戦後日本経済史
1,430円(税込)
発売日:2008/01/25
- 書籍
- 電子書籍あり
山一、長銀、日債銀……金融危機から10年経た今も日本経済が停滞している理由は?
比類なき高度成長を成し遂げ、石油ショックにも対処できた日本が、なぜバブル崩壊の痛手からは立ち直れないのか? その理由は太平洋戦争直前、革新官僚によって導入された「戦時経済体制」にある! 1940年代に構築された巧妙なシステムから戦後経済を読み直し、古い産業構造から抜け出せない日本経済の本質を解明する。
2 インフレで定まった戦後社会の基本形
3 戦時改革が戦後の零細土地保有をもたらした
4 中途半端に終わった占領軍の経済改革
5 日本のことを何も知らなかったアメリカ人
2 一萬田尚登はなぜ法皇になりえたか
3 造船疑獄に見る金融統制と政治の深い関係
4 高度成長へと舵を取る
5 戦時革新官僚の夢が戦後の通産省で実現する
2 戦時制度によって可能となった労使協調
3 国際化で戦時体制が変質し始める
4 公共事業の時代が始まる
5 大きな後遺症を残した証券危機
2 アメリカから見た日本
3 マンションを買うのが日本男子の夢?
4 開闢以来のバラマキが日本の財政を破壊した
2 戦時経済体制を強化した石油ショック
3 石油ショックがなかったなら?
4 相対化した視点で日本を見る
2 土地バブル
3 「日本の株価が高すぎるという人は頑迷な懐疑論者だ」
4 無視された警告
5 戦時体制の維持がバブルの基本原因
6 土地本位制は戦時体制の産物
2 企業不祥事がつぎつぎに発覚
3 大蔵省スキャンダル
4 総会屋への利益供与事件
2 山一崩壊(2)
3 長銀破綻(1)
4 長銀破綻(2)
5 結局、日本の銀行は変わらなかった
6 バブルの総決算
2 史上かつてない平等社会
3 歴史主義の貧困
4 開戦直前の過激思想がいまの財界標準
5 日本はどこに向かうのか
付録2 戦後経済史年表(1999年まで)
付録3 戦後歴代総理大臣・大蔵(財務)大臣・日本銀行総裁一覧
参考文献
索引
書誌情報
読み仮名 | センゴニホンケイザイシ |
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シリーズ名 | 新潮選書 |
雑誌から生まれた本 | 週刊新潮から生まれた本 |
発行形態 | 書籍、電子書籍 |
判型 | 四六判変型 |
頁数 | 288ページ |
ISBN | 978-4-10-603596-8 |
C-CODE | 0333 |
ジャンル | 経済学・経済事情 |
定価 | 1,430円 |
電子書籍 価格 | 1,144円 |
電子書籍 配信開始日 | 2017/08/18 |
書評
波 2008年2月号より 日本衰退の理由はなにか
この本は前半で経済システムが成功を収めて日本が大躍進を遂げる過程を、そして後半は日本経済が突如急速な衰退に陥る過程の解明を扱う。前半は挿話も思わず笑いをかみ締めさせるが、後半はホラー・シーンの連続で、当時の悪夢を再体験させてくれる。
前半では、日本経済の勃興は1940年体制(戦時経済体制)を利用したもので、戦後の経済民主化改革によるものではないことが強調される。確かに40年体制は日本経済の高成長に重要な役割を果たした。最近、成長なら胡錦濤の中国、プーチンのロシアに倣って社会主義的市場経済に移行するに限るというジョークを聞いたが、著者により結局は社会主義に帰結したとされる日本の40年体制もこれらと同類項で、ある段階でそれが成長促進に適するのには普遍的根拠があるのかもしれない。日本の特徴は成長と所得平等化の両立に成功したこと、資本移動にはもっとも不寛容だったことだろうか。
しかし40年体制に非効率がなかったわけではない。それを十分に批判しなかったことがその残存という形の時間的非整合性をもたらした。またこれはポツダム教育が真っ盛りの時に中学・高校生だった私の偏見かもしれないが、民主改革が成長を促進した面がなかったとはいえない。農地改革にしても財閥解体にしても、課題は戦前から引き継がれたが、民主改革中でなければあれだけの成果は挙げられなかったのではないか。再軍備を急がず、産業育成が民需産業中心で行われたのも効果的だった。
後半は経済学者として最初にバブルを警告した著者ならではの着眼点から、事態の推移を金融や産業の仕組みから論理的に説明しており、同時に個別で人間的な事例も紹介されているので、知性と感性の両方で、この時代に迫ることができる。大きな筋としては、経済システムの不具合が如何に甚大な困難をもたらすか、経済論理に対して精神主義を掲げて立ち向かうことが如何に損害を大きくするかが、肌があわ立つほどに徹底的に解剖されている。学界では金融政策の失敗が重視されてきたが、私には本書のような、より広い視野からの分析に大きな説得力が感じられる。
どうして40年体制は一転して時代錯誤的桎梏になり終わったのだろうか。著者は70年代にはたとえば株式時価発行の増加などに見られるように自然に本来の市場経済へ移行する芽が出ていたことを認め、その芽を摘んだのは40年体制が石油危機克服に成功して不幸にも旧体制が復活したからだと主張する。これは歴史の皮肉な匙加減だが、このことから著者はトルストイ『戦争と平和』に言及しながら、歴史の経路は必然か、選択の自由または偶然を含むかを問い、「歴史主義」が妥当か、政策決定は人間の意志によるものかを議論している。もちろん過去の呪縛が現在、将来に影響する場合もあり、歴史を重視したい専門の歴史家はその点を強調する場合が多いように感じるが、「歴史主義の貧困」を信条とする歴史書も貴重だろう。
体制の不具合は80年代に入っていよいよ破滅的になるが、著者はその要因として技術の変化と社会主義の没落を挙げている。工学部出身の著者の視点は技術音痴の私にはまぶしいが、本書の広い視野を窺うに足る指摘だ。
実践的な立場から言えば、本書で最も重要なのは歴史を負った現在の日本の惨状暴露である。技術と思想・制度のギャップはあまりに深く、社会保障財政の暴走処理には手がつけられない日本に再生の道はあるのか。本書に限れば「斥候よ、夜はなお長きや。ものみ答えて言う、朝は来る、されどいまはなお夜なり」(ウェーバー著/尾高邦雄訳『職業としての学問』より孫引き)としか答えようがない。
いやひとつ希望がある。それは本書で開示された著者のような独立した学者がもっと日本に多く現れることである。
担当編集者のひとこと
戦後日本経済史
奇跡の高度成長を成し遂げ、石油ショックに対処できた日本が、バブル崩壊の痛手から立ち直れないのはなぜなのか? その鍵は「戦時経済体制」にある! 大田弘子経済財政担当大臣の「もはや日本は経済一流と呼ばれる状態ではなくなってしまった」演説が話題になっています。これは昨年末に発表された2006年の「一人当たりGDP」がOECD加盟国内で18位という、かつてない低い順位にまで落ち込んだことに基づいての発言ですが、統計を見ると、確かに日本は1993年の2位を頂点にして、2000年の3位からだんだんと順位を落とし、2006年にはドイツ、フランスにも抜かれ、すぐ下の19位にはイタリアが控えています。ヨーロッパ諸国の順位が上がったのは、EURO高もひとつの理由と考えられますが、それだけでは日本の長期低落傾向を説明することはできません。
日本経済は、なにか構造的な問題を抱えているのではないか? そんな疑問に歴史的観点から答えてくれるのが、『週刊新潮』での好評連載「戦時体制いまだ終わらず」をまとめた本書です。われわれが、いかに「戦時経済体制」という呪縛から逃れられずにいるかが、ハッキリとわかります。
2016/04/27
著者プロフィール
野口悠紀雄
ノグチ・ユキオ
一橋大学名誉教授。1940年東京生まれ。1963年東京大学工学部卒業、1964年大蔵省入省、1972年イェール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学ファイナンス研究科教授などを歴任。専攻はファイナンス理論、日本経済論。主な著書『情報の経済理論』(東洋経済新報社、日経・経済図書文化賞)、『財政危機の構造』(東洋経済新報社、サントリー学芸賞)、『バブルの経済学』(日本経済新聞社、吉野作造賞)、『「超」整理法』(中公新書)、『ブロックチェーン革命』(日本経済新聞出版社、大川出版賞)、『戦後経済史』(日経ビジネス人文庫)など多数。近著に『リープフロッグ』(文春新書)、『「超」英語独学法』(NHK出版新書)、『「超」メモ革命』(中公新書ラクレ)、『良いデジタル化悪いデジタル化』(日本経済新聞出版)、『人生を変える「超」独学勉強法』(プレジデントムック)、『データエコノミー入門』(PHP新書)など。