1979年、『非合法員』で作家としてデビュー。以降、日本の冒険小説をリードし続けてきた、船戸与一さん。早大探検部で鍛えたフットワークで、アジア、アメリカ、アフリカ……、世界各地を精力的に取材、さまざまな小説を世に送り出しました。苛烈なほどのリアリズムと浪漫をあわせもった作風から、「唯一無二の作家」という評価を受け、熱烈な読者を有しています。
船戸さんが最後に挑んだのは、アジア近代史に巨大な存在感を示す「満州国」。中国東北地方に日本人が建てた、空前絶後の巨大国家です。関東軍により起こされた満州事変の翌年、1932年3月1日、長春改め新京を首都として、元首に清朝最後の皇帝・愛新覚羅溥儀を据え、この国は建国されました。
「王道楽土」「五族協和」をスローガンとした満州国では、軍人、民間人、農業移民などを合わせ、最終的に、200万人以上の日本人が暮らしました。1945年8月、大日本帝国の崩壊を受けて、ソ連赤軍の猛攻が始まります。
満州国は大量の犠牲者を道連れにその短い生涯を終えました。
建国前夜から崩壊までを描くにあたり、船戸与一さんは旧満州国の版図たる地域を1か月間かけて取材、その上で、何百冊もの資料を渉猟読破されました。
そして、この大河小説を描くにあたり、著者自身と同じく長州にルーツを持つ四兄弟の四視点から描いてゆくことを決めたのです。
奇兵隊の一員として維新に貢献、西南戦争でも軍功を成したため、明治政府に取り立てられた祖父は、鍋島藩元家老の息女と結婚しました。その子息として育ち、建築学の権威として名を馳せた父のもとに生まれたのが、本書の主人公である敷島四兄弟。彼らは、いわば新興エリート層に属するのですが、それぞれ全く異なる人生を歩んでゆきます。
奉天総領事館に勤務する外交官、敷島太郎。
大陸に流れ着き、満蒙の地で馬賊の長となった、敷島次郎。
次第に策謀に関わってゆく陸軍将校、敷島三郎。
左翼思想に共鳴する、理想主義の早大生、敷島四郎。
時代の激流の中、四人はどう生きるのか――。
それがこの物語を貫く柱です。
数年間にわたる癌との闘病を続けながら、船戸さんはこの作品を完結させました。そして、直後の2015年4月、その生涯を閉じられました。
日本エンターテインメント小説界に屹立する歴史大河小説。その「目撃者」にぜひなっていただきたい。作品創生に立ちあった編集者のひとりとして、そう願ってやみません。
2015年8月新刊(発売中)
『風の払暁―満州国演義一―』
9月新刊
『事変の夜―満州国演義二―』
10月新刊
『群狼の舞―満州国演義三―』
2016年1月新刊
『炎の回廊―満州国演義四―』
2月新刊
『灰塵の暦―満州国演義五―』
3月新刊
『大地の牙―満州国演義六―』
6月新刊
『雷の波濤―満州国演義七―』
7月新刊
『南冥の雫―満州国演義八―』
8月新刊
『残夢の骸―満州国演義九―』(最終巻)