都市住民のための防災読本
748円(税込)
発売日:2011/07/15
- 新書
- 電子書籍あり
備えよ! 生き残るための完全マニュアル。(1)超高層では家族で36リットルの水を備蓄(2)帰宅難民は家に帰るな(3)『帰宅支援マップ』はアテにならない(4)エレベーターに乗るときはコンビニ袋を(5)「猫砂+ゴミ袋」で簡易トイレ(6)高層難民3日目にはバーベキューを(7)水洗トイレの水を有効活用
日本列島が地震の活動期に入った現在、高層マンションやビルが乱立する近代的大都市も、遠からず歴史上初の巨大地震を経験することになる。いざという時に何をすれば良いのだろうか? 「帰宅難民は『帰宅支援マップ』をあてにしない」「高層難民は『猫砂+ゴミ袋』で簡易トイレを作る」など、実践的な防災の智恵と心得を伝授する。
書誌情報
読み仮名 | トシジュウミンノタメノボウサイドクホン |
---|---|
シリーズ名 | 新潮新書 |
発行形態 | 新書、電子書籍 |
判型 | 新潮新書 |
頁数 | 192ページ |
ISBN | 978-4-10-610429-9 |
C-CODE | 0236 |
整理番号 | 429 |
ジャンル | 社会学 |
定価 | 748円 |
電子書籍 価格 | 660円 |
電子書籍 配信開始日 | 2012/01/27 |
書評
「想定外」とはもう言わない
「想定外」だから仕方なかった――。東日本大震災の発生後、防災関係者や原子力関係者、地震学の専門家などの口から、そんな諦めとも責任逃れともつかぬセリフがしばしば出ています。私自身、震災発生後から三日間出ずっぱりだった日本テレビの報道特別番組の中で、この言葉を口にしました。
しかし私は、今回の震災を「前代未聞だった」「想定外だった」と評することは、もうやめました。今では、「想定できなかった」という事実を、率直に恥じています。なぜなら、「想定外」の出来事を「想定内」に変えていくことが、地震予知や災害予防に携わる学者、私のような防災・減災を専門とするジャーナリストやコンサルタントの役割だと考えるからです。
考えると恐ろしい事実ですが、広い範囲にわたる後背地を抱えた近代的大都市が巨大地震に襲われるという事態を、人類はまだ経験したことがありません。東京や大阪、名古屋など日本の巨大都市は、幸いにも関東大震災から90年近くもの間、巨大地震に襲われていないのです。
戦後、東京一極集中が続く中で、限られた土地を有効に使うため、東京は地盤の緩い湾岸部、そして天空や地下へと発展していきました。その結果、東京は潜在的に世界でいちばん危険な巨大都市になりました。高さ100メートルを超える高層ビルが建ち並ぶ一方、都営地下鉄・大江戸線の六本木駅のように地下40メートルの深さにまで駅が作られています。逆説的ですが、この間に一度でも大震災に見舞われていたら、こうした流れにストップがかかっていたでしょう。
大都市が震災に襲われると、地方では発生しない3種類の「震災難民」が発生します。すなわち、電気の通じない高層マンションの自宅での生活を余儀なくされる「高層難民」、鉄道の不通によって都心に取り残される「帰宅難民」、そして、収容力不足で避難所からあぶれる「避難所難民」です。東京が直接の被災地にならなかった東日本大震災の際にも、首都圏で300万人の帰宅難民が発生し、エレベーターの動かない高層マンションで高層階に閉じ込められた人たちが出ました。発生が確実視されている首都直下地震や東海地震の際には、これを上回る事態が発生するでしょう。
この本は、「想定外」を「想定内」にするつもりで書きました。マグニチュード7クラスが想定されていた東日本沖で、マグニチュード9.0という予想を遥かに超える巨大地震が起き、これまでの防災計画は水泡に帰しました。日本が地震の活動期に入ったことも、ほぼ確実です。だからこそ「次」への備えを可及的速やかにしておく必要があります。
本書には、すぐに実行できる具体的な対策を出来るだけ盛り込んでおきましたので、皆さんの防災対策に役立てて頂ければ幸いです。
(わたなべ・みのる 防災・危機管理ジャーナリスト)
波 2011年8月号より
蘊蓄倉庫
9世紀後半と似ている?
東日本大震災との類似性が指摘されている「貞観地震」が発生した9世紀後半、日本では天災が相次いでいました。年代順に記すと、出羽地震(850年)、越中・越後地震(863年)、阿蘇山、富士山の噴火(864年)、貞観地震(869年)、鳥海山噴火(871年)、開聞岳噴火(874年)、関東地震(878年)、出雲地震(880年)、平安京地震(881年)、仁和地震(887年)、八ヶ岳噴火(888年)となります。まさに、日本中で場所を選ばず大災害が頻発していたことが分かります。
今年になって、霧島連山の新燃岳が噴火し、桜島の活動も活発化、富士山の山体膨張も確認されています。地震も各地で頻発しています。9世紀後半との類似が偶然であってくれればそれに越したことはありませんが、「次」への備えはしておいた方が良さそうです。
掲載:2011年7月25日
著者プロフィール
渡辺実
ワタナベ・ミノル
1951(昭和26)年生まれ。防災・危機管理ジャーナリスト。(株)まちづくり計画研究所代表取締役所長。NPO法人日本災害情報サポートネットワーク理事長。技術士・防災士。工学院大学建築学科卒。著書に『大地震にそなえる 自分と大切な人を守る方法』など多数。