フランツ・リストはなぜ女たちを失神させたのか
792円(税込)
発売日:2013/12/14
- 新書
- 電子書籍あり
音楽の見方が一変! 19世紀ヨーロッパを制覇した「史上最強のピアニスト」の肖像。
リサイタルという形式を発明した「史上初のピアニスト」フランツ・リストは、音楽史上もっともモテた男である。その超絶技巧はヨーロッパを熱狂させ、失神する女たちが続出した。聴衆の大衆化、ピアノ産業の勃興、スキャンダルがスターをつくり出すメカニズム……リストの来歴を振り返ると、現代にまで通じる十九世紀の特性が鮮やかに浮かび上がってくる。音楽の見方を一変させる一冊。
略年譜 フランツ・リストの生涯
主要参考文献
書誌情報
読み仮名 | フランツリストハナゼオンナタチヲシッシンサセタノカ |
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シリーズ名 | 新潮新書 |
発行形態 | 新書、電子書籍 |
判型 | 新潮新書 |
頁数 | 224ページ |
ISBN | 978-4-10-610547-0 |
C-CODE | 0273 |
整理番号 | 547 |
ジャンル | 音楽 |
定価 | 792円 |
電子書籍 価格 | 660円 |
電子書籍 配信開始日 | 2014/06/20 |
蘊蓄倉庫
ピアノの鍵盤の色が今の黒白の配列に落ち着いたのは、19世紀の初め頃と推定されています。1790年にドイツで作られたピアノはチェンバロと同じく黒白が逆の配列になっていたものの、1819年にウィーンで作られたものは現在と同じ配列になっていますから、この間に反転が生じたのは確実です。
問題は、なぜこの反転が生じたのかですが、著者の浦久俊彦氏は「ブルジョワ婦人たちの指先を美しく見せるためだった」と推測しています。貴族社会からブルジョワ社会に変わっていく中で、ピアノは単なる楽器から、「富の象徴」「趣味の良さの象徴」としての意味も帯びるようになりました。サロンで優雅に演奏するブルジョワ婦人や令嬢の姿も含めての「調度品」となったのです。
担当編集者のひとこと
イケメンすぎる音楽家の過剰すぎる人生
まずは本書オビの肖像画をご覧になってください。そのイケメンぶりに驚かれる方も少なくないかもしれません。
実際、超絶技巧を惜しみなく駆使したフランツ・リスト(1811~86)のピアノ演奏は、欧州の聴衆を熱狂させ、失神する女性が続出したと言います。リサイタルでは、彼の激しい演奏によってピアノが壊れた場合に備え、2台のピアノが向かい合わせに配置されることもありましたが、これには「聴衆が彼のイケメンぶりを左右両方から楽しめるように配慮されたから」との噂まで流れていました。
実は、リストという音楽家の来歴を見ると、この人物が一身にして「近代の終わり」と「現代のはじまり」を体現した「媒介者」的な存在であったことがわかります。
本人は「精神性」や「ポエジー」を求めて音楽に打ち込み、芸術家の社会的使命にも自覚的でした。しかし、彼が生きた時代は「貴族社会」から「大衆社会」へと劇的な転換を遂げていく時期です。彼が大衆的な人気を得たのは、音楽の精神性が評価されたからではなく、ルックスの良さや技巧の巧みさ故でした。そこには、数々の恋愛スキャンダルによって人気が沸騰していくという、現代のスターシステムと同じメカニズムも作用しています。
またリストは、ブルジョワ社会の発展によって「楽器の王者」となるピアノの、最高の伝道師にしてプロモーターでもありました。「精神の貴族」は、逆説的に「音楽の大衆化」に多大な役割を果たすことになったのです。
今年の4月に村上春樹氏の『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』が出版され、リストに多少の注目は集まりましたが、その生涯は彼が音楽史に果たした役割の画期性に比して、ほとんど知られていません。本書は、ほとんど本邦初といえる、リストの「意味」を描いた評伝であり評論です。読めば19世紀という時代の実相がくっきりと理解できるだけでなく、音楽の見方も一変するはずです。むしろ、クラシックが特に好きでない方のほうが、面白く読めるかもしれません。自信をもってご一読をおすすめします。
2013/12/25
著者プロフィール
浦久俊彦
ウラヒサ・トシヒコ
1961年生まれ。文筆家・文化芸術プロデューサー。一般財団法人欧州日本藝術財団代表理事。代官山未来音楽塾塾頭。サラマンカホール音楽監督。著書に『フランツ・リストはなぜ女たちを失神させたのか』『悪魔と呼ばれたヴァイオリニスト パガニーニ伝』など。