霊と金―スピリチュアル・ビジネスの構造―
880円(税込)
発売日:2009/05/16
- 新書
- 電子書籍あり
信じる者は救われぬ。宗教と経済の関係から現代を読み解く意欲作。
信じる者は救われぬ。スピリチュアリティ(神霊・心霊)を騙れば簡単に金儲けはできる。ほんの少しだけ「不安」を煽り、安易な「癒し」を差し出せば判断能力は歪められ、人は喜んで搾取され続けるのだ。その危険性について現代人はあまりに無防備である。神世界、統一教会、テレビ霊能者から仏教、神道、キリスト教など既存の宗教まで、霊と金、宗教と経済の関係を対応させながら現代社会を鋭く読み解く意欲作。
2 神世界はどこから来たのか
3 ヒーリング販売会社
4 宗教としてのカウンセリング
2 統一教会とは何か
3 奇妙な信仰生活
4 司法の判断は
2 神社・寺院・教会の経営状況
3 日本宗教の近未来
2 スピリチュアルなお品書き
3 癒しの社会的機能
4 癒しに囚われる世代
5 出会いを待つ若い世代
2 認知・判断と感情
3 リスク認知を歪めるスピリチュアル・ビジネス
4 リスク脆弱者の問題
主要参考文献
書誌情報
読み仮名 | レイトカネスピリチュアルビジネスノコウゾウ |
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シリーズ名 | 新潮新書 |
発行形態 | 新書、電子書籍 |
判型 | 新潮新書 |
頁数 | 256ページ |
ISBN | 978-4-10-610315-5 |
C-CODE | 0214 |
整理番号 | 315 |
ジャンル | 宗教、心理学、社会学 |
定価 | 880円 |
電子書籍 価格 | 660円 |
電子書籍 配信開始日 | 2012/04/27 |
蘊蓄倉庫
宮殿のような建物を次々建てる新興宗教を見ていると「宗教は儲かるのだなあ」と思ってしまいますが、既存の宗教に関わる方々からすれば、「バカを言うな」ということのようです。『霊と金』によると、国内の仏教、神道、キリスト教の中で、平均的に見た場合、もっとも収入が低いのは、キリスト教。2000年度の平均では、牧師さんの謝儀(給与のこと)は約330万円。大学の新卒者と大差ない金額なので、兼業を余儀なくされる方も多いそうです。
担当編集者のひとこと
「科学ではわからないことがある」という人がわからないこと
まだ教祖が逮捕されるよりも前、オウム真理教関連の取材をしたことがありました。
上九一色村や、彼らが経営するパソコンショップにも行きました。サティアンの写真を撮ろうとすると、白い服を着た、なぜか教祖に似た顔の女性が「やめてください」とピョンピョン飛びながら邪魔をしてきました。パソコンショップの店員は取材後に嫌がらせの電話を延々とかけてきました。
彼らが経営するトンコツラーメン店で食事もしました。確か「うまかろう安かろう」を売りにしていたのですが、実際にはスープにはコクがなく、あまり美味しくなかった記憶があります。
当時、彼らはすでに極めて反社会的集団であるというのが一般的な認識でしたが、一方で彼らを擁護する人たちもいました。 この種の団体やそのシンパから出てくる言葉の典型が「科学ではわからないことがある」です。だから、一見、非科学的な主張や教義も否定されないのだ、と。
でも、この人たちがわかっていないのは、普通の科学者は誰も「科学で全てが解明できる」なんて言っていないということです。科学ではわからないことがあるなんて、別に気の利いた台詞ではなくて、当たり前のことです。
ただし、そのことは科学で説明できない事象を何でも認めるものではありません。髭面の教祖が空中を浮遊するだの、水中に一時間潜っていられるだのというのは、科学うんぬんの前に、人間の常識に反することでした。
悲しいことに、今でも「科学ではわからないことがある」と唱えながら、非常識な商売をする人は絶えません。その餌食になるのは、何らかの事情で不安定な精神状態、社会的状況に置かれている人です。
『霊と金―スピリチュアル・ビジネスの構造―』は、不安に付け込む商売が横行する危険な状況について、深く切り込んだ本です。オウム真理教は弱体化しましたが、今でもこの種の商売は後を絶ちません。そのヴァリエーションに富む手口には、感心させられます。
あのときピョンピョン飛んでいた女性や、不味いラーメンを作っていた青年は今どうなっているのだろう。時々、そんなことを思います。
2009/05/25
著者プロフィール
櫻井義秀
サクライ・ヨシヒデ
1961(昭和36)年山形県生まれ。北海道大学大学院文学研究科博士課程中退。文学博士。北海道大学大学院文学研究科教授。専攻は宗教社会学、タイ地域研究。著書に『「カルト」を問い直す』『カルトとスピリチュアリティ』『東北タイの開発僧』『よくわかる宗教社会学』(編著)など。