女による女のためのR-18文学賞

新潮社

第21回 受賞作品

王冠ロゴ 友近賞受賞

「いい人じゃない」

古池ねじ

――受賞したときのお気持ちをお聞かせください。

 これまでも応募していましたが、一次選考を何回か通ったくらいだったので、受賞するとは考えておらず、すごく意外でしたが嬉しかったです。友近さんに選ばれるなんて、想像したこともありませんでした。一次を通ったあと二次通過作品が発表されるまでは、R-18文学賞のサイトをめちゃくちゃクリックしていましたね。最終選考の日も緊張でぐったりしながら電話をずっと待っていました。

――ご受賞について、ご家族の反応はいかがでしたか。

 最終選考に残ったとき夫に、「友近さんが私の小説を読むんだよ」と言ったら、うどんを食べながら吹き出していて、とりあえずウケてよかったと思っていたのですが、実際に友近賞を取ったことを報告したら、「本当に取るとは思わなかった」と言っていました。
 小学二年生の息子には「ママのお仕事は本を書くことだよ」と教えていましたが、最終候補作に残ったことなどはよくわからないだろうと思っていました。でも、受賞が決まったときの電話のことを「お仕事の電話だよ」と伝えると、「ママのお仕事って本を作ることでしょ?」と訊くので、「そうだね。また本を作るかもしれないね」と答えたら、「じゃあ、おれ、絵を描いてあげるよ。恐竜の絵が描けるんだぜ」って(笑)。喜びの共有はできました。

――「いい人じゃない」を書こうと思ったきっかけはありますか?

 私の友人が、しばらく連絡をとっていなかった友人と最近また会うようになったと話していたのですが、その友人の友人が久しぶりに声をかけてきたのは、実はマルチの勧誘目的だったらしいんです。そうしたらその勧誘された友人が「ねじちゃん、マルチは良くないという小説を書いてよ」と言ってきて。それは小説の力を信じすぎじゃない? 無理だよ、と一度は思ったのですが、だんだん書けるかなと思えてきて、ただ、書くにしても、マルチ商法をする側の承認欲求の話にはしないように、それとは全然関係のない話にしようと思って書き上げました。結果、「マルチはやめよう」というメッセージは全く無くなってしまいましたが(笑)。

――書き上げるまでに、どのくらいかかりましたか?

 友人にマルチの話を聞かされたのが9月くらいで、そのときは10月中旬が締切の同人誌の原稿に全力を傾けていたので、「いい人じゃない」を書き始めたのは10月20日くらいからでした。準備期間は自分のこれまでの作品の中でも短いほうでしたが、書いてみるだけ書いてみよう、応募できるなら応募しよう、これも修業だ、と思って執筆しました。

――遠山さんのキャラクターを選考委員のみなさんが褒めていましたが、どのように作っていったのですか。

「いい人じゃない」は「ロマンス」という仮タイトルで初めは書いていて、遠山さんは主人公の女ともだちというより、ロマンスの相手のイメージだったんです。主人公が恋愛感情を抱くわけではないけれど、外界からやってきて、主人公にときめきをくれる人物として書いていました。最初に決まっていたのは、ラストの、主人公が美沙を遠山さんに会わせようとする動機だけで、そこに向かって書く中で遠山さんが出来上がっていった感じです。
 少し話はそれますが、登場人物の台詞などでは、読者に「人ってそんなこと言うんだ」という気持ちを味わってほしいなと思って書いています。というのも、息子が小さい頃ベビーカーに乗せていたとき、おばあさんに「かわいいわね」と話しかけられたんです。そのまま世間話をしていると、おばあさんが「うちの孫は結婚もしないで、どうするつもりなんだろう」と言いだして。そういう話を聞くと普通は「そんな言い方したら、お孫さんに悪いですよ」などと返すかと思いますが、初対面でそれはちょっと角が立つかなと思って「お孫さんのことより、ご自分は恋愛とかなさらないんですか。お綺麗なんだし」と言ったんです。そうしたらおばあさんが「いや、私は男運悪いから」と答えて、それがすごく面白いなと思って。テンプレみたいなことを言う人でも、こちらが少し切り口を変えればその人の持つ実感が言葉として出てくるんだという、私があのとき感じた気持ちを小説で読者に伝えたいと思っています。

――最初に小説を書いたのはいつですか?

 中学生のときです。ノートに手書きで。その後、父親から使わなくなったワープロをもらって書くようになりました。執筆歴としては二十年以上になりますね。高校生くらいから投稿サイトに投稿するようになって、でも当時は長いものはあまり書けなくて。今も短編のほうが書きやすいですが、言いたいことが言えるのは長編かなと思います。大学時代にはミステリ研究会に入っていて、そのときに一度だけですが、本格ミステリを書いたこともあります。

――今はどのようなスタイルでご執筆をなさっていますか。

 もともと深夜に筆が進むタイプでしたが、いつ書くかはあまり決まっていないですね。最近は子どもが学校にいる時間が増えたので、日中、書ける時間も増えたのですが、実際にはそんなに進まないです(笑)。一日三行でも基本的には毎日書こうと思っていて、子どもが生まれる少し前に書き始めた小説も、一日三行は書こうと思って三年くらいかけて仕上げて、それがデビュー作になりました。

――こつこつ執筆を続けてこられた古池さん、これからの抱負をお聞かせください。

 以前の私は思いあがらないように、謙虚にならなければいけないと思い込んでいて、でもそれは無駄だった気がしています。色々な人に作品を評価してもらったり、好きですと言ってもらったりして、少しずつ、根拠はなくとも自分は書ける、無力感は無責任につながるので良くない、自分ができると信じるのは大事だと思えるようになりました。だから、例えば私の小説を読んで、こんなものよりいいものが書けると思っている人がいたとしたら、その人は本当にいい作品が生み出せると思います。
「いい人じゃない」は、一次も通らないだろうと思って書いていたのでこういう話になりましたが、自分の言葉にもっと影響力があると感じていたら、女性同士のいがみ合いではなく、女の人をもっとよく書けたのではないかとも思っています。自分の知らないものを主人公が持っているのを知ったら動揺してしまうだけで、友人のことを気にかけてあげる地道な善意のある美沙を、自分が考えているようにはうまく書けなかったところに反省点があるので、続きを書くのなら、美沙の話も書いてみたいです。