冤罪の軌跡―弘前大学教授夫人殺害事件―
770円(税込)
発売日:2011/01/17
- 新書
- 電子書籍あり
無実を訴え続けた青年、信じ続けた家族、名乗り出た真犯人……。小説を超えた展開! 迫真のノンフィクション。
警察のストーリー通りの調書と、疑惑の証拠鑑定によって、二五歳の青年は殺人犯にされてしまった。判決が確定し、服役も終えた後、真犯人が名乗り出てきたことで、時計の針は再び動き始めたのだが……司法の不条理に青年と家族はどのように立ち向かったのか。過ちはいつまで繰り返されるのか。戦後日本の冤罪事件の原点、弘前大学教授夫人殺害事件の顛末を新資料を盛り込んで描き出す、迫真のノンフィクション。
主な参考文献・資料
書誌情報
読み仮名 | エンザイノキセキヒロサキダイガクキョウジュフジンサツガイジケン |
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シリーズ名 | 新潮新書 |
発行形態 | 新書、電子書籍 |
判型 | 新潮新書 |
頁数 | 208ページ |
ISBN | 978-4-10-610402-2 |
C-CODE | 0232 |
整理番号 | 402 |
ジャンル | 法律 |
定価 | 770円 |
電子書籍 価格 | 660円 |
電子書籍 配信開始日 | 2011/07/15 |
蘊蓄倉庫
言うまでもなく三島由紀夫の割腹自殺が社会に与えた影響には、物凄いものがあり、今でもそれについて論じた本が様々出版されています。『冤罪の軌跡―弘前大学教授夫人殺害事件―』でも、実はこの自殺が大きな役割を果たしているのです。自らの罪をずっと黙っていた真犯人が、刑務所の中で、つい告白をしてしまう。そのきっかけとなったのが、三島の自殺でした。この告白がもとで、事態は急展開をしますが、詳細は本書で。
担当編集者のひとこと
息もつかせぬ面白さ
「事件の取材をやってみたい」といったことを入社面接などで言う方がいます。「週刊誌の仕事なんて下司です」と言われるよりはいいものの、ちょっとひっかかる感じがあるというのが正直なところです。
入社後、記者をやっている若い人の中でも「事件の取材が面白い」という人がいます。これもなんとなくひっかかってしまいます。
面白い、というのはわからなくもありません。私自身、そういうことをやったこともありますし、そういう仕事には他ではなかなか得られないエキサイティングな経験をすることがあるのは事実です。ドキドキもしますし、ヒリヒリもしますし、ヒヤヒヤもします。こういう経験にはある種の麻薬性があるのかもしれず、それに魅入られてしまう人がいるのもよくわかるのです。
でも、どこかで「やってみたい」とか「面白い」という言い方には違和感をおぼえてしまいます。事件である以上、関係者が全員ハッピーという構図は存在せず、どこかで苦しい目に遭っている人や、損をしている人がいるはずだと思うからです。
というもっともらしい話を全部吹っ飛ばしてしまいかねないのですが、あえてシンプルに言えば、『冤罪の軌跡―弘前大学教授夫人殺害事件―』は、間違いなく「面白い」本です。
この本は戦後間もなく起きた冤罪事件の顛末を描いたノンフィクションです。冤罪事件である以上、殺された人と間違って逮捕された人という二重の被害者がいるわけですから、やはり面白いと簡単には言いづらいものがあります。
それでも「面白い」と言うのは、小説よりも奇なり、を地で行くような展開と、登場人物それぞれのドラマが細かく描かれているがゆえの深みがあるからです。
無実の罪を着せられた青年、それを気遣う家族、ずっと黙っていた罪をある事情で告白する真犯人、その告白を受けて動き出す弁護士と新聞記者……。徹底した取材から、それぞれの人物の生活、息遣いが伝わってきます。息をもつかせぬ展開と人間ドラマで最後まで一気に読めます。
もちろん面白い、だけではなく、冤罪事件の恐ろしさと今にも通じるその構図が見えてきます。
事件物が好き、という人だけではなく、普段ミステリは読むけどノンフィクションはちょっとね……という人にも強くお薦めします。
2011/01/25
著者プロフィール
井上安正
イノウエ・ヤスマサ
1944(昭和19)年栃木県生まれ。中央大学法学部卒。読売新聞で長年事件取材に携わる。『冤罪の軌跡―弘前大学教授夫人殺害事件―』の主題となった弘前大学教授夫人殺害事件の取材で、日本新聞協会賞、菊池寛賞を受賞。社会部長、西部本社取締役編集局長、報知新聞顧問を経て退社。著書に『検証!事件報道』など。