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今月の1冊


 湊かなえさんの文庫最新刊、『絶唱』が刊行されました!

 2019年「新潮文庫の100冊」のラインナップでも注目され、早速大評判となっている本作は史上最高の号泣ミステリーです!

 五歳のとき双子の妹・毬絵は死んだ。生き残ったのは姉の雪絵――。奪われた人生を取り戻すため、わたしは今、あの場所に向かう(「楽園」)。思い出すのはいつも、最後に見たあの人の顔、取り消せない自分の言葉、守れなかった小さな命。あの日に今も、囚われている(「約束」)。誰にも言えない秘密を抱え、四人が辿り着いた南洋の島。ここからまた、物語は動き始める。

 誰しもが、過去に自分がしてしまった取り返しがつかないことへの後悔を、大なり小なり胸に抱え、日々を生きているのではないでしょうか。本作で描かれる四人の女性たちもまさにそうです。湊さん自身が青年海外協力隊で赴任した南洋の島トンガを舞台に、喪失と再生を描く物語『絶唱』。心揺さぶる「号泣ミステリー」を、ぜひこの機会に。

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2019年07月17日   今月の1冊


 朝井リョウさんの直木賞受賞作『何者』は、2016年に映画化もされ、大きな注目を集めました。就職活動を目前に控えた拓人は、ルームメイトの光太郎や、偶然にも同じアパートに住んでいた理香と隆良、そして留学帰りの瑞月と、就活対策のため頻繁に集まるようになります。最初は共同戦線だったはずの5人ですが、SNSや選考で交わす言葉の奥の本音や自意識が、彼らの関係性を次第に変えてゆきます。ラスト30頁は衝撃の連続! まだお読みでない方はぜひご一読下さい。

 そして、『何者』の登場人物たちの知られざる過去や未来を描く6編を収めた『何様』が、このたび新潮文庫より発売されました。
 
 光太郎の初恋の相手は? 理香と隆良が知り合ったきっかけとは。社会人になったサワ先輩。烏丸ギンジのその後。瑞月の父親に起こったある出来事とは――。

 そして表題作の「何様」にネット通販の会社の面接を受けた男子学生の入社後の姿が描かれます。『何者』では選考される側だった克弘は人事部に配属され、選考する側の立場に。

 他人を選考するなんて、何様のつもりなんだろう。

 どうしてもその思いが拭えない克弘は、戸惑いながら、葛藤しながら、仕事を進めていきます。そしてもう一つ、克弘には自分に問い続けていることがあり......。

 年齢も立場も、「大人」と呼ばれるような存在に近づいていくのに、自覚や態度が追いつかないジレンマや焦りが丁寧に細やかに描かれています。「大人」に反発する人に、「大人」になれないと感じている人に、そして「大人」である自分を受け入れた人に、ぜひとも読んでいただきたい作品です。

 文庫化にあたって、オードリーの若林正恭さんに解説をお寄せいただきました。「中年」になった自分を受けとめる覚悟に胸打たれる、素晴らしい解説です。

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2019年07月17日   今月の1冊


 主人公の富山とみやまは、彼女との間に起きた問題からトラブルに巻き込まれた。そのため、大学を休学し、実家を離れ、期間限定の自立を始める。接触恐怖症という、他人にはなかなか理解されない体質を抱え葛藤するも、相変わらず人間関係は苦手なまま。深夜ラジオを心の拠り所とし、「アルコ&ピースのオールナイトニッポン」に投稿を続けるハガキ職人でもある。しかし、コンビニでバイトをするうち、チャラい見掛けによらずバイトリーダーとして仕事をこなす鹿ざわや、同じラジオ番組のヘビーリスナーらしい女子高生の佐古田さこだと親しくなり、世界が鮮やかな色を取り戻していく。

 SNSやネットの中では繋がっていても、現実の距離のとり方が難しいと感じる人は多い。佐藤さんの作品には、どこか不器用な一面を持つ登場人物が描かれることが多い。そして、最後のページを読み終えたとき、その背中をそっと後押ししてくれる温かさが、そこにはある。『明るい夜に出かけて』は、『しゃべれども しゃべれども』『黄色い目の魚』『サマータイム』『一瞬の風になれ』などの代表作に続く、青春小説の傑作です!

 また、「波」5月号にて、上橋菜穂子さんとの「作家生活三十周年記念対談 『原点』そして『これから』」が掲載されています。デビュー作『サマータイム』が生まれたエピソードなど、物語に籠めた思いを語っていただきました。

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2019年05月15日   今月の1冊


「守り人」シリーズほか多くの作品で大人気の上橋菜穂子さんは、今年で作家生活30周年を迎えました。デビュー作『精霊の木』が、ついに文庫化。発売からたちまち重版となりました。

 この物語は、環境破壊のために地球が滅亡し、人類が移住した星を舞台に展開するSF小説です。ナイラ星に住むシン少年と従妹のリシアは、失われた〈精霊の木リンガラー・ホウ〉を求めて、異世界からこの地を目指す〈黄昏の民〉の存在を知る。そして、闇に葬られた過去の歴史と、現代に潜む謎の真相を追い求め、旅立つ二人の運命は――。

 本書は、上橋さんのその後の作品に繋がる「萌芽」を感じる瑞々しい物語です。平成元年に出版された作品が、30年の時を経て令和元年に文庫化となりました。デビュー当時を振り返った文庫版あとがきも収録。

 また、「波」5月号にて、佐藤多佳子さんとの「作家生活三十周年記念対談 『原点』そして『これから』」が掲載されています。物語との関わり、『精霊の木』が生まれるまで、そして今日に繋がる道のりを深く語り合っていただきました。

 野間児童文芸賞、産経児童出版文化賞、国際アンデルセン賞、本屋大賞、医療小説大賞など多くの賞を受賞され、ファンタジー小説を代表する作家である上橋菜穂子さんの活躍から目が離せません。

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2019年05月15日   今月の1冊

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垣谷美雨/著 『うちの子が結婚しないので』
発売直後からノンストップ大重版中! 話題の新刊をご紹介します。
その名も、垣谷美雨著『うちの子が結婚しないので』。


 昨年、野村周平さん主演でドラマ化した『結婚相手は抽選で』や、23万部突破(今年1月時点)の『老後の資金がありません』、それに続きヒット中の『夫の墓には入りません』など、社会派エンターテイメント小説の旗手である、垣谷さんの文庫オリジナル最新刊です。

 本作のテーマは「親婚活」。
 それは、親同士が未婚の子供の身上書を持ち寄り、代理でお見合いをするもの。昨今話題のこの婚活に家族一丸となって挑む様を、アラサーの娘を持つ母・千賀子の視点から描きます。

 60代目前の千賀子が自分たち夫婦の老後の準備を考えた時、まず不安になったのが娘の将来でした。28歳独身、彼氏がいた気配もありません。女性向けアパレル会社に勤務し疲労困憊で帰宅する毎日で、出会いの機会もなかなかないようです。
 千賀子と夫のフクちゃんが娘に結婚を望むのは、世間体などではなく、「自分たちが亡くなった後に不安で孤独な人生を送らないでほしい」という一心から。娘を説得し、千賀子一家は親婚活を始めます。
 しかし、そこで待ち受けていたのは想像を超える衝撃でした。
 外見や年齢、学歴、職業、年収など、容赦なく「条件」で値踏みされ、時に娘の全人格が否定されるようなサバイバル婚活に、一喜一憂しながら挑みます。

 果たして、娘の良縁は見つかるのか――。結婚とは、家族とは、今の世の幸せとは、親が子供のためにできることとは。現代に問いかける小説です!
 

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2019年04月15日   今月の1冊