森林の崩壊―国土をめぐる負の連鎖―
836円(税込)
発売日:2009/01/19
- 新書
- 電子書籍あり
増えすぎた人工林、使われない国産材、無視される伝統木造建築……。「森と木の文化」が危ない!
日本では森林という莫大な資源が増え続けている。多額の公共事業や補助事業が行われながら、建築材を採るために植林した人工林は切られず、木材自給率は二割である。林業は旧態依然とし、死傷事故も多発している。国産材と共にあった伝統木造は建築基準法で建築困難になった。我が国土で一体何が起こっているのか。リアルな実態を現場の「生の声」で伝える。森と木をめぐる社会の仕組みを根本から問い直す一冊。
目次
はじめに
第一章 日本の森でいま、何が起こっているのか
我が国に眠る膨大な資源/毎週どこかで誰かが亡くなっている/生産性は欧州の十分の一/高性能林業機械は増えているが……/日本の技術力は森の中で消えた?/幽霊山林/森は小さな私有財産の集まり/何のための行政か、何のための研究か/行政官も研究者もみな「現場の人」/森と木が教えてくれる事
第二章 日本の木を使わなくなった日本人
「木造住宅文化」を育んだ富山の惨状/林業より公共事業/県産材のシェアは5%以下/森の計画は川で立てられている/岐阜の山林は全国の縮図/杉を活かす産業が育っていない!/市場で右往左往する国産材/杉の需給のミスマッチ
第三章 補助金制度に縛られる日本の林業
戦後変わらぬ日本林業の姿/森の5機能3レベルと3ゾーニングと……/補助金をもらうために付される条件/補助事業はあまたでも山は一つ、道は一本/地の利にかなった林業を/現場では同じ木を切る作業だが……/人と地域を育てるオーストリアの補助金制度/制度が複雑になる理由/似て非なるEUの仕組み/森林吸収量1300万炭素トンが現場で意味すること/国がする事、地方に任す事/補助が手厚すぎたと噂のスイス/木の倒し方まで検査に来た!/公的介入が増えるほど地域がすたれる……/日本に合った日本人らしい仕組みを
第四章 公共財としての森と欧州の発想
公共財としての森/みんなで決めて、決まったら守る/高規格道路で利益を得るモノ/産官学の風通し/目的主義、現場主義の国オーストリア/日本人の訪問者にとまどうオーストリア人/日本の自然と感性が織りなした森と木の文化
第五章 建築基準法で建築困難に陥った伝統木造
自分の国の伝統木造が「既存不適格建築物」/伝統木造を建てる事が、日本の森を守る事/伝統構法とは、どんな造りなのか/地震で揺れても倒壊しない造りとは/伝統構法は建築基準法の蚊帳の外/大工棟梁の思いとは真反対に進む規制/伝統構法は2007年から再び建築困難に/木造建築の失われた戦後
第六章 大工棟梁たちは何を考えているのか
もとはバラックを規制するための法律/大工棟梁に沈黙する建築基準法/なぜ大工棟梁は口が重いのか/自国の建築構法が「それ以外」と説明されている/「われわれこそ国民だ!」/聞かれたこともない、大工棟梁たちの意見/棟梁の言う「木造の基本」とは/「自然換気」をモットーにした造り/伝統構法は、揺れを逃がす発想/大工棟梁からうとまれる建築基準法/接合部について/問題は、どっちつかずの施工/耐久性を考えれば国産材/耐用年数は100年以上/飛騨古川の「そうばくずし」/画一という文化の破壊者
最後に
書誌情報
読み仮名 | シンリンノホウカイコクドヲメグルフノレンサ |
---|---|
シリーズ名 | 新潮新書 |
発行形態 | 新書、電子書籍 |
判型 | 新潮新書 |
頁数 | 192ページ |
ISBN | 978-4-10-610296-7 |
C-CODE | 0261 |
整理番号 | 296 |
ジャンル | 経営学・キャリア・MBA、地球科学・エコロジー、建築 |
定価 | 836円 |
電子書籍 価格 | 660円 |
電子書籍 配信開始日 | 2012/04/27 |
蘊蓄倉庫
富山の惨状
富山県は県土の67%を森林が占めています。県内で消費される木材の量は、年100万立方メートル前後で、同じく林業県である長野や岐阜の30万~40万に比べても格段に多い量です。しかし、富山県の県産材のシェアは、なんと5%以下。後背地に抱える豊かな森林が、地元でほとんど使われていないのです。「資源はある。しかし使われない」という、日本の森林を巡る問題が、富山には象徴的に表れています。
富山県は県土の67%を森林が占めています。県内で消費される木材の量は、年100万立方メートル前後で、同じく林業県である長野や岐阜の30万~40万に比べても格段に多い量です。しかし、富山県の県産材のシェアは、なんと5%以下。後背地に抱える豊かな森林が、地元でほとんど使われていないのです。「資源はある。しかし使われない」という、日本の森林を巡る問題が、富山には象徴的に表れています。
掲載:2009年1月25日
著者プロフィール
白井裕子
シライ・ユウコ
慶應義塾大学准教授。早稲田大学理工学部建築学科卒。稲門建築会賞受賞。ドイツ・バウハウス大学に留学。早稲田大学大学院修士課程修了。株式会社野村総合研究所研究員、早稲田大学理工学術院客員教授などをつとめる。工学博士。一級建築士。著書に『森林の崩壊』。
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