会話のきっかけ
814円(税込)
発売日:2014/10/17
- 新書
- 電子書籍あり
気まずい沈黙が続く……。さて、どうする?
初対面の相手を前に沈黙が続く。さて、どうしよう……。苦手な挨拶を頼まれた。さて、どうしよう……。近隣トラブルが深刻だ。さて、どうしよう……。とかく面倒な世間でも、口のきき方と心構えひとつでずいぶん楽になるもの。しゃべりのプロが、時に自ら動き、時に先人の知恵を借り、時に勝手に聞き耳を立てて見出した、あらゆる「気まずさ」からの脱出法とは。人づきあいで気苦労を抱えがちな貴方への特効薬。
書誌情報
読み仮名 | カイワノキッカケ |
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シリーズ名 | 新潮新書 |
発行形態 | 新書、電子書籍 |
判型 | 新潮新書 |
頁数 | 224ページ |
ISBN | 978-4-10-610591-3 |
C-CODE | 0281 |
整理番号 | 591 |
ジャンル | ビジネス実用、趣味・実用 |
定価 | 814円 |
電子書籍 価格 | 660円 |
電子書籍 配信開始日 | 2015/04/17 |
インタビュー/対談/エッセイ
波 2014年11月号より 気まずさからの脱出
意外に思われるかもしれないが、お笑い芸人さん達にも私の様なタイプが結構いる。
ある若手芸人が本番前テレビ局のトイレに行った。すると思いがけず司会の大物芸人が「小」をしながらちらっと振り向いたそうだ。
「今日一緒か?」
「はい! よろしく御願いしまーす!!」
元気に挨拶をしたものの、その先、何と話したら良いのか「会話のきっかけ」が思いつかない。一緒に並んで用をたしながら言葉を交わすなどとても無理。彼は洗面台へ直行した。そして鏡に向かい大きく目を開け、「これすぐズレるんですわー」と両指を器用に使いコンタクトレンズを調整する風を演じた。
実は彼、コンタクトはしていない。用を終えた大御所が洗面台にやって来て手を洗う。
「大変だな。じゃお先!」
「失礼します! よろしく御願いしまーす!」
苦しまぎれのウソではあるが、「これすぐズレるんですわー」は彼にとって気まずさを克服する会心の「会話のきっかけ」となったそうだ。
先日、親しい友人の娘さんの結婚披露宴に招待された時のこと。私の席は、新婦側主賓席。そこに座っているのは新婦の勤務先上司、以前の勤め先の女性部長、大学時代のゼミ教授、高校時代の恩師等々、私を含め全員初対面同士だ。
乾杯後、それぞれが気まずさに耐えながらビールを黙々と口に運んだりメニューをじっと見つめたりしている。友人は主賓席の気まずい空気解消を私に期待していたのだろう。「これも仕事だ!」と割り切ったらすっと言葉が出た。
「新郎もなっかなかな男前ですねえ」
「ベタ」な一言が場を和ませたらしい。
「似合いのカップルですね」「○ちゃん好みのアスリートだわ」「彼女もテニスサークルでキャプテンでした」「高校ではインターハイ行きましたから」
知らない者同士の「会話のきっかけ」には「肯定的な言葉」をポンと投げ込むと良い。
高層タワービル。閉まりかけのところを無理矢理乗ったエレベーターに怖い顔の社長が……。
どこかで見たことがあるけど名前が思い出せない「偉い人」と新幹線で隣り合わせに……。
夜の町で女性と腕を組む上司とばったり……。
入院して落ち込んでいる友人をわざとらしくない感じで励ましたいが……。
私たちの日常は常に気まずさや戸惑いと隣り合わせだ。そんな時に何を言えばいいか。どう振る舞えばいいか。普段から考えてきたことをまとめたのが本書である。私同様、人見知り、あがり症、口下手な方の参考になると嬉しい。
蘊蓄倉庫
いつも独り言を言っていると気持ち悪がられるリスク大ですが、よく知らない人と雑談をする際、第一声としてもっともリスクが小さいのが独り言だ、というのが梶原しげるさんの見解です。
「ああ、ここなら、千代田線でも来られる! ホーム直結だったんだ……」
こんな独り言のような感じで切り出すと、相手も「ええ、意外と便利なんですよ、ここ」という風に返せて、そこから雑談が進むというのです。
それ以外には「共有」「報告」などの手法も有効だそうですが、詳細は割愛。
『会話のきっかけ』には、この他にも人づきあいを楽にするヒントが満載です。
担当編集者のひとこと
初対面の人とどう話すか
入社して週刊誌の編集部に配属され、初めての出張は沖縄でした。沖縄に行ったのもそれが初めてでした。
青い空、青い海を堪能できれば良かったのですが、そんなうまい話はありません。同行のベテラン記者はとても厳しい人で、なおかつ口の悪い人でした。
取材どころか、大人と話をすることもろくに出来ないというレベルの私は、常に先輩の叱責を恐れながら行動していました。
取材の過程で、地元の方に道を聞くと、
「そこまで案内しましょう」
そう言って、タクシーに同乗してくださいました。中年の女性だったと思います(といっても多分今の私よりも若い)。
タクシーには運転手さん、私、先輩、地元の女性の4人が乗っています。その間、特に話すこともなく、沈黙が続きましたが、無事、目的地に到着することができました。
取材を終えて、その夜。
先輩は私にこう言いました。
「君さあ、あのタクシーで、一言も喋らなかったよな。ずーっと黙っていた。せっかく案内してくれる人に、少しでも何か話すのが当然じゃないのか。その程度の気も使えないんなら、駄目だ。この仕事、向いていないと思うよ」
そう言われると返す言葉がありませんでした。初対面の素性も良くわからない人と何を話せばいいのか。さっぱりわからなかったのです。
で、宣伝ですが、あの頃、もしも『会話のきっかけ』を読んでいれば、こんなことにはならなかっただろう、と思います。この本にはまったく初対面の人と会話を続けるための具体的なアドバイスが書かれているのです。それ以外にも、人間関係の様々な局面で役に立つ知恵が満載です。
ちなみに、「向いていない」と言われた後、私は早く異動にならないかなあと思っていたのですが、結局、その編集部に10年以上いることになりました。
2014/10/24
著者プロフィール
梶原しげる
カジワラ・シゲル
1950(昭和25)年神奈川県生まれ。早稲田大学第一法学部卒。文化放送に入社してアナウンサーとなり、1992年からフリー。司会業を中心に活躍中。東京成徳大学客員教授(心理学修士)、日本語検定審議委員。著書に『口のきき方』『すべらない敬語』『即答するバカ』など。