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水道を救え―AIベンチャー「フラクタ」の挑戦―

加藤崇/著

858円(税込)

発売日:2022/11/17

  • 新書
  • 電子書籍あり

世界が驚嘆した水道管DXを創出した、若き起業家が語るインフラ革命の全貌。

日本の水道管は総延長にして地球17周分、うち4周分は法定耐用年数の40年を過ぎている。しかし、地中に埋められた水道管は、材質や地質、環境によって大きく寿命が異なり、交換の優先順位を的確に見極めなくてはならない。今、その難題に挑むのが、水道管を「見える化」するDX技術を持つAIベンチャー「フラクタ」だ。全米82・国内34事業者が採用、その精度世界一。水インフラの救世主、挑戦のドキュメント!

目次
はじめに
第1章 日本の水道インフラは今どうなっているか
水道水が飲める国/人口減少と節水のダブルパンチ/地球17周分の水道管/130年以上かかる更新ペース/相次ぐ巨大地震への備え
第2章 見えない水道管をいかにして読み取るか
地中での劣化具合を知る/水道管破裂までのメカニズム/材料と環境によって寿命はバラバラ/AIでモグラの発生確率を予測/ソフトウェアが算出した高リスク自治体/ハイリスクの管から優先的に交換/交換コスト110兆円から40兆円を削減/朽ちるインフラ、増える国の借金/日本の更新率は高いか低いか/事業者の人員減少とデータ不足/「台帳管理」できているのは6割程度
第3章 世界の水道インフラは今どうなっているか
世界最大のフランス「水メジャー」/経済合理性に合わない日本の水道経営/水道コストの5割が水道管路関連/危機的なアメリカの水道事情/1日に3件という漏水事故/全米160万キロ、地球40周分の水道管/借金を躊躇しないアメリカ気質/「ねずみ鋳鉄管」「石綿セメント管」/本音と建前のイギリス気質/サッチャリズムで水道民営化、サービスより転売益/水道会社の経営者の年俸はイギリス首相より多額/漏水率と無収水率で規制強化
第4章 日本、動き始めた自治体は何が違うのか
フラクタの日本事業/国内初のクライアント・愛知県豊田市/勘と経験がAIを生かす/「会津三泣き」を実感・福島県会津若松市/都市部にはない高低差と悩み・兵庫県朝来市/垣間見えたシビック・プライド/はじめにデータありき/次世代へのジャスト・トランジション
第5章 日本の水道事業は民営化していくのか
設備は公有、管理運営は民間/コンセッション方式への警戒感/水道事業を立て直す三つの方法/自治体が水道事業を手放すワケ/水道事業民営化というマネーゲーム/巨大投資ファンドによる買収の意図/コストやミスは料金に付け替え/事業価値を知らない日本の自治体
第6章 水道事業の“価値”を正しく知っているか
20年後には水道料金が43%上昇?/巨額の設備投資、少人数による運営/人口密集度による稼働率の違い/バブル崩壊と「長銀破綻」のケーススタディ/修羅場を戦うハゲタカファンドのスキル/どんぶり勘定はもはや通用しない
第7章 水道インフラを守り続けられるか
「価値判断のズレ」を避ける/住民はみな水道事業の当事者/行政サービスの隙に入り込む「強欲」/「不都合な真実」を暴くテクノロジー/AIで可視化される水道管路の資産価値/「思われる」曖昧さから「こちらの方が良い」言い切りへ/意思決定プロセスの長さへの危惧/水道は公共事業だから議論しない?/バーチャルウォーター消費量では世界一
最終章 フラクタと僕はなぜ走り続けるのか
石油でもガスでもなく、水道だったワケ/ベンチャーの身軽さを最大の武器にする/創業以来、最初で最後の非合理的決断/「失われた10年」から世界の水道の救世主へ/国内唯一の水大手、栗田工業との資本提携舞台裏/フラクタのソフトウェアで下水道にも挑戦/『マンホール聖戦in渋谷』と多様な協業/AIで水道管路台帳整備という挑戦/「フェアではない世の中」への疑問が原点/事業再生という仕事と挫折感/世の中を少しでもフェアにするために

書誌情報

読み仮名 スイドウヲスクエエーアイベンチャーフラクタノチョウセン
シリーズ名 新潮新書
装幀 新潮社装幀室/デザイン
雑誌から生まれた本 Foresightから生まれた本
発行形態 新書、電子書籍
判型 新潮新書
頁数 208ページ
ISBN 978-4-10-610973-7
C-CODE 0230
整理番号 973
定価 858円
電子書籍 価格 858円
電子書籍 配信開始日 2022/11/17

蘊蓄倉庫

国内での水需要のピークは2000年。蛇口をひねれば水が出る「当たり前」は維持できるのか?

人口減が水道に与える影響は

 人口減はさまざまに影響を与える。労働力が不足する、消費をする人口が減る、国力が下がる、などいろいろなことが言われるが、もちろん水インフラにも無関係ではない。人口が減ると、水道管を通して各家庭や事業所に水を届けている水道事業者にとっては、お客さんが減ることになる。……。
 この傾向は今後も続く。
 また、実際には、人口が減るよりも前に水の需要は減っていた。
 国内での水の需要のピークは2000年で、それ以降、右肩下がりが続いている。節水型の洗濯機やトイレの普及や節水意識の向上が水の需要を減らしたと見られる。無駄遣いが減るのはいいことだ。しかし、水道事業者の視点に立てば、これは収入源を意味する。実際に、2011年には年間2・7兆円だった収入は、2016年には2・3兆円になっている。4000億円の減収だ。人口減と節水は、水道事業経営者にとっては弱り目に祟り目なのだ。

日本の地中には地球17周分の水道管

 収入源は、特に小規模な水道事業者を直撃する。厚生労働省によると、2021年時点で、日本には一般の需要に応じ水道によって水を供給する水道事業者は3819あり、うち1312が給水人口5000人を超える、上水道事業と呼ばれる事業者で、残り2507が、給水人口が5000人以下の簡易水道事業と呼ばれる小規模な事業者だ。2507の簡易水道事業者が対象としている給水人口は約174万人。どういうことかというと、水道事業者全体の数の3分の1しかない上水道事業者が日本の人口の約99%に水道事業を提供し、3分の2を占める簡易水道事業者が約1%に水道事業を提供しているのだ。こうした小規模な事業者は地方に多く、そして、地方ほど人口は急速に減っている。だからといって、チェーン店が不採算店を閉めるようには撤退ができない。水道管は網の目のようにつながっているし、それになにより、水道は生活に欠かせないインフラだからだ。たった一人でもそこに住み続ける人がいる限り、水は供給し続ける必要がある。だから、給水人口が少ない都市ほど料金収入の総額が少なく、赤字の組織も多い傾向にある。地方ほど、人口減の影響を強く受ける。……。
 とにかく、水の需要は減っていき、水道事業者の収入は減っていく。収入が減れば十分な投資ができなくなる。何に対してかというと、すでに建設された水道インフラに対してである。
 日本の水道普及率は98%を超えている。山がちな島国の津々浦々に、水道管網が張り巡らされているのだ。……水道管路の延長は67万6500キロメートル、地球約17周分の水道管が日本の地中に埋まっていることになる。この充実したインフラが家庭や事業所への水の供給を支えている。
 しかし、形あるものはいずれ壊れる。しかも、それぞれのペースでだ。いつか必ず交換しなくてはならなくなる。それがいつなのか。日本では法定耐用年数40年と決められている。(本書第1章より抜粋)

掲載:2022年11月25日

担当編集者のひとこと

水道というライフラインの未来に向けて

 こんな日本人がいたとは!
 本書を読んだ方はそんな感想を持たれるのではないでしょうか。
 著者、「フラクタ」を率いる加藤崇さんは、応用物理学を大学で専攻され、銀行勤務を経てヒト型ロボットベンチャーの株式会社シャフトを共同で創業、その後、2013年にはこの会社をGoogleに売却されました。日本どころか、世界の注目を集めたのは言うまでもありません。
 その後、後に「フラクタ」となる会社を、2015年にアメリカ、シリコンバレーにて起業されます。AI技術で水道管を診断し、更新投資を最適化するソフトウェア開発に乗り出したのです。2018年には株式の過半を栗田工業株式会社に売却、現在も同社CEOとして活躍されています。
 ちなみに、この水道管ソフトは全米で82、国内で34の事業者が採用、その精度への信頼が高まっています。この本では、水道に関する世界の状況をファクトとして把握し、そこでできることを進めるフラクタの挑戦をまとめました。加藤さんは「7年間の水道取材記」とおっしゃっています。
 ライフラインである水道についての7年間の取材結果、ぜひ、追体験してみてください。

2022/11/25

著者プロフィール

加藤崇

カトウ・タカシ

早稲田大学理工学部応用物理学科卒業。元スタンフォード大学客員研究員。東北大学特任教授(客員)。ヒト型ロボットベンチャーの株式会社シャフトを共同創業、グーグルへ売却。2015年にフラクタをシリコンバレーで創業、CEOに就任(現会長)。米国カリフォルニア州在住。

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