キレイゴトぬきの農業論
814円(税込)
発売日:2013/09/14
- 新書
- 電子書籍あり
全部、カン違いです。→【有機=美味で安全】【農家=清貧な弱者】【農業=体力が必要】有機農家が畑でロジカルに考え抜いてわかった真実!
誤解(1)「有機農法なら安全で美味しい」誤解(2)「農家は清貧な弱者である」誤解(3)「農業にはガッツが必要だ」――日本の農業に関する議論は、誤解に基づいた神話に満ちている。脱サラで就農した著者は、年間五十品目の有機野菜を栽培。セオリーを超えた独自のゲリラ戦略で全国にファンを獲得している。キレイゴトもタブーも一切無し。新参者が畑で徹底的に考え抜いたからこそ書けた、目からウロコの知的農業論。
書誌情報
読み仮名 | キレイゴトヌキノノウギョウロン |
---|---|
シリーズ名 | 新潮新書 |
発行形態 | 新書、電子書籍 |
判型 | 新潮新書 |
頁数 | 208ページ |
ISBN | 978-4-10-610538-8 |
C-CODE | 0261 |
整理番号 | 538 |
ジャンル | 産業研究、ガーデニング |
定価 | 814円 |
電子書籍 価格 | 660円 |
電子書籍 配信開始日 | 2014/03/21 |
インタビュー/対談/エッセイ
波 2013年10月号より 農家は「可哀想な人」ではない
僕は脱サラして好きで農業を始めた口なので、農業が精神的に苦痛だと感じることはありません。しかし、「農業されてるんですか? 大変でしょう」と声をかけられることが結構あります。すっかり慣れてしまいましたが、よく考えると、フツーのサラリーマンが見ず知らずの人から「大変でしょう」と言われることはあまりないと思います。
先のお米の話といい、「大変でしょう」といい、農家がやや特殊な扱いを受けるのは、「農業はきつい仕事」「儲からないのに、食べる人のために歯を食いしばって頑張っている」というイメージが浸透しているからでしょう。さらに言えば、農家は世の中でババを引いてしまった人たち、という哀れみの感情すら混じっているようにも思えます。
実際には農業生産をしている農家の多くは、可哀想な人たちではありません。農業全般が他産業に比べて収益性が高いとは言えませんが、突出して低いわけでもありません。
ところが、少なからぬ人が、農家は不条理な目に遭っている、と考えているせいで、農家や農業を客観的に語ることがタブー化してしまい、オープンに議論することがはばかられるような空気があるように思えます。
同じ食べ物でも、コンビニ弁当を語る際には、企業間の競争で消費者に利益がもたらされることがよしとされ、価格や品質の競争に敗れたプレイヤーは脱落して当然と誰もが考えています。ひるがえって農業はどうでしょうか。
「消費者の利益になるなら、貿易の自由化や企業の参入も進めるべきだし、農家が高齢化して生産性が落ちたら潰れて当然」。こんな意見を言うと、ひどい奴だと叩かれてしまいます。この空気の中では、農業に関する素朴な疑問を口にすること自体が、ご飯を残すような後ろめたさを人々に感じさせるのではないでしょうか。
農業だけは「命の産業」だから、「子どもたちの未来」のために守らなきゃいけない! という美しいキレイゴトで議論すらままならない状況が健全だとは到底思えません。何より問題なのは、そんな農業は、チャレンジ精神と野心を持った優秀な若者からは魅力的に見えないことです。
守らなきゃ、と言っている人たちが、結果的に農業を魅力のないものにしてしまっているのではないか? 好きで農業をやり始めて、それでメシを食っている僕はそう思っています。
『キレイゴトぬきの農業論』では、こうした多くの誤解をロジカルに論じ、農業が知的魅力に満ちた面白い仕事であることを具体的に紹介しています。ぜひご一読下さい。
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蘊蓄倉庫
コンビニの定番商品「おでん」。その中でも定番のタネの大根は、なぜあんなに長時間煮続けているのに煮崩れないのでしょうか。普通の家庭ならばもっとグズグズになっているはずです。実は、あのコンビニおでんの大根は、専用に開発された品種で、煮崩れしづらい、大きさ・断面が一定等の特徴がある「客待ち品種」と呼ばれるものなのです。『キレイゴトぬきの農業論』には、消費者が知らない野菜、農業の話が詰まっています。
担当編集者のひとこと
「日本一話のうまい農家」の話
『キレイゴトぬきの農業論』の著者、久松達央さんは、仲間内で「日本一話のうまい農家」と称賛(もしくは揶揄?)されているそうです。確かに、久松さんのお話はとても面白い。ギャグ満載とかそういうことではなく、とてもロジカルでかつ話のテンポがいいので、ついつい引き込まれてしまいます。久松さんが悪い道に進まずに、有機農家になってくれて良かった。そんな気さえします。
もっとも、単に話がうまいというだけでは、多分、引き込まれることはないでしょう。すべてに実体験に基づいた裏付けがあるからこそ、彼の話は面白く、また説得力があるのです。
たとえば、久松さんは有機栽培で野菜をつくっている立場でありながら、「有機野菜だから安全で美味しいとは限らない。安全という点でいえば農薬を使っても変わらない」と言い切ります。少なくとも、現在使用が許可されている農薬を適切に使う分には、人体に影響はない、という立場です。
本当は、有機野菜を売っているのならば、「農薬は危ない。あなたの健康、子供の未来を考えたら有機のほうが安全だし、しかも美味しい」と言ったほうがセールストークとしては成立しやすいはずです。実際に、そういうことを売りにする人も多くいます。
しかし、真面目に有機に取り組んで考え抜いたからこそ、そんなことは言えないのだと彼は言います。
久松さんのような意見は、農業についてオモテにあふれているキレイな物言いを否定するようなものかもしれません。しかし、そうしたキレイゴトを取り除いていった先に、本当の農業の面白さやビジネスとしての可能性がある、というのが彼の考えです。
この本ではさまざまな農業にまつわる「常識」とは異なることが書かれています。「農家は清貧な弱者ではない」「農業にセンスやガッツは要らない」等々。それって本当?とお疑いの方はぜひ開いてみてください。きっと「日本一話のうまい農家」の話に引き込まれて、納得させられるはずです。
2013/09/25
著者プロフィール
久松達央
ヒサマツ・タツオウ
1970(昭和45)年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、帝人(株)で輸出営業に従事。1999年、農業へ転身し、久松農園を設立。年間五十品目以上の旬の有機野菜を栽培し、会員消費者と都内の飲食店に直接販売をしている。