人は死ぬから生きられる―脳科学者と禅僧の問答―
748円(税込)
発売日:2009/04/15
- 新書
- 電子書籍あり
脳と仏教の真剣勝負。
我々はどこから来たのか、そしてどこへ行くのか――。人類誕生以来、問われ続けてきたアポリア(難問題)に、脳科学者と禅僧が挑む。死はすべての者に平等に訪れる。けれど誰もが望んでこの世に生まれてくることはできない。つまり、「私」に根拠はないのだ。だからこその苦、だからこその人生。それでも、その苦しみを引き受け、より良く生きるための方法はある。無常の闇に射す一筋の光明を探すため、存在を賭けた脳と仏教の真剣勝負。
恐山の禅僧・南直哉師/死者の「好意」が宿る場所/そして過去は死者へとつながる
書誌情報
読み仮名 | ヒトハシヌカライキラレルノウカガクシャトゼンソウノモンドウ |
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シリーズ名 | 新潮新書 |
発行形態 | 新書、電子書籍 |
判型 | 新潮新書 |
頁数 | 192ページ |
ISBN | 978-4-10-610307-0 |
C-CODE | 0215 |
整理番号 | 307 |
ジャンル | 哲学・思想 |
定価 | 748円 |
電子書籍 価格 | 660円 |
電子書籍 配信開始日 | 2012/07/27 |
蘊蓄倉庫
南直哉さんが院代(山主代理)を務める、青森県むつ市にある霊場・恐山。おそらく多くの人が、恐山と聞いて思い起こすのは、イタコの存在ではないでしょうか。しかし、イタコが恐山で口寄せをするようになったのは、昭和三十年代からと、意外と歴史は浅いのです。また恐山を管理しているのは、恐山菩提寺という曹洞宗のお寺であり、いわばイタコはそこに「間借り」しているだけなのです。ちなみに、イタコは毎日恐山にいるわけではなく、基本的に夏と秋に行われる大祭のときだけ。口寄せをお願いする場合は、呼び寄せたい故人の名前と生年月日が必要なようです。
担当編集者のひとこと
アポリア(難問題)に挑む2人
今やメディアを縦横無尽に活躍する、脳科学者の茂木健一郎さんと、青森県恐山の院代(山主代理)を務める、禅僧の南直哉さんの、四年にわたる対話をまとめたのが本書です。
それぞれ科学と宗教という、一見相反するポジションにいる二人ですが、そんな垣根をやすやすと乗り越えて、実に興味深い応酬が繰り広げられました。
「脳の快楽、仏教の苦」
茂木 ……人間は脳内の報酬物質の上流に何を持っているかで変わるんだと思います。
ある人はパチンコかもしれないし、ある人は酒、または女かもしれない。……喜びの上流にあるものをどう耕していくか、どう広げてメンテナンスしていくかということでしか人生はないと思います。……。
南 私なんかはそういう話を聞くと、それこそが「苦」というものなのかなと逆に思うんです。茂木さんがおっしゃった「快楽」が私には「苦」に思える。ブッダがそれを解脱しろと説いた「苦」に。
茂木 じゃあ、解脱しなくちゃいけないのか(笑)「生と死のリアリティ」
南 ……私は生より死のリアリティの方が高いと思うんですよ。
茂木 生きているリアリティ、というのはあまりない?
南 つまり人間は、皆死ななければならないけれども、必ずしも、みんな生きていなければいけないわけではないですからね。
茂木 何か言っていることがすごい。
南 だから生の強度がないと、死のリアリティに負けちゃうと思う。
茂木 してみると、現代人の多くはすでに死しているということですか。死にながら生きている……。
南 というよりも、人は死ぬから生きられる。……。 長々と引用しましたが、このように、「生と死」「存在の根拠」「私とは誰か」といった、人類誕生以来問われ続けてきたアポリア(難問題)に、現代を代表する二人の知の怪物が、互いの存在を賭けて挑んだのが本書です。
仕事や家庭を離れて、ふっと自らの来し方行く末を思い案ずるとき、手元に置いておきたくなる、そんな一冊です。
2009/04/24
著者プロフィール
茂木健一郎
モギ・ケンイチロウ
1962(昭和37)年、東京生れ。脳科学者/理学博士。ソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー。東京大学理学部、法学部卒業後、同大大学院物理学専攻課程を修了。理化学研究所、英ケンブリッジ大学を経て現職。クオリア(意識のなかで立ち上がる、数量化できない微妙な質感)をキーワードとして、脳と心の関係を探求し続けている。主な著書に『脳と仮想』(小林秀雄賞受賞)、『今、ここからすべての場所へ』(桑原武夫賞受賞)、『ひらめき脳』、『「脳」整理法』、『生きがい』など。
南直哉
ミナミ・ジキサイ
禅僧。恐山菩提寺院代、霊泉寺住職。1958年長野県生まれ。1984年、出家得度。曹洞宗大本山・永平寺での修行生活を経て、2005年より恐山へ。2018年、『超越と実存』で小林秀雄賞受賞。著書に『老師と少年』『恐山 死者のいる場所』『正法眼蔵 全新講』など。