ヒラリー・クリントン―その政策・信条・人脈―
836円(税込)
発売日:2016/08/12
- 新書
- 電子書籍あり
「ヒラリー政権」の全貌を徹底予測!
2008年になめた苦杯を胸に、ようやくアメリカ大統領の座を目前にしたヒラリー・クリントン。初の女性大統領は何を目指すのか。側近や閣僚候補はどんな人たちなのか。「親中・反日」になるとの憶測は本当か──。ヒラリーへの単独インタビューの経験を持ち、ワシントンのインサイダーや日米の外交・安保コミュニティにも通じた記者が、「ヒラリー政権」の全貌を徹底予測する。
第一章 政治家ヒラリーの政策と信条
書誌情報
読み仮名 | ヒラリークリントンソノセイサクシンジョウジンミャク |
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シリーズ名 | 新潮新書 |
発行形態 | 新書、電子書籍 |
判型 | 新潮新書 |
頁数 | 240ページ |
ISBN | 978-4-10-610681-1 |
C-CODE | 0231 |
整理番号 | 681 |
ジャンル | 政治、外交・国際関係 |
定価 | 836円 |
電子書籍 価格 | 836円 |
電子書籍 配信開始日 | 2016/08/26 |
インタビュー/対談/エッセイ
史上初の女性大統領は何を目指すか
この世の中に「世界女傑選手権」というものがあったら、誰が勝利の栄冠を手にするだろうか。古代からの代表として、まず思い浮かぶのはエジプトの女王・クレオパトラ。中国からは楊貴妃が名乗りを上げ、日本代表は卑弥呼で決まりだ。近現代に目を転じれば「鉄の女」の異名を取った英首相、マーガレット・サッチャーや、ドイツ首相のアンゲラ・メルケルといった名前が頭をよぎる。
それら錚々たるメンバーを押しのけて、来年の一月に勝者の玉座に君臨するであろう人物こそ、本書の主役、ヒラリー・クリントンである。
七月末に米国・ペンシルベニア州で開催された米民主党大会で、正式な党の大統領候補となったヒラリーは今、第四十五代アメリカ合衆国大統領の座に最も近い人物だ。二十一世紀の今日、なお世界最大の経済力を持ち、世界最強の軍隊を誇示する唯一の超大国・米国。その指導者になるということはすなわち、ヒラリーが「人類史上、最強の女性」になると言っても過言ではない。
ファースト・レディー(大統領夫人)から始まり、ニューヨーク州選出の上院議員、米外交トップの国務長官、そして大統領候補と「理想の階段」を駆け上がってきたヒラリー。だが、そこに至るまでには多くの曲折と蹉跌もあった。
特に、夫君・ビルと共に嫌疑をかけられたアーカンソー州時代の公的資金不正流用問題(ホワイトウォーター疑惑)では絶体絶命のところまで追いつめられ、「生来のウソつき」というレッテルまで貼られた。暴言と失言を繰り返す米共和党候補、ドナルド・トランプ氏と「不人気競争」を演じざるを得ない原因はこの一点に尽きる。
現時点で今年の米大統領選の結果を占うことは難しいが、党内の結束度合いや、人口動態(黒人、女性、若者、ヒスパニック)、政治家としてのキャリア、対外的な知名度などに鑑みれば、「トランプvs.ヒラリー」のオッズは40:60、あるいは30:70程度でヒラリーに有利だろう。
仮に「ヒラリー大統領」が誕生した場合、その政権、政策はどのようなものになるだろうか。一言で言えば、「国内リベラル・対外タカ」の阿修羅像である。対外政策では女性の権利向上を地球規模で推進する「女権外交」を展開。米国への対抗心を剥き出しにする中国には、政治・経済・軍事の各方面から「コワモテ」の顔を見せるだろう。国内政策では中間層の再興をテーマに掲げ、TPP(環太平洋経済連携協定)を巡る対応など貿易政策では「内向き傾向」を強めていく。
国務長官時代に「尖閣諸島は日米安保条約の対象」と宣言した「ヒラリー大統領」と日本の関係は原則、良好だ。しかし、油断は禁物。期待が大きい分、注文もそれだけ多くなる。何しろ百戦錬磨の最強の女傑が交渉相手となるのだから……。
(すのはら・つよし 日本経済新聞社編集局長付編集委員)
波 2016年9月号より
蘊蓄倉庫
ヒラリーの勝負服
ヒラリーは、ここぞという重要な局面では「水色系」「青系」の服を選びます。2001年にニューヨーク州の上院議員として初登院し、宣誓式に望んだ際も水色系の服を着ていましたし、オバマ大統領がヒラリー支持を表明したフィラデルフィアでの民主党大会でも青系のスーツを身にまとっていました。大統領就任式の際にも青系の服を着るのか、それとも敢えて変えてくるのか。要注目です。
掲載:2016年8月25日
担当編集者のひとこと
「女性の活用」が安全保障問題に
共和党のトランプ氏があまりにも強烈すぎるので割を食っていますが、アメリカ人の良識が私の想像を超えていなければ、おそらくは来年の1月から合衆国大統領になるのはヒラリーのはずです。そのヒラリーについて、現時点で日本人が知るべき内容を過不足なく盛り込んだ「決定版」の一冊が本書です。
ヒラリーの夫のビルは大統領だった1998年、日本を素通りする形で中国に9日間も滞在しました。また、日米の貿易交渉では数値目標の受け容れを迫ることも度々でした。ヒラリー自身も前回2008年の大統領選の際には、米中を「世界で最も重要な二国間関係」と位置づけ、日本へはほとんど言及していません。こうした姿勢から、日本ではいまでも「ヒラリー政権も反日親中になるのではないか」という懸念が根強くあります。
しかし、著者はこうした懸念を真っ向から否定しています。ヒラリーは現在では、日米同盟を明確にアジア戦略の基軸の一つと考えている、と。
ならば一安心かと言えばさにあらず。仮にヒラリー政権が誕生すれば、日本は別の課題に直面するだろうと著者は見ています。それは「女性の活用」です。米外交関係者の中には、女性の積極的な活用策は「空母機動部隊を一つ、追加することに匹敵するぐらい、安全保障上でも重要だ」とコメントする向きもあり、女性の活用が「安全保障上の課題」になる可能性が高いのです。それこそ、「ガラスの天井」をやぶり続けてきたヒラリーの独自性なのです。
著者は日経新聞の外交・安保担当の編集委員で、ヒラリーに単独インタビューした経験もある気鋭のジャーナリスト。永田町・霞ヶ関だけでなく、ワシントンの安保コミュニティにも深い人脈を築き、そのネットワークから丹念に情報を紡ぎ、ありうべき「ヒラリー政権」の様子を予測しています。ぜひご一読ください。
2016/08/25
著者プロフィール
春原剛
スノハラ・ツヨシ
1961(昭和36)年東京都生まれ。上智大学卒業後、日本経済新聞社入社。ワシントン支局勤務などを経て編集局長付編集委員。上智大学グローバル教育センター客員教授、日本経済研究センター・日米プロジェクト(富士山会合)事務総長。著書に『暗闘 尖閣国有化』など。