八〇分で聴く、静かで、美しい、愛の物語。《僕の記憶は80分しかもたない》博士の背広の袖には、そう書かれた古びたメモが留められていた――
新潮社ではこの6月30日に、「ラジオドラマCD 博士の愛した数式」を刊行することになりました。音源は、本年3月19日にMBSラジオ、3月25日にTBSラジオで放送されたラジオドラマ「博士の愛した数式」を再編集したもの。従来新潮社が刊行するCDは基本的に一人語りの「朗読CD」ですが、ご存知の通り、少年と博士が打ち解けるきっかけになった「ラジオ」が重要な役割を果たすこの物語だからこそ、ラジオドラマの形式にこだわり、ラジオ番組として制作した作品をCD化したものです。
ラジオドラマCDの特色
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原作:小川洋子さんの解説
老数学者と十歳の少年を結びつけるために、この小説には野球が必要だ、と思いついた時すぐさま、彼ら二人が肩を寄せ合い、ラジオにじっと耳を澄ませている情景が浮かんできた。 静かな食堂に流れる、野球の実況放送。タイガースが得点を入れ、わき上がる歓声。顔を見合わせ、微笑を交わす博士とルート少年。そんなささやかな瞬間に、かけがえのない喜びを見出す家政婦さん……。 彼らの心が触れ合う場面で、きっとラジオが大事な役割を果たしてくれるに違いないと確信した。ラジオドラマ化のお話をいただき、迷わず了承の返事をしたのは、この小説とラジオが密接な関係にあると、分かっていたからなのだ。 博士と、家政婦さんと、ルート君の声が聞こえてきた時、懐かしい気持になった。小説を書いている間、ひとときも離れず私の胸にあった登場人物たちの体温が、よみがえってきたからだ。 自分の書いた一冊の本が、新しい出会いを経て、こうしてまた別の姿に生まれ変わった。「博士の愛した数式」は、本当に幸運な小説である。 最後に、うれしかったことをもう一つ。私の大好きな八木裕さん、亀山つとむさんと、このような形でご一緒でき、作家としてだけでなく、タイガースファンとして、大きな充実感に包まれている。 |
キャスト
脚色:倉持裕 音源提供:MBS毎日放送 挿画:戸田ノブコ 装幀:新潮社装幀室
出演者:柄本明(博士)、中嶋朋子(私)、武井証(ルート)、草村礼子(義理の姉)、若杉宏二(組合長)、木下政治(店員)、大地泰仁(成長したルート)、八木裕(野球場のおじさん)、亀山つとむ(亀山と叫ぶ男)、水野晶子(球場アナウンス)
出演者:柄本明(博士)、中嶋朋子(私)、武井証(ルート)、草村礼子(義理の姉)、若杉宏二(組合長)、木下政治(店員)、大地泰仁(成長したルート)、八木裕(野球場のおじさん)、亀山つとむ(亀山と叫ぶ男)、水野晶子(球場アナウンス)
購入
博士の愛した数式 小川洋子/原作、柄本明/出演、中嶋朋子/出演、武井証/出演、ほか 《僕の記憶は80分しかもたない》博士の背広の袖には、そう書かれた古びたメモが留められていた――記憶力を失った博士にとって、私は常に“新しい”家政婦。博士は“初対面”の私に、靴のサイズや誕生日を尋ねた。数字が博士の言葉だった。やがて私の10歳の息子が加わり、ぎごちない日々は驚きと歓びに満ちたものに変わった。あまりに悲しく暖かい、奇跡の愛の物語。MBS毎日放送製作のラジオドラマをCD化! ISBN:978-4-10-830183-2 発売日:2006/06/30 |
プロフィール
小川洋子
オガワ・ヨウコ 1962(昭和37)年、岡山県生れ。小説家。早稲田大学第一文学部卒。1991(平成3)年「妊娠カレンダー」で芥川賞受賞。『博士の愛した数式』(読売文学賞、本屋大賞)、『薬指の標本』『いつも彼らはどこかに』『生きるとは、自分の物語をつくること』(河合隼雄との対話)はじめ多くの小説・エッセイがあり、海外にも愛読者を持つ。芥川賞選考委員、河合隼雄物語賞選考委員など。 |
柄本明
エモト・アキラ 1948(昭和23)年東京都生れ。「自由劇場」を経て「劇団東京乾電池」を結成。以後、個性派俳優としてテレビ、映画、舞台で幅広く活躍。1998(平成10)年、映画「カンゾー先生」で日本アカデミー賞最優秀主演男優賞はじめ各賞を受賞。最近では、1993(平成5)年より上演を続けるひとり芝居「煙草の害について」や、映画「蝉しぐれ」、TVドラマ「ハルとナツ~届かなかった手紙」、「功名が辻」ほか。 |
中嶋朋子
ナカジマ・トモコ 1971(昭和46)年東京都生れ。1981(昭和56)年TVドラマ「北の国から」の蛍役で本格的にデビュー。以来、1994(平成6)「適齢期」、2001(平成13)年「ロケットボーイ」などのTVドラマをはじめ、1990(平成2)年映画「つぐみ」、1991(平成3)年「ふたり」などに出演。舞台・CMでも活躍中。 |
倉持裕
クラモチ・ユタカ 1972(昭和47)年、神奈川県生れ。劇団「ペンギンプルペイルパイルズ」を主宰し、戯曲「ワンマン・ショー」では第48回岸田戯曲賞を受賞。映画脚本やコラムなどでも精力的に活動。各方面から注目される若手劇作家である。 |