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新潮文庫メールマガジン アーカイブス


「ネタバレ厳禁」

 煽り文言でよく使われる言葉ですが、本作『世界でいちばん透きとおった物語』でもオビに大きくこの文言を記載しています。それは、緻密に練られた本作最大の「仕掛け」を最大限に楽しんでいただきたいからです。

 急死したミステリ作家である実父への複雑な感情や、女性編集者に対するほのかな恋心など、主人公燈真が様々な想いを抱えながら『世界でいちばん透きとおった物語』というタイトルの遺稿を探す、心に染みる穏やかなミステリです。

 発売前にプルーフを読んでいただいた書店員様や、既に作品を読んでいただいた方々を中心に、早くもSNSなどで話題沸騰。小説紹介クリエイターのけんご氏からも絶賛いただいています。

「ネタバレ厳禁」の期待を裏切らない、今まで経験したことがないような読書体験になること間違いなしの本作をぜひお楽しみください。

※本作は電子での販売はなく、紙の本のみの販売となりますのでご注意ください。

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2023年05月15日   今月の1冊


 坂本龍一さんが57歳までの音楽家人生のすべてを語った『音楽は自由にする』の文庫版を刊行しました。編集がすべて終わり、印刷に着手しようかというところで、坂本さんは旅立ってしまいました。

 本書の編集担当者は文庫版の準備を始めますというご報告をする際に、はじめてお目にかかることができました。別れ際に「それじゃ、よろしくね」とかけて下さった声の響きがいつまでも耳に残っています。気のおけない仕事仲間に挨拶するようなトーンで、世界的な音楽家を目の前にした緊張がほぐれました。

 本書の装幀には楽譜と「音楽は自由にする」を意味するドイツ語がレイアウトされていますが、いずれも坂本さんの自筆によるものです。坂本さんの数多ある作品のひとつに相応しいデザインになっていると思います。

 刷り上がった文庫版を坂本さんにお届けすることは叶いませんでしたが、坂本さんの愛した「Ars longa, vita brevis」(芸術は長く、人生は短し)という言葉の通り、開けばいつでも著者の考えに触れることのできる本もまた、長く残るものです。ぜひ手にとっていただければと思います。

 57歳からご逝去の直前までが明かされた、本書の続編にあたる『ぼくはあと何回、満月を見るだろう』は6月21日に刊行されます。あわせてご注目ください。

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2023年05月15日   今月の1冊


 新潮文庫では、2014年に「新潮ことばの扉」というシリーズを立ち上げ、『新潮ことばの扉 教科書で出会った名詩一〇〇』を第一作目として刊行しました。その後も、『新潮ことばの扉 教科書で出会った名句・名歌三〇〇』『新潮ことばの扉 教科書で出会った古文・漢文一〇〇』と続き、今回シリーズ最終巻となる『新潮ことばの扉 教科書で出会った名作小説一〇〇』が完成しました。

こころ」「山月記」「走れメロス」「ごんぎつね」など、1950年代から2010年代までの小学校・中学校・高校の国語教科書に収録された作品のなかから100作を選び、冒頭の400字ほどを掲載しています。書き出しを読むだけでも作品の手ざわりや教室で読んだときの気持ちが思った以上に蘇ってくるのが不思議です。学生の頃に触れた物語はそれだけ心の奥深くに根付いているのだと感じます。

 また、早稲田大学教育学部教授・近代日本文学の研究者である石原千秋氏が全作について「読みのポイント」を執筆。作品のテーマや背景、時代の移り変わりによる読まれ方の変化などについて解説していただきました。「波」4月号では元国語教師の岡崎武志氏が「これが読解を手助けするとともに、現代に生きる作品として読み直しを図っている点が素晴らしい」と絶賛なさっています。

 かつて学生だった方はもちろん、小中学生の朝の読書や、感想文の本選びにも最適な一冊。今こそ読んでおきたい教養と感動の100作にぜひ出会ってください。

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2023年04月17日   今月の1冊


 ひとつのことに集中できなくて勉強がはかどらない。
 SNSの友だちの動向が気になって仕方がない。
 趣味や遊び、やりたいことがたくさんあるのに、いつも時間が足りない。
 夜中までスマホを見てしまい、日中眠くてたまらない。

 あなたのお子さんにも、あてはまることはありませんか?

 累計99万部突破の『スマホ脳』の著者であるスウェーデンの精神科医、アンデシュ・ハンセン氏が、スマホの使いかたに悩むティーンエージャーのために、かしこいスマホとの付き合い方を伝授したのが、本書『脱スマホ脳かんたんマニュアル』です。

 そもそも人間の脳はスマホ向きにできていない「サバンナ脳」なのである、とハンセン氏は説きます。
 集中力が続かずすぐ別なことに気を取られてしまうのは、脳には、異変があるといち早くそちらに注意がいく、という習性があるから。これは原始時代、獣や敵から命を守るためには不可欠なものでした。
 SNSに夢中になってしまうのは、仲間と群れたり噂話をしたりするのが好きな脳の仕組みから。誰かと集団で暮らし、新たな情報を察知しなければ身が危険にさらされた太古の時代に役立った特性でした。

 つまり人間がスマホに囚われてしまうのは、当たり前のこと。だからこそ、人間の脳の仕組みを知って、スマホの誘惑に負けずに付き合う方法を、本書は教えています。

・勉強中はスマホを隣の部屋に置くと効率がアップする
・睡眠が記憶を定着させる
・SNSを使いすぎると幸福度が下がる
・フェイクニュースや陰謀論に翻弄されないために

 などなど、知っておきたい情報が満載です。
 タラジロウさんによるユーモラスなイラストもかわいい。保護者とお子さんとでともに読みたい、スマホを持つなら必読の一冊です。

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2023年04月17日   今月の1冊


 古今東西に「名画」と呼ばれる絵は数多ありますが、その多くにモデルがいます。ピカソには「7人のミューズ」がいたとされ、付き合う女性が変わるたびに画風が変わったと言われていますし、日本では岸田劉生が繰り返し描いた娘・麗子が有名です。また、画家とモデルの関係は異性同士に限りません。ルネサンス時代のヨーロッパでは、君主が自らの権力を示すための肖像画を画家に注文することがよくありました。この場合のモデルは画家にとって有力な顧客になるので、厳しい緊張関係をはらむものだったでしょう。

 本作『画家とモデル―宿命の出会い―』は、生涯独身を貫きつつ人知れず青年のヌードを描いた近代屈指の肖像画家ジョン・シンガー・サージェントや、身分違いの女公爵への恋文を絵に潜ませたスペインの宮廷画家ゴヤ、遺伝性疾患のために「半人半獣」と蔑まれた少女を描いたイタリアの画家フォンターナ、15年にわたり人妻と密会して描き続けたリアリズムの巨匠アンドリュー・ワイエスなど、不世出の画家たちが画布に刻みつけた、モデルとの濃厚にして深淵なる関係を読み解いた論集です。

 本書には府中市美術館での回顧展「眼窩裏の火事」も盛況だった画家・諏訪敦さんが解説を寄稿。〈巷では、「とにかく予見なしに絵を見て。感じて。好きだったらそれが貴方に用意された絵」といった、まるで画廊街のエウリアンが吐くような、感性まかせの作法が、正しい絵との向き合い方であるかのように蔓延っている。そう。戦後の日本人に実装されてきた教養は、この程度のものだったのだ。しかしながら私たちは心根ではこう思っていたはずだ。「そんないい加減な話があるものか」......だから中野京子の語りを待望する状況は、ずっと世の中に内在していたのではなかったか。豊富な表象文化の知見を備えながらも、平易な言葉で紹介する......そのなめらかさには、誰もが魅了された。彼女は「制作背景を知るともっと絵画は面白くなり、鑑賞体験も豊かにする」という、思えば至極まっとうな鑑賞の姿を広めてくれた功労者でもある〉という言葉を寄せています。本文とあわせてお楽しみください。

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2023年03月15日   今月の1冊