カネ遣いという教養
770円(税込)
発売日:2013/10/17
- 新書
- 電子書籍あり
箸置きに20万円、眼鏡に80万円、文具、オーディオに高級車一台分……。身銭を切らなければ己は磨けない。
箸置きに二十万円、椅子に三十三万円、文具、時計、カメラ、オーディオにはそれぞれ高級車一台分……。ファンド・マネージャーとして億単位の収入を得ていた著者は、ありとあらゆることにカネを使い続けてきた。いまや高給を得られる職を辞し、二度の離婚でカネはすべて失ったが、後悔はいっさいない。「教養」はこのカネ遣いによって手に入れられたのだから。「運用の専門家」が「蕩尽」の観点からおカネの本質に迫る。
書誌情報
読み仮名 | カネヅカイトイウキョウヨウ |
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シリーズ名 | 新潮新書 |
発行形態 | 新書、電子書籍 |
判型 | 新潮新書 |
頁数 | 208ページ |
ISBN | 978-4-10-610539-5 |
C-CODE | 0210 |
整理番号 | 539 |
ジャンル | 社会学 |
定価 | 770円 |
電子書籍 価格 | 660円 |
電子書籍 配信開始日 | 2014/04/18 |
インタビュー/対談/エッセイ
波 2013年11月号より 現代の奇書!?
私は中学生の時にTVドラマ「宇宙大作戦」に夢中になって以来“トレッキー”と呼ばれるコアなファンの一人です。宇宙船・USSエンタープライズが活躍する一連のシリーズでは1987年から1994年まで続いた「新スター・トレック」が最も好きで、全178話のDVDも揃えていて繰り返し観ています。
「新スター・トレック」の舞台となる二十四世紀にはカネは存在していません。
その頃の人類は金銭欲や物欲を克服し、自己の精神性を高めることを生きる目的としているという設定になっているのです。
原作者のジーン・ロッデンベリーは「『スター・トレック』で描くのは道徳である」とまで言い切っています。彼が理想とする未来社会ではカネは忌み嫌うべきものとして切り捨てられています。
1991年に70歳で亡くなった彼が、本書『カネ遣いという教養』を読んだら何と言っただろうか? それを私は考えてしまいます。
「現代の奇書、ですね!」
これは本書の原稿を最初に読んだ編集氏の言葉です。
カネ儲けや投資の本はこの世にごまんとありますが、カネ遣いについて書いた本は確かに聞いたことがありません。その事実をもって、この本が世に出たことは奇妙奇天烈と言ってよいのかもしれません。
ひとりの男の尋常でないカネ遣いを知ることでカネの本質を知ってもらうことが出来るのではないか? 本気でそう思って書いた節があります。
どんな投資本やビジネス本よりもカネを巡る真実を書いたという自負があるのです。
カネを巡る真実? そう書いてハタと思います。カネをインタフェースに人が出来ること、知ること、喜ぶこと、悲しむこと、考えること……この世で最も不可思議な存在であるカネ(通貨)というものを“遣う”という側面から描いたものを“奇書”と言うのは、正に言い得て妙だ……と。
そして、「カネ遣い」に「教養」という、本来結びつかないようなものが、本書では不思議と結びついている。読んでそう思って頂けたならこれ以上の幸せはありません。
「新スター・トレック」では宇宙船の中での休憩時に乗員たちがポーカーゲームに興ずる場面が数多く出てきます。そこには賭けるチップ(疑似通貨)が登場しますし、勝った負けたで二十四世紀の人間たちが一喜一憂しています。
あのチップは何なのでしょうか?
道徳はいざ知らず“カネを巡る真実”は永遠に変わらない証拠だと私は思っています。
蘊蓄倉庫
「お前のPAは今どうなっているんだ?」
著者がファンド・マネージャーとして実績を上げ、外資系企業の役員に昇格して初めてのグローバル会議に出席した時のこと。ひとりで朝食を食べていると、入れ替わり立ち代り他の役員たちがやってきて、みな「フジワラ、お前のPAは今どうなっているんだ?」と聞いてきたそうです。
PAとはプライベート・アカウント(個人口)のこと。つまり、「お前は今どんな運用をしていて、いくら持っているのか?」と初対面の人間に聞いているわけです。この臆面のなさこそ、欧米の金融機関が世界的に伸してきた理由の一端だ、と著者はいいます。逆に言えば、「慎ましい日本人」ではお金持ちになるのは難しい、とも。
担当編集者のひとこと
あるだけ使うとどうなるか
本書は、かつて「カリスマ」と呼ばれ、累計で総額5000億円もの資金を運用していたファンド・マネージャーによる特異な体験記です。
大阪の町工場で、「貧乏人のぼんぼん」として育てられた著者の藤原さんは、ファンド・マネージャーとして億単位の年収を得るようになっても、「あるだけ使う」という習慣を変えませんでした。その結果、音楽、本、食、家具、器、茶、文具、カメラ、時計など、自分の興味を引いたありとあらゆるものにお金を遣い続けることになります。
普通の会社員だった頃からすでに、独身寮住まいの社会人三年目で33万円の椅子を買い、一人住まいの1LDKの借家をイサム・ノグチやイタリアの照明器具で飾っていたそうです。年収の桁が変わってくると、使う金額も変わってきます。魯山人の箸置き(ひとつ20万円!)に、ルーシー・リーの器を合わせてみる。昭和天皇と同じ型の眼鏡(80万円)をオーダーで作る。伊東屋の文具やライカなどにはそれぞれ高級車一台分のお金を注ぎ込む。高級腕時計も「百貨店のカモ」を自覚しながら買いまくる……。
いまや高給を得られる職も辞し、二度の離婚でカネはほとんど失ってしまったそうですが、藤原さんは「後悔はいっさいない」と言い切っています。なぜなら、お金を遣った結果、「教養」としか言いようのないものを手にすることになったからです。確かに、藤原さんのカネ遣いには、いやらしさが一切なく、どこかさわやかな感じがあります。
服はユニクロ、家も借家、車も持たずに通勤は徒歩、社員食堂で昼飯を食べると一日に一度も財布を開かないこともよくある私からは最も遠い世界の話でしたが、そんな人間が読んでもとても面白い本に仕上がっております。
2013/10/25
著者プロフィール
藤原敬之
フジワラ・ノリユキ
1959(昭和34)年、大阪生まれ。作家。一橋大学法学部卒。農林中金、野村投資顧問、クレディ・スイス、日興アセットなどで資産運用業務に携わる。波多野聖のペンネームで小説『銭の戦争』シリーズを執筆中。本名での著作に『日本人はなぜ株で損するのか?』がある。