だから日本はズレている
968円(税込)
発売日:2014/04/17
- 新書
- 電子書籍あり
リーダーなんていらないし、絆じゃ一つになれないし、ネットで世界は変わらないし、若者に革命は起こせない。29歳の社会学者が「日本の弱点」を突く。
この国の「大人たち」は、いつもどこかズレている。ジョブズのようなリーダーに憧れ、夢と絆で一つになれると信じ、「日本の良さ」は必ず伝わると疑わず、若者には変革を期待し、学歴や就活は古いと嗤い、デモやSNSで世界は変わると訴える。この「勘違い」はどこからくるのか? 迷走を続けるこの国を二十九歳の社会学者が冷静に分析。日本人が追い続ける「見果てぬ夢」の正体に迫る。
書誌情報
読み仮名 | ダカラニホンハズレテイル |
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シリーズ名 | 新潮新書 |
雑誌から生まれた本 | 新潮45から生まれた本 |
発行形態 | 新書、電子書籍 |
判型 | 新潮新書 |
頁数 | 240ページ |
ISBN | 978-4-10-610566-1 |
C-CODE | 0236 |
整理番号 | 566 |
ジャンル | 社会学、ノンフィクション |
定価 | 968円 |
電子書籍 価格 | 660円 |
電子書籍 配信開始日 | 2014/10/17 |
インタビュー/対談/エッセイ
「若者」のうちに言っておきたいこと
「若者としての意見を聞かせて下さい」「最近の若い世代はこの問題についてどう考えているのでしょうか」。そんな質問をこの二年半ほどでざっと数百回はされたと思う。
きっかけは二○一一年秋に出版した『絶望の国の幸福な若者たち』だ。就職難や世代間格差の被害者と言われる若者たちが、実は幸せに暮らしていることを指摘した本である。著者である僕はその時26歳。若者が若者について語るのが珍しかったのだろう。メディアや政府の会議などで、僕は何度も「若者」としての意見を求められた。
そういう場では、普段だったら出会うことができない人と話すことができる。楽屋裏でインフォーマルな会話を交わすこともできる。社会学者にとっては格好のフィールドワークの場だ。
昨年夏に消費増税を決めるための会議に、「若者」として官邸に呼ばれた時のことである。僕がおそらく最年少で、80歳近い参加者もいた。
僕にしては珍しく、「日本は若年層向けの社会保障が貧弱な国。それが少子化の一因ともなっている。現役世代のための増税というなら数字でもそれを示して欲しい」という比較的まともなことを言った。その意見を真面目に聞いてくれた人もいたが、会議が終わった後、とある偉いおじさんにこんなことを言われた。
「最近の若い子は性欲も少ないからね。もっと君たちに頑張ってもらわないと。がはは」。どうやら、この方の中では「少子化」イコール「性欲」の問題としか思えないらしい。
確かに「性欲」は「少子化」と関係があるかも知れない。しかしいくら「性欲」が旺盛でも、十分な数の保育施設、子育てしながらでも働きやすい職場環境などが整備されないと、なかなか若者たちは子どもをつくろうとしないだろう。もはや昔のような地域社会は崩壊しているのだ。そもそも、初体験年齢などを見ると、若者の性欲が減退しているとは言えない。
抜本的な制度改革をせずに、何となくの気分と精神論で物事を解決しようとする。これは少子化問題に限らず、広く日本の大人たちに見られる特徴だ。「強いリーダー」待望論、「ネット」や「ソーシャル」への過剰な期待、掛け声と税金の無駄遣いだけの「クール・ジャパン」……。偉い人の考えは、往々にしてピントがズレていたり、大切な何かが欠けていたりする。
新潮新書から出版された『だから日本はズレている』は、この国の大人たちの迷走について観察、分析した本だ。優秀な人材と、巨額の資本が投下されたはずのプロジェクトはなぜ失敗してしまうのか。既得権益の部外者である「若者」視点で考えてみた。もちろん題名に反して僕のほうがズレている可能性もある。一体、ズレているのは誰なのか。若者か、大人か、読者か、僕か。反発しながらでも手にとって頂けたら嬉しい。
(ふるいち・のりとし 社会学者)
波 2014年5月号より
担当編集者のひとこと
「リーダー」なんていらない
スティーブ・ジョブズが亡くなって間もない頃でした。テレビや雑誌は功績を称える特集を組み、死の直後に出版された分厚い伝記は飛ぶように売れ、まるで世界中がジョブズの喪に服しているようでした。そんなとき、古市憲寿さんが雑誌「新潮45」に寄せてくれたのが、「リーダーなんていらない」というコラムです。
「ジョブズってそんなに素晴らしいの?」「ジョブズは日本の組織に本当に必要なの?」「リーダーがいなくても機能する組織のほうがいいのでは?」
世間が「ジョブズ礼賛」であふれる中、その矛盾を突き、本質を見ぬいた分析はとても新鮮でした。これをきっかけに、流行りの言説やもてはやされるブームに一石を投じる記事を書いてもらうこととなったのです。
「ノマドはただの脱サラである」「クール・ジャパンが全然クールじゃない」「絆だけじゃ国は動かせない」「就活カーストは永遠につきまとう」「炎上なんて怖くない」「若い力じゃ社会は変えられない」……。
本書『だから日本はズレている』は、古市氏のこうした記事を一冊にまとめたものです。29歳の社会学者が指摘するこの国の「ズレ」をたどると、「日本の弱点」が浮き彫りになってきます。
2014/04/25
著者プロフィール
古市憲寿
フルイチ・ノリトシ
1985(昭和60)年東京都生まれ。社会学者、作家。『ヒノマル』『正義の味方が苦手です』『謎とき 世界の宗教・神話』など、著作多数。