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新潮文庫メールマガジン アーカイブス

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 2019年で最も注目されたゲームタイトルが小島秀夫監督最新作ゲーム「DEATH STRANDING」であることは疑いようのないことですが、こちらを完全ノベライズした小説が新潮文庫nexで発売されました。
 死者が生者を呑み込み、やがて絶滅へ至らしめる謎の現象「デス・ストランディング」によって崩壊した国家。ゲームではノーマン・リダース演じる主人公のサム・ポーター・ブリッジズは、死者の世界から帰還する特殊能力を持ち、分断され孤立して生きる人々の間を行き来する「伝説の配達人」として、育ての親である合衆国最後の大統領・ブリジッドからアメリカを再建する任務を託される――。
 原稿用紙1000枚近い大ボリュームで綴られた本作はかなりゲームに忠実に作られていますが、ゲームでは知り得なかった配達を待つ側の人々の思いや、過去などが加わっており、プレイした人が読めば思わず「そうだったのか!」と膝を叩きたくなること請け合いです。
 2月には映画やゲームの特装版パッケージとして使用されるスチールブックを世界で初めて本を封入する形で形成した特装版『デス・ストランディング ノベライズ スチールブック(R)エディション』が発売されます。ゲーム本体のスチールブックと並べて飾って楽しんでいただきたいです。

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2019年12月15日   今月の1冊


 もうすぐクリスマスですね! 大人になってもクリスマスは楽しみなものです。サンタさんはさすがにもう来てくれませんが(涙)、そういえばあのサンタさん、真っ白なひげをたくわえたおじいさんの姿でイメージしますが、一体どういう人なんだろうと思ったことはありませんか? 『オズの魔法使い』の作者として知られるアメリカの作家ボームが、そのサンタさんの少年時代を描いた作品を刊行しました!

 物語は、不死の妖精たちだけが暮らす「バージーの森」に一人の赤ん坊が迷いこむところから始まります。赤ん坊は「クロース」と名づけられて、妖精たちに温かく見守られながらすくすくと育ちますが、ある時バージー森の主人で、世界中の木こりたちの長(おさ)である「アーク」に連れられ、人間たちの厳しい暮らしぶりを知ることになります。クロースは自らの同胞たちに寄り添うように生きることを決意し、森を出ていきます。森の外では、妖精たちに助けてもらいながら木彫りのおもちゃを作って子どもたちを喜ばせる日々が始まりますが、人間の世界には、人間には姿の見えない怪獣「オーグワ」が跋扈しており、クロースや子どもたちに意地悪をするのです。クロースはオーグワたちとの戦いに挑みますが......(ここから先は読んでのお楽しみ!)。小さな赤ん坊だったクロースが、世界中の子どもたちに夢を与える「サンタクロース」になるまでを描いた、心温まる児童書です。

 本書の装幀と挿絵は矢部太郎さんにお願いしました。大家さんとの心温まる交流を描いたコミック・エッセイ「大家さんと僕」シリーズが累計100万部を突破、さらに手塚治虫文化賞短編賞、「ダ・ヴィンチ」ブックオブザイヤー2018、オリコン年間BOOKランキング・タレント&コミックエッセイ2018第1位の三冠を達成するなど、2018年の出版界の話題を独占しました。本書にも超絶キュートな表紙絵のほか、赤ん坊のクロースが白いひげをたくわえたサンタクロースに成長するまでの各場面の挿絵を描いてもらいました。ぜひ手にとってみてください! クリスマス・プレゼントにぴったりな一冊になっています。

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2019年12月15日   今月の1冊


 ゲームファンならおそらく誰しもが知っているであろう、天才ゲームクリエイター、小島秀夫。名前を知らない人も「メタルギア」「メタルギア ソリッド」というゲームタイトルを聞いてピンと来る人は多いはず。このゲームシリーズの立ち上げは、彼がコナミに入社した2年目の仕事とのことで、実に恐れいります。
 独立して最初のタイトルである「DEATH STRANDING」の発売は11月8日で、今年一番の注目作であることは間違いありません。(11月28日には、新潮文庫nexでそのノベライズ版も発売されます)
 そんな小島秀夫氏のたぐいまれなる創作力の根源は一体どこにあるのでしょう。
 本書を紐解けば、彼がどれだけ本を愛し、本屋へ通うことを日課とし、自分とは違うフィールドで戦うクリエイターたちの創作物を尊敬しているかがひしひしと伝わります。このように創作物を愛する人だからこそ、才能の頂に登ったのかと感動することひとしおです。現在の本好きの人はもちろん、かつて本好きだった人、仕事の忙しさや生活に追われて「何かを楽しむ」ということの素晴らしさを忘れてしまったような気がする人......。是非、本書で天才の発する熱量に触れてみてはいかがでしょうか。  音楽家、俳優と様々なジャンルで活躍する星野源氏との対談も巻末に掲載しています。

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2019年11月15日   今月の1冊


 TBSラジオ「問わず語りの松之丞」や、テレビ朝日系列「松之丞カレンの反省だ!」などメディアで最近よく見る神田松之丞さん。聞けば、嵐の松本潤さん、ジブリの鈴木敏夫プロデューサー、シンガーソングライターの椎名林檎さんなど、ファンを公言する著名人もたくさんいるそう。
 毒舌冴えわたるキャラクターもさることながら、一級品の話芸で快進撃を続け、未来の人間国宝との呼び声も高い講談師です。

「講談ってよくわからない」そんな方がほとんどだと思います。
 しかし「古典芸能ってつまらなさそう......」そんな人たちが松之丞さんをきっかけに、講談の沼にはまっています。

 かつて、落語を凌ぐほどの人気を誇った講談は、落語が架空のストーリーを語るエンタテイメント小説なら、実際に起きた事件などを題材に語るノンフィクションもの、といった説明をされることの多い話芸。
 一見地味にも見えるこの講談に今、異変が起きています。松之丞さんの出演される公演はチケットが軒並み即日完売。誇張なく、いま、最もチケットが取れない人なのです。

 前座→二ツ目→真打と昇進していくなか、二ツ目にしてここまで登りつめた彼の半生を自ら語り、杉江松恋さんがまとめたのが新潮文庫より発売中の『絶滅危惧職、講談師を生きる』です。
 ほかでは語られなかった生い立ちのこと、思春期のこと、古典芸能との出会い、そしてなぜ滅びかけの芸に惹かれ、神田松鯉への入門を決めたのか――。
 天才の光と闇が詰まった本書を読めば、新しいことを成し遂げる者の尋常ならざるたくらみと志にしびれます。
 来たる2020年2月11日に、真打へのスピード昇進、および「神田伯山」という大名跡を襲名することが決まった松之丞さん。長い講談の歴史のなかでこれがいかに重要な出来事なのか、長井好弘さんの寄稿も収録した文庫は、真打昇進への覚悟溢れる一冊です。

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2019年11月15日   今月の1冊


 何をバカな質問を、と思われた方も多いでしょうが、ある調査によると今や20代女性の半数以上が「忠臣蔵」を知らないと答えたそうです。10代となると男性でも認知度が3割を切るそうで(10代女子は2割以下!)、「え!? そうなの!?」と思われた方、年齢がバレますね。
 今の若者は教養がない! などという話ではないのです。「忠臣蔵」はかつては毎年のように新作映画や舞台、ドラマが公開されていた"日本人なら知らぬ者はない"年末エンタテインメントの大定番でしたが、なにせここ何年も新作がありません。若い人が知らないのも無理はないのです。
 登場人物が多いため、きらびやかなスター勢揃いの豪華な作品が作りやすいものの、ストーリーは知り尽くされています。新味を出すのが難しいですから、新作が出ないのも無理はない......と思いきや。
 この年末には大作映画が登場します。その切り口とは、

 ――「忠臣蔵」で仇討ちした人たちはお金、どうしてたの?

 前置きが長くなりましたが、それが『決算!忠臣蔵』です。主演は堤真一にナインティナインの岡村隆史。豪華俳優陣は 映画HP をご覧頂くとして、切り口も斬新ですが、全編関西弁の忠臣蔵は異色です。脚本を書いた中村義洋監督自ら筆を執り、今月、新潮文庫より小説版が刊行されました。
 御存知の方には不要の説明ですが、史実で言う「赤穂事件」は1701年(元禄14年)、江戸城・松の廊下で赤穂藩・浅野内匠頭(たくみのかみ)が高家筆頭・吉良上野介(きら・こうずけのすけ)に斬りつけるという刃傷沙汰が発端。ここから始まる事件を美談に仕立てたのが歌舞伎の「仮名手本忠臣蔵」です。
 この事件、吉良にはなんのお咎めもありませんでしたが、幕府が下した処分は浅野内匠頭は切腹、赤穂藩は御取り潰しというもの。「喧嘩両成敗」じゃなかったの? お家再興も却下? それはあんまりでは? と立ち上がった浅野家の家臣だった大石内蔵助(くらのすけ)以下、浪人47人が年も押し詰まった12月14日、雪が降りしきる中、吉良上野介を討って主君の仇を討ち、彼ら自身は粛々と切腹して果てました――この筋立てが日本人のハートを鷲づかみにしたのでした。
 しかし――お金はどうしてたんだ?
 という点に着目したのが東大史料編纂所の山本博文教授。『「忠臣蔵」の決算書』(新潮新書)という本を著したのですが、これを原作としたのが『決算! 忠臣蔵』というわけです。つまり、史実をかっちりと踏まえ、その上で、エンタテインメントに仕上げたのが本作というわけです。
 考えてみるまでもなく、討ち入るには刀や槍や鎖帷子が必要です。その費用は? 情報収集のためには目標の近辺に家を借りなければなりません。家賃がかかります。赤穂から江戸に行くには旅費だって必要です。そもそも、主家の御取り潰しから討ち入りまでの1年9ヶ月、生活費はどうしていたんでしょう。
 赤穂藩の家老だった大石内蔵助(堤真一が演じます)がすべてを束ねなければなりませんでした。お金の管理をしていたのは勘定方の矢頭長助です(岡村隆史が演じます)。彼らが実際にやったことと、その心労とは。予算内で仇討ちは果たせるのか?
 映画は11月22日公開予定です。
 映画の前に読んでも後に読んでも大丈夫、愉快でありながら、日本人としての魂が揺さぶられる一冊になっています。

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2019年10月15日   今月の1冊