Yonda?Mail購読者の皆さん。ゴールデン・ウィークは、満喫されましたでしょうか。東京では新緑が目映く、ハナミズキが満開です。これから見頃の花を愛で、思いのほか広い日本をたまにはじっくり旅してみるのもいいものです。そんな気持ちを誘う小説『ロスト・トレイン』(中村弦)をご紹介します。
「日本のどこかに、誰も知らない廃線跡がある。それを最初から最後までたどると、ある奇跡が起こる」。主人公の牧村は、奥多摩の廃線跡で出会った鉄道マニアの平間老人と、世代を超えて酒を酌み交わす仲になる。だが、吉祥寺の居酒屋〈ぷらっとほーむ〉で、まぼろしの廃線跡の話をしてほどなく、老人は消息を絶ってしまう。牧村は、彼を慕う〈テツ〉仲間の菜月と共に、その足跡を追って東北へと向かう。そこで、二人が見たものとは──。
2008年、『天使の歩廊―ある建築家をめぐる物語―』で、「日本ファンタジーノベル大賞」大賞を受賞、デビューした中村弦さんの2作目となります。
この小説は、次々に違う貌を見せる不思議な物語です。あらすじにも記したとおり、鉄道マニアの25歳の若者と62歳の老人との出会いから始まる。〈テツ〉でなければ置いてきぼりを食らうのではないかと躊躇するが、さにあらず。オタクの琴線をくすぐるキーワードをちりばめながらも、世代を超えた人間同士の繋がりに進んでいく。
Yonda?Mail購読者の皆さん、こんにちは。
Google検索ボックスに“なつめろ”と入力したら、検索候補に“懐メロ 90年代”と出てびっくりしました。90年代ってついこないだのように思っていたのに。世間的にはもう懐メロなのですね。まさに十年一昔。
しかし10年、20年と時が過ぎても価値を減ずることなく、それどころか新たな世代をも魅了する懐メロもあると思うのです。たとえば昨年、海外から人気に火がついた、由紀さおりさんの「夜明けのスキャット」のように。
80年代から90年代初頭のいわゆるバブルの時代、華やかな世相を背景に数多くのヒット曲が生まれました。それらの中でもひときわ輝きを放つ名曲を生み出し、時代を駆け抜けた一人のミュージシャンがいます。
その名は尾崎豊。30、40代の方にはいまさら説明する必要もないスーパースターでしょう。「I LOVE YOU」「OH MY LITTLE GIRL」「卒業」などの名曲は、今なお多くの日本人の心を捉えて離さない、まさに永遠のスタンダードです。
Yonda?Mail購読者の皆さん、こんにちは。
突然ですが、皆さんは政治家に興味がありますか?
たぶん大多数の人が自分とは無縁、まるで違う世界の住人のように思っているのではないでしょうか。そもそも選挙期間以外にご尊顔を拝見する機会もなく、普段は何をしているのかさっぱり? ましてやその秘書やスタッフにおいてをや、という感じではないですか。
今月ご紹介する『アコギなのかリッパなのか―佐倉聖の事件簿―』の主人公佐倉聖くんは、その政治の世界に身を置く大学生です。彼が中学生の弟を養うため仕えているのは、引退してもなお政界に大きな影響力を持つ大堂剛。未だに多くの政治家の後見人を務める大堂の下には、ありとあらゆる難問珍問が持ち込まれます。
そのトラブルシューターとしていろんな選挙区へ派遣されるのが、弱冠21歳の主人公佐倉聖くん。だから彼の視界には、政治家やその秘書、事務所のスタッフ、ボランティアなど、私たちがよく知らない政治の世界の住人たちが映っているのです。
海千山千の政界の住人を手玉に取り、次々と難題を解決する佐倉聖くんの活躍は本編のお楽しみ。ということで、『アコギなのかリッパなのか』に描かれた政治の世界について、著者の畠中恵さんにお伺いしてみました。
――『アコギなのかリッパなのか』をお書きになる前から、そもそも政治家や政治の世界に興味をお持ちだったのでしょうか。
畠中:政治に興味津々ということは、ありませんでした。
このお話のきっかけになったのは、近所で行われていた、地方選挙かな、と思います。
選挙期間中は、近くの商店街に選挙事務所が出来、旗を持った人達が、練り歩いてました。沢山の選挙カーも、窓の下を通って行きます。
ですが、選挙が終わると次の選挙まで、「はて、国政ではなし、何をしているのかな?」 私にはよく分かりませんでした。その疑問が、発端でしょうか。
忙しい毎日のなか、「不思議」、足りてますか? ビタミンやカルシウムと同じくらい、「不思議」は大切ですよ~。
新潮文庫今月の新刊から、「不思議」がいっぱいの2冊をご紹介します。小学生から楽しめる『シノダ! チビ竜と魔法の実』と『下町不思議町物語』。小中学生のみならず、大人が読んでも楽しい作品です。
児童書の世界で知らぬ者のない富安陽子さんの『チビ竜と魔法の実』は、「パパが人間でママがキツネ」という信田家に生まれた3人姉弟妹が冒険を繰り広げる大人気シリーズの第一弾。キツネ族の親戚たちは、信田家に次から次へと厄介ごとを持ち込みますが、一家は団結、キツネ族から受け継いだ特殊能力を生かしながら困難を乗り越えていきます。
今回の騒動のもとは、タイトルにもある通り、小さな竜=チビ竜です。想像してみてください。ある日、小さな竜が自宅のお風呂に住みついて、湯気で作った雲の巣を天井付近に漂わせ、ケケケッと笑う情景を。楽しいでしょう。でも、小さくても竜は竜。やがて成長して空にのぼっていきます。その時、信田家に何が起きるのか……、あとは読んでのお楽しみ。
子供のころ、小人(こびと)がいないか葉っぱを裏返してみたことがある人、夜中にオモチャが動いていないかこっそり起きて確認した人、魔女を探して夜空をながめた人……こんな経験のある方はぜひ読んでみてください。胸のときめきが蘇ってきます。
蘇らせるまでもなく、いまも「不思議」世界のまっただ中という方にも、もちろんお勧めです。ユイ、タクミ、モエと一緒に物語の世界を探索してください。我が家の小2もこのお話に没頭していました。もともと長風呂が好きな彼、天井にチビ竜がいる姿でも思い描いているのではないかと思います。
「父が子に語る高峰秀子」 井上孝夫
今日はちょっと、父さんの好きな女優さんの話でもしようか。
高峰秀子って、知ってるかな?
少し前に亡くなった女優さんだけど、若い子は知らないよね、きっと。
父さんは高峰秀子さんのファンなんだ。ファンだった、のじゃない。亡くなった今でも、ファンであり続けているんだ。ある意味、高峰さんは恩人だとすら思っている。
どうしてそんなにファンなのか、だって? じゃあ、高峰さんの映画との出逢いを話そうかな。あれは大学3年の夏だった。名作映画のリバイバル上映で、黒沢明監督の「生きる」が上映されていた。それを見に行ったんだ。その時2本立てで併映していたのが、「名もなく貧しく美しく」(松山善三監督=高峰さんの御主人)という映画だった。
打ちのめされた。「生きる」にではなく、「名もなく貧しく美しく」にだ。それに出ている高峰秀子さんの演技に、魂の底から打たれたんだ。人の表情というものが、こんなに心に突き刺さるものだとは考えたこともなかった。
この映画はね、耳の不自由な夫婦の話だ。戦後の荒廃した世の中を、ハンディキャップを抱えながら、貧しくも励まし合って生きてゆく夫婦の姿を描いている。当時は今より遥かに障害者に厳しい、辛い世の中だったから、それは並大抵の苦労ではなかったんだ。
いろんな困難がある。子供を産むにしても、育てるにしても、そして生きていくために働くにしても。その中でようやく育てた子供が、親を嫌って避けるようになる。