今月の表紙の筆蹟は、桐野夏生さん。
波 2025年8月号
(毎月27日発売)
発売日 | 2025/07/28 |
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JANコード | 4910068230850 |
定価 | 100円(税込) |
筒井康隆/掌篇小説 眞三郎の特技 シリーズ 第25回
阿川佐和子/やっぱり残るは食欲 第95回
【桐野夏生『ダークネス』刊行記念】
[対談]桐野夏生×小川 哲/ミロは孤独を恐れない
佐々木 敦/ミロのダークナイト
【伊与原 新『翠雨の人』刊行記念特集】
大矢博子/未来を変えた女性科学者
伊与原 新/「面倒くさい人間愛」の人
【真山 仁『アラート』刊行記念】
[インタビュー]真山 仁/フィクションで終わればいいと願っている
保阪正康『なぜ日本人は間違えたのか─真説・昭和100年と戦後80年─』(新潮新書)
片山杜秀/ジャーナリストの史観、ここに極まる
マッテオ・B・ビアンキ、関口英子 訳『遺された者たちへ』(新潮クレスト・ブックス)
岸 政彦/死を抱きしめて生きる
小池水音『あなたの名』
宮崎智之/《記録》から《記憶》へ橋を架ける
田中宏和『全員タナカヒロカズ』
酒井順子/同姓同名は、新しい親族となる
林 英一『南方抑留─日本軍兵士、もう一つの悲劇─』(新潮選書)
増田 弘/戦後80年、抑留者の悲痛な叫びを聞く
【福岡伸一『生命と時間のあいだ』刊行記念】
福岡伸一/自著印刷中の精興社に見学へ!
【特集 戦後八十年と「火垂るの墓」】
[対談再録]野坂昭如×高畑 勲/映画「火垂るの墓」をめぐって
上村裕香/サブスク時代の若者が観る「火垂るの墓」
砂原浩太朗/再訪と初探訪――「火垂るの墓」との四十年
南陀楼綾繁/二つの「火垂るの墓」とふたりの作家
丸谷才一/国民的説話
【私の好きな新潮文庫】
杉崎 亮/再読のすすめ
緒乃ワサビ『記憶の鍵盤』
杉井 光『世界でいちばん透きとおった物語』
宮沢賢治『ポラーノの広場』
【今月の新潮文庫】
柚木麻子『らんたん』
斎藤美奈子/オールスターキャストで読む近代の女子教育史
マシュー・ブレイク、池田真紀子 訳『眠れるアンナ・O』
井上先斗/目が覚めても、どうしても同じ自分
【コラム】
小澤 實/俳句と職業
加藤ジャンプ『ロビンソン酒場漂流記』(新潮新書)
加藤ジャンプ/それは1995年、スピッツの名曲とともに始まった
[とんぼの本]編集室だより
【連載】
下重暁子/九十歳、それがどうした 第3回
中村うさぎ/老後破産の女王 第17回
近藤ようこ 原作・梨木香歩/家守綺譚 最終回
梨木香歩/猫ヤナギ芽ぶく 第21回
三宅香帆/推しとハレ 第7回
古市憲寿/絶対に挫折しない世界史 最終回
大木 毅/錯誤の波濤 海軍士官たちの太平洋戦争 第5回
高嶋政伸/おつむの良い子は長居しない 第17回
編輯後記 いま話題の本 新刊案内 編集長から
立ち読み
編集長から
今月の表紙の筆蹟は、桐野夏生さん。
◎新人記者として週刊新潮にいた頃、連載が始まったのが松本清張さんの「甲州霊嶽党」。平賀源内が主人公のこの時代小説は作者の死によって途絶、週刊文春で連載中だった『神々の乱心』も一緒に絶筆となりました。こちらは戦前を舞台に宮中で暗躍する新興宗教を描く現代史ミステリ。清張先生逝去の報が入った夜、週刊新潮編集部で文春の『神々』及びモデル達について滔々と語り続ける見知らぬ青年がいて、話が矢鱈面白く、思わず本人に「誰だっけ」と訊くと「先週、中途で入った若杉って者だけど」。
◎今夏、その若杉良作が大内山畏きあたりに食い込んだ新興宗教について書下ろしたのが『天皇を覚醒させよ』。『神々』発想の源らしき宗教も出てきますが、本書の中心をなすのは宮中魔女追放事件です。昭和天皇の侍従入江相政が「魔女」と呼んだのは、香淳皇后の女官だった今城誼子。今城は叔母の主治医の塩谷医師を御所に呼び皇后を治療させるが、新興宗教団体を興した塩谷の治療は手かざしだった。皇后は今城への傾倒を強めていく。入江は日記に度々魔女への怒りを記し、ついには昭和天皇が「やめちまえとまで仰せに(『入江相政日記』昭和四十六年四月九日)」なって、今城は罷免される――。しかし昭和天皇は罷免後も少くとも二度、今城と会っていることを著者は明らかにします。今城の養女は入江について「男の嫉妬は怖い」と言っていた由。
◎著者が資料を博捜し、足を使って取材し、日本の地下水脈を描き出していくさまは、三十余年前『神々』を熱く語っていた青年そのままで、何だか誇らしい感じ。彼の描く塩谷医師の晩年も妙に胸に迫りますが、アッと驚いたのは塩谷の長女が今も活躍する、すぐれた作家だったこと。彼女の名は……。
▽次号の刊行は八月二十七日です。
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雑誌から生まれた本
波とは?

1967(昭和42)年1月、わずか24ページ、定価10円の季刊誌として「波」は誕生しました。新潮社の毎月の単行本の刊行数が10冊に満たず、新潮文庫の刊行も5冊前後という時代でした。こののち1969年に隔月刊に、1972年3月号からは月刊誌となりました。現在も続く「表紙の筆蹟」は、第5号にあたる1968年春季号の川端康成氏の書「風雨」からスタートしています。
創刊号の目次を覗いてみると、巻頭がインタビュー「作家の秘密」で、新作『白きたおやかな峰』を刊行したばかりの北杜夫氏。そして福田恆存氏のエッセイがあって、続く「最近の一冊」では小林秀雄、福原麟太郎、円地文子、野間宏、中島河太郎、吉田秀和、原卓也といった顔触れが執筆しています。次は大江健三郎氏のエッセイで、続いての「ブックガイド」欄では、江藤淳氏がカポーティの『冷血』を、小松伸六氏が有吉佐和子氏の『華岡青洲の妻』を論評しています。
創刊から55年を越え、2023(令和5)年4月号で通巻640号を迎えました。〈本好き〉のためのブックガイド誌としての情報発信はもちろんのことですが、「波」連載からは数々のベストセラーが誕生しています。安部公房『笑う月』、遠藤周作『イエスの生涯』、三浦哲郎『木馬の騎手』、山口瞳『居酒屋兆治』、藤沢周平『本所しぐれ町物語』、井上ひさし『私家版 日本語文法』、大江健三郎『小説のたくらみ、知の楽しみ』、池波正太郎『原っぱ』、小林信彦『おかしな男 渥美清』、阿川弘之『食味風々録』、櫻井よしこ『何があっても大丈夫』、椎名誠『ぼくがいま、死について思うこと』、橘玲『言ってはいけない』、ブレイディみかこ『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』、土井善晴『一汁一菜でよいと至るまで』などなど。
現在ではページ数も増えて128ページ(時には144ページ)、定価は100円(税込)となりました。お得な定期購読も用意しております。
これからも、ひとところにとどまらず、新しい試みを続けながら、読書界・文学界の最新の「波」を読者の方々にご紹介していきたいと思っています。