を革新し続ける月刊誌。
■「新潮」とはどのような雑誌?
「新潮」は日露戦争の年(1904年)に創刊された、百歳を超える文芸誌です。現役の商業文芸誌としては世界一古いという説があります(ただし第二次大戦中は紙不足のため数号、関東大震災のときは1号だけ休刊)。その歴史の一端は小誌サイト内にある〈表紙と目次で見る「新潮」110年〉でご覧ください。
■革新し続ける文学の遺伝子
もちろん古いことと古臭いことはまったく別です。百余年にわたり、たえず革新を続けてきたことこそが「新潮」の伝統であり、その遺伝子は現編集部にも確実に引き継がれています。ケータイ小説やブログ、あるいは電子配信、電子読書端末まで、いまだかつてない〈環境変動〉がわたしたちの生に及びつつある今、時代精神を繊細に敏感に感じ取った小説家、批評家たちが毎月、原稿用紙にして計1000枚以上(単行本にして数冊分)の最新作を「新潮」を舞台に発信し続けています。
■日本語で表現されたあらゆる言葉=思考のために
デビュー間もない20代の新人からノーベル賞受賞作家までの最新作がひとつの誌面にひしめきあうのが「新潮」の誌面です。また、文芸の同時代の友人である音楽、映画、ダンス、建築、写真、絵画などの領域からも、トップクラスの書き手、アーティストが刺激的な原稿を毎号寄せています。文芸を中心にしっかりと据えながら、日本語で表現されたあらゆる言葉=思考の力を誌面に結集させたい――それが「新潮」という雑誌の願いです。