霞が関埋蔵金
748円(税込)
発売日:2009/09/17
- 新書
- 電子書籍あり
毎年、10兆円は余っている。20兆円は取り崩せる。官僚の論理に騙されるな!
政治論争のテーマとなって、すっかり有名になった国の特別会計に眠る金、霞が関埋蔵金。実際、どれだけの資産が眠り、毎年どれくらいのお金が積み上がっているのだろう? そして、結局どれだけのお金が使えるのだろうか? 「お役所用語」と「省益」に彩られた膨大なデータの裏側を、経験豊富な経済記者が懇切丁寧に読み解き、独自の試算を提示する。
目次
まえがき
第一章 そもそも霞が関埋蔵金とは何か
埋蔵金の定義/名付け親は自民党「財政再建派」/特別会計予算は一般会計の4倍/主計官はほとんどノーチェック/「離れですき焼き」の一覧表/大蔵省が増やしたくなくても……/日本の特別会計は主要国で最大/4年で38兆円を発掘
第二章 霞が関埋蔵金論争の経緯
存在は証明されたが……/特別会計からの財源確保を訴えた民主党/埋蔵金をあっさり認めた財務省/景気対策の財源として再浮上/与謝野馨氏の苦しい国会答弁
第三章 大規模発掘現場その一、財政投融資特別会計
一般会計に使われる金利変動準備金/財政投融資とは/2001年度に抜本改革/コロコロ変わる「必要水準」/法律改正で一般会計に繰り入れられる/「便利使い」される金利変動準備金/それでも変わらない「必要水準」
第四章 大規模発掘現場その二、外国為替資金特別会計
金利収入が毎年数兆円/赤字になったのはわずか2回/そもそも外為特会に積立金は必要なのか?
第五章 改革と骨抜きの歴史は繰り返す
政府見解は「改革はもう終わった」/本格的な見直し開始は2003年/05年12月の合理化計画案/統合しても中身そのまま/民主党も対案/会計検査院も埋蔵金を認定/中途半端に終わった改革
第六章 ストックの問題 積立金205兆円は多すぎる?
18年で120兆円以上増加/特別会計の積立金残高一覧/205兆円は多いのか少ないのか/地震再保険とエネルギー対策の「適正規模」/国債整理基金特会/「ため込みすぎ」の労働保険特会/ずさんな年金特会/ソルベンシーマージン比率/「特別会計の資産は自分で計算して下さい」
第七章 フローの問題 毎年いくらもうかっているのか
毎年の剰余金は30~50兆円/特別会計ごとの剰余金/歳入繰り入れの内訳/財務省がこっそり公表していた「純剰余金」/一般会計でも純剰余金が発生/一般会計への繰り入れに消極的な霞が関/まともに公表されてこなかった特会の決算/省庁ごとに対応がバラバラ/剰余金は、決算では予算より15兆円も多い
第八章 結局、埋蔵金はいくらあるの?
ストックで見るか、フローで見るか/毎年10兆円は余っている?/200兆円超のうち、どれくらい取り崩せるか/特会に私たちが払っているお金
あとがき
書誌情報
読み仮名 | カスミガセキマイゾウキン |
---|---|
シリーズ名 | 新潮新書 |
発行形態 | 新書、電子書籍 |
判型 | 新潮新書 |
頁数 | 192ページ |
ISBN | 978-4-10-610329-2 |
C-CODE | 0231 |
整理番号 | 329 |
ジャンル | 経済学・経済事情 |
定価 | 748円 |
電子書籍 価格 | 660円 |
電子書籍 配信開始日 | 2012/05/25 |
蘊蓄倉庫
「必要水準」にご用心
国の特別会計の中には、積立金の「必要水準」を設定しているところがあります。代表的な埋蔵金発掘現場である外国為替資金特別会計(外為特会)では、含み損が発生した場合に備え、総資産の100分の30を積み立てる、とされています。現在の外貨資産の総額はおよそ1兆ドルなので、1ドル100円とすれば、積立金の必要水準は30兆円程度ということになります。現在の水準は20兆円程度なので、財務省は「だからまだ足りない」と言っています。
しかし、本当にこの積立金が必要かというと、極めて疑問です。外為特会は、外為市場での外貨売買を行うのに必要な資金を区分して管理するためのものですが、含み損が発生するのは円高が進んだとき。日本では円安の方が歓迎されますから、円高が進んだら「ドル買い」介入を行います。円高時に、安くなったドルをわざわざ売って損を確定してしまい、さらに円高を進ませるようなことは国策としてやりません。
また、年度ベースの決算を見ても、戦後はほぼ一貫して米国の市場金利の方が日本の市場金利よりも高いので、外為特会は黒字基調。財務省によると、1951年以降で外為特会が赤字になったのは2回(しかも58年度の1億円と59年度の2億円!)しかないそうです。
つまり、「外為特会の積立金は全額取り崩しても構わない」という結論が出てきます。特別会計の中には、積立金の必要水準を明示していないところも多くありますが、そんなところの積立金は全額取り崩し、明示している特別会計についても「本当に必要なのか」を再検討する必要があるでしょう。財政の危機的な状況が続いている中で、「役所の論理」を鵜呑みにするのは危険です。
国の特別会計の中には、積立金の「必要水準」を設定しているところがあります。代表的な埋蔵金発掘現場である外国為替資金特別会計(外為特会)では、含み損が発生した場合に備え、総資産の100分の30を積み立てる、とされています。現在の外貨資産の総額はおよそ1兆ドルなので、1ドル100円とすれば、積立金の必要水準は30兆円程度ということになります。現在の水準は20兆円程度なので、財務省は「だからまだ足りない」と言っています。
しかし、本当にこの積立金が必要かというと、極めて疑問です。外為特会は、外為市場での外貨売買を行うのに必要な資金を区分して管理するためのものですが、含み損が発生するのは円高が進んだとき。日本では円安の方が歓迎されますから、円高が進んだら「ドル買い」介入を行います。円高時に、安くなったドルをわざわざ売って損を確定してしまい、さらに円高を進ませるようなことは国策としてやりません。
また、年度ベースの決算を見ても、戦後はほぼ一貫して米国の市場金利の方が日本の市場金利よりも高いので、外為特会は黒字基調。財務省によると、1951年以降で外為特会が赤字になったのは2回(しかも58年度の1億円と59年度の2億円!)しかないそうです。
つまり、「外為特会の積立金は全額取り崩しても構わない」という結論が出てきます。特別会計の中には、積立金の必要水準を明示していないところも多くありますが、そんなところの積立金は全額取り崩し、明示している特別会計についても「本当に必要なのか」を再検討する必要があるでしょう。財政の危機的な状況が続いている中で、「役所の論理」を鵜呑みにするのは危険です。
掲載:2009年09月25日
著者プロフィール
菅正治
スガ・マサハル
1971(昭和46)年生まれ。時事通信記者。慶応義塾大学商学部卒業後、時事通信社に入社。経済部で財務省、農水省などを担当した後、2014年3月〜2018年2月シカゴ支局勤務。同年3月からデジタル農業誌Agrio編集長。著書に『霞が関埋蔵金』。
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