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俺は100歳まで生きると決めた

加山雄三/著

836円(税込)

発売日:2024/04/11

  • 新書
  • 電子書籍あり

まだやりたいことがある。だから若大将は生きる。年齢を重ねて再びチャンスを掴み、命の危機も乗り越えた、最高の幸福論。

2022年末のNHK紅白歌合戦出演を最後にコンサート活動から引退した加山雄三は、ある決意をする。「俺は100歳まで生きる」と。新たな音楽活動に挑戦して本人が「攻めに転じた」という70代から愛船の火災と病に見舞われた80代、そして未来を見据えた余生まで。自身を育んだ茅ヶ崎の海や強い絆で結ばれた友たちに思いを馳せながら、永遠の若大将が語る幸福論!

目次
はじめに
第一章 輝かしき俺の70代
「攻める」と誓った70歳/ザ・ヤンチャーズ結成/ランチャーズからヤンチャーズ/「サライってなんだよ?」/中華料理も中華テーブルも手づくり/谷村君と別れの「サライ」/備前焼に挑戦/光進丸は人生の相棒/森繁さんとメイキッス号/赤木圭一郎との思い出、タヒチ/東日本大震災/俺の音楽のルーツはベートーヴェン/若大将ライブハウスツアー 恋は紅いバラ/ゆうゆう散歩は地井武男君との縁/関心、感動、感謝
第二章 茅ヶ崎の海が俺を育てた
いやだったフリチン/親父の水泳特訓/初めての料理体験は貝の佃煮/目の前で消えた命/ピアノがやってきた/クロイツァーさんの「英雄ポロネーズ」/俺の第一作は「夜空の星」/「かね! かね! かね!」。流れ星に願った/自作のモーターボート/野坂の500円ギター/憧れのプレスリー/峰岸慎一の説得で俳優に
第三章 俺の芸能生活、山あり谷あり
若大将と青大将/黒澤明さんに言われた「テレビに殺されるなよ」/三船さんとの酒席/椿三十郎の往復ビンタ/ノーキー・エドワーズからもらったモズライト/ビートルズとのすき焼きパーティー/「私はペリー・コモです」/多重録音にチャレンジ/「幸せだなあ」/岩谷時子さんなしに今の俺はない/カミさんが編んでくれた腹巻/負債23億円とローマでのプロポーズ/失われていったおふくろの鼓動/一つの卵を夫婦で分けた/圧雪車に轢かれた/紅白で“仮面ライダー事件”/ピアノコンチェルト完成/「ありがとう。バイバイ」
第四章 80代、まだまだ青春
桑田君夫妻、達郎君夫妻主催の80歳パーティー/桑田君の親と俺の親は麻雀仲間/達郎君とは「BOOMERANG BABY」の縁/光進丸炎上/カミさんは神様だ/ラストショー/最後に歌うのは海の上
第五章 今の俺、これからの俺
52歳で禁煙。63歳で禁酒/努力しなければ、人間は衰える/毎食後3種類の歯磨き/朝ご飯が夫婦の絆を強くする/俺の新曲/じたばたしてもしかたないだろ
おわりに

書誌情報

読み仮名 オレハヒャクサイマデイキルトキメタ
シリーズ名 新潮新書
装幀 新潮社装幀室/デザイン
発行形態 新書、電子書籍
判型 新潮新書
頁数 192ページ
ISBN 978-4-10-611038-2
C-CODE 0273
整理番号 1038
ジャンル 音楽
価格 836円
電子書籍 価格 836円
電子書籍 配信開始日 2024/04/11

書評

ヒーローは終わらない

高見澤俊彦

 なんて大胆なタイトルなんだろうと読み始めたら、自分の知らない凄い加山さんに出会ってしまった。何が凄いのか? 平成19年70歳を迎えた時、加山さんは攻めに出ると宣言した。若いうちは活力というエネルギーに溢れているので無理が利いて自然と前に進めるが、歳を取ると攻めるという意識を強く持たないと前に進めなくなる。そこで、あえて自らを鼓舞し、70代を攻めの姿勢で生きると宣言したというのだ。そして有言実行をスローガンにした結果、なんと70代が一番多忙になったというから凄い。それは高齢者として社会における能動的な生き方や、積極的な在り方を示したことになる。もちろん誰しもが出来ることではないが、すべての事柄を年齢のせいにしてはいけないという教訓にはなり得たと思う。
 その背中を見ていつも感じていたのは、音楽は年齢でやるものではないということだ。コンサートのリハーサルでは本気で2時間余りも唄い、唄えば唄うほど声が出てくるから凄い。まさに年齢を超越した感があるが、リハであっても手を抜かず、全力で音楽に向き合う姿勢は尊敬に値する。
 さらに音楽だけではなく、絵画、船の建造から、物理学など技術と知識の範囲が半端ない。その幅広い好奇心は生い立ちも含め、育った環境によるものだと本書を読んで合点がいった。
 パブリックイメージの加山さんは湘南ボーイというスマートな印象だが、それに反して慶應高校時代は3年間五分刈りで通すほどの硬派だったとか。加えて、幼い頃は体が弱かったというのも驚きだ。健康イコール加山雄三という方程式は幼少期にはまだ成立していなかったのだ。そのため家族共々茅ヶ崎に引っ越し、湘南の海との出会いにより後の若大将を形作る環境が整う。もし幼い頃、加山さんが健康で、頑強な体の持ち主だったら……湘南の海に出会っていなかったら……映画「海の若大将」や、名曲「海 その愛」は世に出なかったかもしれない。物事の偶然と必然を加山さんの半生で感じることが出来たのはひじょうに興味深かった。
 反面、山あり谷ありの人生の落差も凄まじい。ホテルの倒産、莫大な負債、スキー場では圧雪車に轢かれ命の危険にさらされたこともあった。もっともそれは大事故にもかかわらず、自前の治癒力で手術もせず治してしまったというから、まさに超人ヒーロー級の肉体だ。ヒーローと言えば小五の時、映画「怪獣大戦争」と併映の「エレキの若大将」を観てエレキギターに目覚めた瞬間から、自分の中で加山さんはずっとゴジラと並ぶヒーローだったことをフト思い出した。
 そんな加山さんと、ヤンチャーズにロックチッパーズなど、あらゆる場面で共演させて頂いた経験はミュージシャンとして大きな財産になった。その半生を辿るだけでも、ちょうど今年古希を迎えた自分にとって、新たな70代を自分なりに生き抜くための指針となる一冊になった。もちろん加山さんと同じようには生きることは出来ないが、その生き方を感じて自分なりに頑張ることは出来るはずだ。
 そう言えば以前、加山さんのトリビュートアルバムで「夜空の星」をALFEE風にアレンジしたことがあった。張り切り過ぎたのか、爽やかな湘南サウンドを大仰なハードロックに変貌させてしまったのだ。冷静になって聴くと、元のイメージとあまりにもかけ離れていることに若干焦った。そこで恐る恐る御本人にお聴かせしたところ、瞬時に最高だと笑顔で受け入れてくれたのだ。それこそ、音楽への愛情と柔軟な理解力が醸し出す包容力のなせる業だろう。そういった人間力の源が本書にはちりばめられている。
 100歳まで生きると宣言した加山さん、あるとき「なんでこんなに長生きしてるんだろう?」とつぶやくと奥様は「反省するためでしょ」と即座に切り返してきたという。加山さんは思わず噴き出したというが、このやりとりだけで、僭越ながら素敵な夫婦関係が見える気がした。御本人もカミさんは神様だとおっしゃっているぐらい絆は強固であり、数々の困難をお二人で乗り越えてきたからこその今なのだと思う。夫婦円満の秘訣は朝ご飯というのも加山さんらしい。一日の最初の食事を一緒にとることで思いやれるようになり、夫婦仲はより円満になるというのだ。何か夫婦の問題で思い当たる方は、実践してみるのもよろしいかと……。
 ステージ歌手というキャリアを終えた加山さんだが、これですべてが終わったわけではない。音楽で言えば、まだ新曲が16曲もあるというのだ。さらに先日、加山さんのマネージャー氏から、1960年代のオープンリールが大量に出てきたので、それをデータ化しているという情報も得た。そう考えると、加山さんのミュージックライフは、まだまだ終わっていないのだ。100歳という年齢が現実味を帯びてきた。ステージで歌声を聴けないのは淋しい限りだが、未来の加山雄三像に思いを馳せると、思わずつぶやいてしまった……幸せだなぁ……。

(たかみざわ・としひこ ミュージシャン/小説家)

波 2024年5月号より

著者プロフィール

加山雄三

カヤマ・ユウゾウ

1937(昭和12)年神奈川県横浜市生まれ。俳優、歌手。慶應義塾大学法学部政治学科卒。1960年にデビュー。「君といつまでも」「海 その愛」などヒット曲多数。主演映画に「若大将」シリーズなど。2021年度の文化功労者に選出された。

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