凍った地球―スノーボールアースと生命進化の物語―
1,320円(税込)
発売日:2009/01/23
- 書籍
マイナス50℃、赤道に氷床。その時、生物はどう生き残ったのか?
地球はかつて、現代の温暖化とは比較にならないほどの気候変動を経験した。中でも、数百万年にわたり凍りついていたという「全球凍結仮説」は最も衝撃的だ。厳寒がもたらしたものとは? 大気の変化、温暖化プロセス、プレートテクトニクス、太陽の影響、生物進化など、様々な角度から、コペルニクス以来の大仮説が証明されていく。
書誌情報
読み仮名 | コオッタチキュウスノーボールアーストセイメイシンカノモノガタリ |
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シリーズ名 | 新潮選書 |
発行形態 | 書籍 |
判型 | 四六判変型 |
頁数 | 200ページ |
ISBN | 978-4-10-603625-5 |
C-CODE | 0344 |
ジャンル | 地球科学・エコロジー |
定価 | 1,320円 |
書評
「地球が凍った」という事実に凍える
地球は海に覆われ、温暖湿潤で安定した気候をもつ。従って生命にとって住みやすい惑星である。しかもそれが、地球誕生以来続いている環境だと、誰しもが当たり前のように信じている。だからこそ、その環境が少しでも変化すると、とんでもない天変地異が起こったかのように反応するのだろう。加えて、その原因が我々の現在のような生活の結果だとすればなおさらである。
しかし、地球がその歴史を通じて、そのような安定した環境を維持してきたという事実はそもそもない。地球環境はふらふらと、大小さまざまな変動を繰り返している。例えば、現在、地球は間氷期と呼ばれる温暖な気候状態にあるが、それは高々、最近の一万年くらいのことで、もっと長い時間スケールで見れば氷河期の真只中にいる。数万年とかの時間スケールで見れば、地球は確実に氷期という気候状態に変化する。ただし、もし我々が、もっと激しい気候変化の引き金を引かなければの話であるが。
地球環境問題とは、人間と地球との、関係性についての問題である。人間についても、地球についても、深い知識と洞察があって初めて、その本質に迫ることができる。しかし現実には、今我々が地球システムの中に築き、そこで生きている、人間圏(従来使われている用語で近いものを探せば世間)の内部システムにしか関心がないような人たちが、その専門家として地球環境問題を語り、解決を担おうとしている。私の知る限り、彼らの多くは、地球や人間とは何か、あるいはそれらの歴史について、ほとんど基礎知識に欠けている。
そのような人たち、あるいはそうしたマスコミの扇動に酔っているような人たちに、是非読んでもらいたい本が出版された。地球がかつて、一〇〇万年くらいという地球史としてはきわめて短い期間に、一〇〇度以上にも及ぶ気温変化を経験した、という事実を紹介した本である。それが明らかにされたのは、ここ一〇年くらいのことに過ぎない。著者は自らもその研究を進め、世界を飛び回っている、まさに最前線に立つ少壮気鋭の研究者である。
原生代前期に一回、原生代後期に二回、地球が凍りついた(スノーボールアース)事実が明らかにされる過程を、自らの体験を踏まえながら、丹念に紹介する。一方で、地質学的事実とその物理学的解釈が、詳しく解説される。読者はその展開に思わず引き込まれるだろう。そんな地球史における重要な事実が、今まで明らかにされなかったということに驚く人も多いだろう。若い読者のなかには、自らその探求過程に加わりたいという情熱を抱く人もいるかもしれない。
宇宙に目を転じると、むしろ凍りついたスノーボール状態の地球こそ、生命の惑星として普遍性があるかもしれない。話はこれからの学問の発展性にまで膨らみ、興味は尽きない。
(まつい・たかふみ 地球物理学者、比較惑星学者、東京大学大学院教授)
波 2009年2月号より
担当編集者のひとこと
凍った地球―スノーボールアースと生命進化の物語―
今、サイエンスの世界で最もエキサイティングな仮説 現在の地球は間氷期にあり、さらに氷期に向かっている。そう聞くと、少なからずの人が驚く。地球はかつて、数百万年もの間にわたってすべてが凍りついていたと聞くと、さらにびっくりする。
目をつむって、想像してみてほしい。月から見た地球。それが、雪だるまのように真っ白なのだ。ブルー・プラネット(青い地球、水の地球)ではなく、ホワイト・プラネット。そうした白い惑星を、誰か(地球上以外の生物)が見たとしたら、この惑星には生物はいないと思うにちがいない。何せ、厚いところで数キロにもおよぶ氷床に覆われているのだから。しかも、気の遠くなるくらいの期間、凍結状態が続いていたのだ。が、7億~6億年前、こうした全球凍結状態が、ほぼ間違いなく起こったであろうことが、本書を読むとわかってくる。
今、もし天体観測によってホワイト・プラネットが見つかったならば、私たちはそこに生物存在の可能性を見出すにちがいない。スノーボールアース仮説の研究によって、そのメカニズムがわかってきているからだ。さらに本書では、そうしたホワイト・プラネットの発見の可能性は決して低くないと言っている。つまり、全球凍結仮説は、地球上以外の生物の発見にもつながるエキサイティングな研究であることがわかる。
本書を通して地球の全気候史を俯瞰してみると、人類が誕生してからの環境変動史がいかにマイルドなものだったかがわかる。たまには、長いスパンで物事を見るのも、頭が冷えていいのかもしれない。
2016/04/27
著者プロフィール
田近英一
タヂカ・エイイチ
1963年、東京都杉並区生まれ。東京大学理学部卒。東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。理学博士。現在、東京大学大学院理学系研究科准教授。専門は地球惑星システム科学。2003年第29回山崎賞、2007年日本気象学会堀内賞受賞。著書に、『進化する地球惑星システム』『宇宙で地球はたった一つの惑星か』『地球惑星科学入門』『地球システム科学』『地球進化論』『新しい地球史』(すべて共著)等。