いい子に育てると犯罪者になります
858円(税込)
発売日:2016/03/17
- 新書
- 電子書籍あり
「いつも笑顔」「親の言うことをよく聞く」「我慢強い」危ない! 価値観が次々ひっくり返る圧倒的説得力!
意外なことに、刑務所への出入りを繰り返す累犯受刑者には「いい子」だった者が多い。自分の感情を素直に出さず、幼少期から無理を重ね、親の期待する役割を演じることに耐えられなくなった時、積もり積もった否定的感情が「犯罪」という形で爆発するのだ。健全な子育ては、「いい子」を強いるのではなく「ありのままの姿」を認めることから始まる──。矯正教育の知見で「子育ての常識」をひっくり返す。
本書の成り立ちについて
書誌情報
読み仮名 | イイコニソダテルトハンザイシャニナリマス |
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シリーズ名 | 新潮新書 |
発行形態 | 新書、電子書籍 |
判型 | 新潮新書 |
頁数 | 240ページ |
ISBN | 978-4-10-610659-0 |
C-CODE | 0237 |
整理番号 | 659 |
ジャンル | 妊娠・出産・子育て |
定価 | 858円 |
電子書籍 価格 | 836円 |
電子書籍 配信開始日 | 2016/06/17 |
蘊蓄倉庫
「絞首台の笑い」という表現があります。死を目前にした死刑囚が、まさに首にロープをかけられようとする刹那、恐怖のあまり笑うのです。恐怖に耐えられない時に出る笑いは、人間の防衛本能と言えます。
実は、犯罪者には残酷な話をしながら笑う者が多くいます。普通の人間の感性で言えば、「酷い話をしながら笑うなんて、人間じゃない!」と怒りたくなるところです。しかし、この笑いは犯罪者自身が残酷な行為を楽しんでいるからとは限りません。残酷な犯罪を犯した加害者は、しばしば自身が虐待やネグレクトの被害者なので、そうしたつらい状態をやり過ごすために、すべての感情的反応を「笑い」に転じて自己防衛している場合が多いからです。
担当編集者のひとこと
聞いてみたかった
本書の著者・岡本茂樹さんは昨年の6月にお亡くなりになりました。まだ56歳の若さでした。岡本さんは2014年7月に前著『凶悪犯罪者こそ更生します』を出されていますが、その出版の直前に脳腫瘍が見つかり、闘病生活に入られていました。遠からず仕事に復帰されるのだろうなと気楽に考えていたのですが、メールで連絡を差し上げても返事を頂けないことが増え、「どうしたのだろう」と考えていた矢先に訃報が届きました。あまりの急な展開に言葉もありませんでした。
お亡くなりになってしばらくすると、生前の岡本さんの本を二冊担当したご縁もあり、ご遺族から遺稿の整理を頼まれました。本書の元になる原稿は、そうした遺稿の中に残されていたものです。
本書で岡本さんは、「いい子」に疑問を投げかけています。なぜなら、刑務所での更生支援活動をしてきた岡本さんは、受刑者に「元いい子」が多いことを知っているからです。中には中学校で生徒会長をしていたような人までいたとか。
そんな彼らがなぜ、獄の中に落ちてしまうのか。岡本さんの説明によると、こうなります。
受刑者たちはほぼ100%、子ども時代に家庭の問題を抱えている。しかし、その不遇な状態に感じる不安や寂しさを、誰にも受け止めて貰っていない。それどころか、不安や寂しさを抑圧して自ら笑顔をつくり、自分で自分を励まそうとしたりする。それを「ニコニコ笑ういい子だね」などと周囲にほめられたりするものだから、余計に自分の感情を抑圧してしまう。しかし、いつか精神の無理は限界に達し、それが「犯罪」という形で爆発してしまう。凶悪犯罪が起こるとしばしば、「あんないい子が、なぜ……」という「近所の声」が紹介されたりするが、むしろ「あんないい子」で居続けたことが犯罪の原因だとも言えるのだ、と。
本書の中では、覚醒剤で逮捕された酒井法子さんの「いい子」ぶりを分析しているのですが、もしご存命だったら清原和博選手についての見解も聞いてみたかった。強面の風貌や入れ墨、粗暴な振る舞いなど、報道で伝えられる清原選手は「真っ黒け」といった印象ですが、若いときから圧倒的な成績を残し、期待に応えようと無理を重ねた清原選手のこれまでの人生は、本人の内面から見ればかなり「いい子」のそれだったのではないか、という気がしています。ご遺族によると、尼崎にお住まいなのに巨人ファンだった岡本さんは、甲子園にも時々でかけていたそうですから、清原選手の活躍も生でご覧になっていたでしょう。
本当に、惜しい方をなくしてしまいました。著者のラストメッセージを、読者の皆様にお届けできたのが、せめてもの救いです。
2016/03/25
著者プロフィール
岡本茂樹
オカモト・シゲキ
(1958-2015)1958(昭和33)年兵庫県生まれ。元立命館大学産業社会学部教授。臨床教育学博士。大学での研究・教育活動の傍ら、刑務所での受刑者の更生支援にも携わる。著書に『反省させると犯罪者になります』『凶悪犯罪者こそ更生します』などがある。2015年没。