習近平と永楽帝―中華帝国皇帝の野望―
836円(税込)
発売日:2017/08/10
- 新書
- 電子書籍あり
二人の皇帝から読みとく漢民族王朝。
漢民族の最後の帝国であった明の3代目・永楽帝と習近平には、意外なほど共通点がある。権門出身という血統のよさ、権力掌握前の苦節、正統性を証明するため、政権創設者に範を取りつつ、前任者を超える政治実績を示すことを迫られた立ち位置、「法治」を掲げた苛烈な政敵排除や国内統制、政権の威光を高めるための対外拡張とアジア秩序構築への意欲――。歴史を踏まえると見えてくる、現代中国の核心に迫る。
書誌情報
読み仮名 | シュウキンペイトエイラクテイチュウカテイコクコウテイノヤボウ |
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シリーズ名 | 新潮新書 |
装幀 | 新潮社装幀室/デザイン |
発行形態 | 新書、電子書籍 |
判型 | 新潮新書 |
頁数 | 224ページ |
ISBN | 978-4-10-610730-6 |
C-CODE | 0222 |
整理番号 | 730 |
ジャンル | 政治・社会 |
定価 | 836円 |
電子書籍 価格 | 836円 |
電子書籍 配信開始日 | 2017/08/25 |
薀蓄倉庫
甥殺し
1368年、一介の「乞食坊主」から身を起こした洪武帝が南京で即位し、ひらいた明朝。永楽帝は、この王朝創始者である洪武帝の息子で、大変に優秀だったといいます。しかし長男ではありませんでした。長男は皇太子にたてられたものの早くに亡くなり、その子、つまり皇太孫が2代建文帝として即位します。
まだ若い建文帝にとって、実績ある叔父らは目の上のたんこぶどころか、自らの地位を危うくする危険極まりない存在でした。わずか1年あまりで、5人の叔父の身分を次々に剥奪します。当時、北京を守っていた永楽帝も追い詰められて決起し、首都・南京を陥落させ即位しました。しかしこの「甥殺し」は永楽帝に一生ついてまわった汚名となり、建文帝の治世がながらく正史から抹殺されたことからも、その激しさがうかがわれます。
掲載:2017年8月25日
担当編集者のひとこと
残された時間
習近平の名前を初めて耳にしたのは2009年、天皇との会見をごり押しして話題となった副主席時代のことでした。すでにポスト胡錦濤の最有力候補だった習近平への政治的配慮から会見が実現したとして、天皇の政治的利用だと物議を醸しましたが、私も含め多くの人が当時はまだ「習近平って誰?」「奥さんが有名な歌手なんだって」「へえ~」といった程度の認識しかなかった気がします。
今では、多くの政敵を粛清し、インターネットを遮断し、国際法には従わず、個人崇拝を推し進め……いつの時代の話なのだろうと思うことばかりですが、その謎をとく鍵が中国共産党の「明以来の漢民族王朝」という側面で、その明時代、習近平とよく似た境遇だったのが永楽帝だという著者による指摘、それに続く考察はまさに「歴史は繰り返す」という言葉通りです。
中国人初のノーベル賞受賞者であり、国家政権転覆扇動の罪に問われた法廷で「私に敵はいない」と語った劉暁波氏は、明の時代にも激しかった「文字の獄」の最後の被害者が自分であることを願いながら、先日、亡くなりました。その一切は黙殺されたまま、習近平は、さらなる権力への布石に余念がないようにみえます。
そんな彼の時代がいつまで続くのか。その答えも歴史の中にある――本書読後はそう思わざるをえません。
2017/08/25
著者プロフィール
山本秀也
ヤマモト・ヒデヤ
1961年生まれ。産経新聞編集委員兼論説委員。北京大学哲学系卒。シンガポール、台北、香港、北京、ワシントン支局長を歴任。著書に『本当の中国を知っていますか?』『南シナ海でなにが起きているのか』、共訳書に『李登輝実録』など。