新潮文庫メールマガジン アーカイブス
今月の1冊


 新潮文庫では、2014年に「新潮ことばの扉」というシリーズを立ち上げ、『新潮ことばの扉 教科書で出会った名詩一〇〇』を第一作目として刊行しました。その後も、『新潮ことばの扉 教科書で出会った名句・名歌三〇〇』『新潮ことばの扉 教科書で出会った古文・漢文一〇〇』と続き、今回シリーズ最終巻となる『新潮ことばの扉 教科書で出会った名作小説一〇〇』が完成しました。

こころ」「山月記」「走れメロス」「ごんぎつね」など、1950年代から2010年代までの小学校・中学校・高校の国語教科書に収録された作品のなかから100作を選び、冒頭の400字ほどを掲載しています。書き出しを読むだけでも作品の手ざわりや教室で読んだときの気持ちが思った以上に蘇ってくるのが不思議です。学生の頃に触れた物語はそれだけ心の奥深くに根付いているのだと感じます。

 また、早稲田大学教育学部教授・近代日本文学の研究者である石原千秋氏が全作について「読みのポイント」を執筆。作品のテーマや背景、時代の移り変わりによる読まれ方の変化などについて解説していただきました。「波」4月号では元国語教師の岡崎武志氏が「これが読解を手助けするとともに、現代に生きる作品として読み直しを図っている点が素晴らしい」と絶賛なさっています。

 かつて学生だった方はもちろん、小中学生の朝の読書や、感想文の本選びにも最適な一冊。今こそ読んでおきたい教養と感動の100作にぜひ出会ってください。

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2023年04月17日   今月の1冊


 ひとつのことに集中できなくて勉強がはかどらない。
 SNSの友だちの動向が気になって仕方がない。
 趣味や遊び、やりたいことがたくさんあるのに、いつも時間が足りない。
 夜中までスマホを見てしまい、日中眠くてたまらない。

 あなたのお子さんにも、あてはまることはありませんか?

 累計99万部突破の『スマホ脳』の著者であるスウェーデンの精神科医、アンデシュ・ハンセン氏が、スマホの使いかたに悩むティーンエージャーのために、かしこいスマホとの付き合い方を伝授したのが、本書『脱スマホ脳かんたんマニュアル』です。

 そもそも人間の脳はスマホ向きにできていない「サバンナ脳」なのである、とハンセン氏は説きます。
 集中力が続かずすぐ別なことに気を取られてしまうのは、脳には、異変があるといち早くそちらに注意がいく、という習性があるから。これは原始時代、獣や敵から命を守るためには不可欠なものでした。
 SNSに夢中になってしまうのは、仲間と群れたり噂話をしたりするのが好きな脳の仕組みから。誰かと集団で暮らし、新たな情報を察知しなければ身が危険にさらされた太古の時代に役立った特性でした。

 つまり人間がスマホに囚われてしまうのは、当たり前のこと。だからこそ、人間の脳の仕組みを知って、スマホの誘惑に負けずに付き合う方法を、本書は教えています。

・勉強中はスマホを隣の部屋に置くと効率がアップする
・睡眠が記憶を定着させる
・SNSを使いすぎると幸福度が下がる
・フェイクニュースや陰謀論に翻弄されないために

 などなど、知っておきたい情報が満載です。
 タラジロウさんによるユーモラスなイラストもかわいい。保護者とお子さんとでともに読みたい、スマホを持つなら必読の一冊です。

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2023年04月17日   今月の1冊


 古今東西に「名画」と呼ばれる絵は数多ありますが、その多くにモデルがいます。ピカソには「7人のミューズ」がいたとされ、付き合う女性が変わるたびに画風が変わったと言われていますし、日本では岸田劉生が繰り返し描いた娘・麗子が有名です。また、画家とモデルの関係は異性同士に限りません。ルネサンス時代のヨーロッパでは、君主が自らの権力を示すための肖像画を画家に注文することがよくありました。この場合のモデルは画家にとって有力な顧客になるので、厳しい緊張関係をはらむものだったでしょう。

 本作『画家とモデル―宿命の出会い―』は、生涯独身を貫きつつ人知れず青年のヌードを描いた近代屈指の肖像画家ジョン・シンガー・サージェントや、身分違いの女公爵への恋文を絵に潜ませたスペインの宮廷画家ゴヤ、遺伝性疾患のために「半人半獣」と蔑まれた少女を描いたイタリアの画家フォンターナ、15年にわたり人妻と密会して描き続けたリアリズムの巨匠アンドリュー・ワイエスなど、不世出の画家たちが画布に刻みつけた、モデルとの濃厚にして深淵なる関係を読み解いた論集です。

 本書には府中市美術館での回顧展「眼窩裏の火事」も盛況だった画家・諏訪敦さんが解説を寄稿。〈巷では、「とにかく予見なしに絵を見て。感じて。好きだったらそれが貴方に用意された絵」といった、まるで画廊街のエウリアンが吐くような、感性まかせの作法が、正しい絵との向き合い方であるかのように蔓延っている。そう。戦後の日本人に実装されてきた教養は、この程度のものだったのだ。しかしながら私たちは心根ではこう思っていたはずだ。「そんないい加減な話があるものか」......だから中野京子の語りを待望する状況は、ずっと世の中に内在していたのではなかったか。豊富な表象文化の知見を備えながらも、平易な言葉で紹介する......そのなめらかさには、誰もが魅了された。彼女は「制作背景を知るともっと絵画は面白くなり、鑑賞体験も豊かにする」という、思えば至極まっとうな鑑賞の姿を広めてくれた功労者でもある〉という言葉を寄せています。本文とあわせてお楽しみください。

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2023年03月15日   今月の1冊


名探偵のいけにえ』で「2023本格ミステリ・ベスト10」ぶっちぎりの第1位を獲得し、いまミステリ界で最注目の著者、白井智之さんによる姉妹編『名探偵のはらわた』がついに文庫化されました。
 ちなみに『~いけにえ』も『~はらわた』も"姉妹編"あるいは「名探偵」シリーズと銘打っていますが、それぞれ独立した長編ミステリですので、どちらからお読みいただいてもお楽しみいただけます。
 綾辻行人氏に「鬼畜系特殊設定パズラー」の称号を与えられた著者・白井智之さんですが、「名探偵」シリーズでは、いわゆる"エロ・グロ"な要素は非常に控えめで読みやすいです。その分、二度読み必至の鮮やかな伏線回収や、緻密なロジックによる美しい多重解決といった、本格ミステリの神髄ともいうべき魅力がたっぷりと味わえるシリーズとなっております。
 ミステリ好きなら必読です。読んだら感想を言い合いたくなること必至。文庫化を機に、ぜひクセになる魅力の白井智之さんのミステリの世界をお楽しみください。

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2023年03月15日   今月の1冊


 亡き友人、高堂の家を預かる作家の綿貫征四郎。その家の周りにおこる不思議な出来事を静かにつづった梨木香歩さんの名作『家守綺譚』は、その続編である『冬虫夏草』とともに、数々のファンを生み出したベストセラーとなりました。
 この『家守綺譚』に姉妹編の作品が存在するのをご存じですか? それが今回、新潮文庫版が刊行された『村田エフェンディ滞土録』です。
 主人公は、綿貫の友人である村田。彼は考古学の勉強のため、19世紀末のトルコ、スタンブールに留学中です(エフェンディとは学問を修めた人間に対する敬称)。イギリス人のディクソン夫人が営む下宿に、同じく留学生であるドイツ人のオットー、ギリシア人のディミィトリスとともに暮らし、友情を深めていきます。村田の身の回りに起きるできごとは、『家守綺譚』同様不思議がいっぱい。異国の人々や人ならぬものとの交流しながら、学びを続ける村田でしたが、突如日本からの帰国命令が下ります。やがて、日本で暮らす村田に届いた報せとは――。

 物語の舞台は19世紀末~20世紀初頭。村田が暮らしたトルコもまた、不安定な政情にありました。やがて第一次世界大戦が勃発し、村田の友人たちも国同士の争いごとに巻き込まれていくことになります。
 美しく豊かな青春の日々と、国と国とに引き裂かれる友情。誰もが胸を打たれずにいられない結末には、号泣必至です。

 そして今回の新潮文庫版刊行にあたっては、著者によるあとがき「あの頃のこと」が付け加わりました。このあとがきを読むと、『村田エフェンディ滞土録』はいかにして書かれることになったのか、著者はどうして当時のスタンブールをこれほどリアルに描くことができたのかがわかり、ファンは必読の内容となっております。

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2023年02月15日   今月の1冊