国家の命運
748円(税込)
発売日:2010/10/15
- 新書
- 電子書籍あり
外交の修羅場で考えた危機と希望。
国益を背負う外交の現場とは、いかなるものなのか。世界という視座から見た日本は今、どういう国なのか。戦後最大の経済交渉となった日米構造協議の内実、にわかに台頭する中国の外交スタンス、独裁国家北朝鮮との話し合いの難しさ、先進国サミットの裏側……四十年余の外交官生活をふり返りながら、衰えゆく日本の国勢を転回させるための針路を提示する。
黒船以来の伝統的構図
アメリカ市場の決定的重要性
「日本異質論」から構造協議へ
前代未聞の一ヶ月
表現とプレゼンの重要性
中国外交は本当に「したたか」か?
なぜ「外圧」を待つのか
二つのお決まりフレーズ
「Thank You広告」のトラウマ
日本流の「Yes,we can」
世界が嘆くODAの激減
「今のニッポンは素晴らしい」
危機的デモグラフィー
外国人労働者の受け入れを
Look Koreaの時代
若者よ、今こそ世界へ
II 互いを理解し、信頼関係を
III オフェンスとロジックが大事
IV 交渉争点の絞り込みと節目づくり
V 最終局面では、勇気をもって決断、決裂も恐れるな
VI 「51対49」の原則
最初に過大な要求
中国も手こずる「NO」
建前を重視する
見事なほどの豹変
六者協議の実情
日中漁業交渉の顛末
東シナ海ガス田交渉の合意まで
尖閣上陸とヘリ異常接近
日韓漁業協定の舞台裏
難題は農産品の水際措置
東アジア共同体構想とは何か
TPPとベトナムの戦略的外交
環太平洋か、東アジアか
さすが、と思わせた首脳たち
書誌情報
読み仮名 | コッカノメイウン |
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シリーズ名 | 新潮新書 |
発行形態 | 新書、電子書籍 |
判型 | 新潮新書 |
頁数 | 192ページ |
ISBN | 978-4-10-610390-2 |
C-CODE | 0231 |
整理番号 | 390 |
ジャンル | 政治 |
定価 | 748円 |
電子書籍 価格 | 660円 |
電子書籍 配信開始日 | 2011/04/08 |
インタビュー/対談/エッセイ
波 2010年11月号より この国の「今、そこにある危機」を思う
私は、約四十年間の外交官生活を通して、官僚機構の硬直性に直面し、政治的に難しい決定をするのがどれだけ大変か、実際に目にもしてきた。しかし、今の日本に求められているのは、問題を直視し、痛みや困難から逃げずに突き進む勇気と覚悟であり、それは行政、政治にかぎらず、国民すべてに求められている。その具体的課題と自分なりの処方箋を本書で提示してみた。
外交交渉については、多くの修羅場をくぐった経験をふまえ、交渉のツボについて整理している。外交にとどまらず、ビジネスの世界を切り拓く上でも、多少はお役に立つかもしれない。
そして、これからの日本にとって死活的に重要と思われる外交分野について、ページを多く割いた。海洋をめぐる問題がその一つで、本書を書き終えようとした頃、尖閣諸島をめぐる中国との対立が同時進行で表面化した。その他、経済連携協定(EPA)も日本の成長戦略に欠かせないテーマであり、これらについて、できるだけ簡にして要を得るよう心がけ、その背景と解決への方途を述べている。
一九八〇年代前半までの日本は、大戦後のサクセス・ストーリーの主役だった。しかし、あまりの成功ゆえに、取りまく環境が様変わりし、革新を迫られても、身動きがとれなかった。惰性によって失われたのは十年か、いや二十年か……。それでも大成功の遺産で、もう少しだけ、やっていけそうだが、これこそ成功の罠である。今後あと十年足らずで、この遺産は完全に食いつぶしてしまうだろう。その時慌てふためいても、すでに遅い。今ならまだ間に合う、そのギリギリのところに日本は立っている、と私は思う。
外交交渉の機微や要諦を後輩に残しておこう、と思い立って筆をとったが、考えるほどに、日本の将来を左右する問題の深刻さに心を奪われた。気がつくと、回顧にとどまらず、私的な日本論となっていた。タイトルは立派すぎて少々気恥ずかしくもあるが、著者としての思いと本の内容は、日本の「今、そこにある危機」、まさに国家の命運そのものであり、御寛恕をいただきたい。
遠く江戸時代の暮らし良さを自慢し、あるいは近くの中国をあげつらうばかりでは、日本の進むべき道には何の助けにもならない。若い世代はもちろん、幅広い層の方に読んでいただき、国民的議論が活発化する一助となればと願っている。
蘊蓄倉庫
戦後日本はひたすらモノを作り、海外へ輸出することで世界中が羨む豊かな国になりました。それはかつて福沢諭吉が『文明論之概略』の中で述べたように、「産物の国」から「製物の国」、そして輸出大国へ、という富国への流れであり、何より、優れた技術力がそれを可能にしました。日本人科学者二人にノーベル化学賞授賞、というトップニュースのわきで、共同研究のために海外に長期派遣される研究者はこの10年で半減、と伝えられます。日本人留学生の急減で、経済大国を築いた技術力に再投資ができなくなっていることは著者も憂慮しており、「若者よ、世界へ」という思いは受賞者と共通であるようです。
担当編集者のひとこと
「永遠に生きねばならぬ国家」をめぐって
政治主導と官僚支配からの脱却を掲げて政権交代を果たした民主党への期待は、このところ、急速にしぼみつつあるようです。国内外に難問山積は今にはじまったことではありませんが、内政にせよ、外交にせよ、掛け声だけで何とかなるほど国家の運営は簡単でないことが再確認されたという側面もあるでしょう。
著者はこの夏に外務事務次官を退任するまで、1970年代から40年余り、国益を背負う外交交渉の最前線で奮闘しつづけてきました。その様子は、戦後最大の経済交渉となった日米構造協議、近年では、北朝鮮の核と拉致問題をめぐる六ヶ国協議など、メディアを通じてご記憶の方も多いと思います。
もちろん、結果について様ざまな不満を抱く人もあることでしょう。しかし、外交において精神主義や感情論で対処することの危険は、往時の知識人が厳しく戒めるところです。
「こちらからワンと言って、先方がただだまって引込むなら現実主義は一番実益主義だ。しかしこちらがワンと言うと、先方がそのまま引きさがる保証があるかね。(中略)永遠から永遠に生きねばならぬわれらの国家にとって、いうところの理想主義者は結果において現実主義者である……」(清沢洌『非常日本への直言』) 理想ばかりでも、理屈だけでもなく、現実の経験にもとづいて語られる日本の現勢図、そして将来への羅針盤としてぜひ御一読ください。
2010/10/25
著者プロフィール
薮中三十二
ヤブナカ・ミトジ
1948(昭和23)年大阪府生まれ。大阪大学法学部中退。北米局課長時代に日米構造協議を担当。アジア大洋州局長として六ヶ国協議の日本代表を務め、北朝鮮の核や拉致問題の交渉にあたる。経済・政治担当外務審議官をへて、外務事務次官を2010年に退任し、顧問に就任。