テレビ番外地―東京12チャンネルの奇跡―
748円(税込)
発売日:2008/11/17
- 新書
- 電子書籍あり
かつて、1日4時間しか放送できないテレビ局があった――。「ハレンチ学園」「ローラーゲーム」から「WBS」まで、元名物編成局長が秘話を大公開!
カネもモノもヒトもない。一日四時間しか放送できない時もあった。視聴率の低さゆえについたあだ名は「番外地」――そんなどん底から、東京12チャンネル(現テレビ東京)が脱出した背景には、逆境を逆手にとった逞しいパイオニア精神があった。数々の名企画に関与、数々の猛抗議に対処、あるときは松本清張作品のネタ元に、あるときは深夜通販ブームの仕掛け人になった、元名物編成局長が綴る貴重な秘話の数々。
書誌情報
読み仮名 | テレビバンガイチトウキョウジュウニチャンネルノキセキ |
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シリーズ名 | 新潮新書 |
発行形態 | 新書、電子書籍 |
判型 | 新潮新書 |
頁数 | 208ページ |
ISBN | 978-4-10-610288-2 |
C-CODE | 0236 |
整理番号 | 288 |
ジャンル | マスメディア |
定価 | 748円 |
電子書籍 価格 | 660円 |
電子書籍 配信開始日 | 2012/04/27 |
インタビュー/対談/エッセイ
波 2008年12月号より 直木賞作家が司会した「一番長い番組」
テレビ東京がまだ東京12チャンネルという名前だった頃、当時編成部長をしていた私がひねり出した「ザ・ロンゲストショー」という番組でした。その名のとおり、土曜の正午から競馬中継をはさみ込んだ五時間半の長丁場で、こんな企画は後にも先にもこれだけです。それでも都合八年も続いたのです。
阿刀田さんが登場したのは、途中で企画を衣替えした折でした。目新しい司会者をということで、プロデューサーのHさんが短編集『冷蔵庫より愛をこめて』で脚光を浴びていた阿刀田さんを起用したらと思いついたのです。阿刀田さんと私は早稲田の仏文科の同級生でしたが、専攻の違うHさんもその時分からの友人だったのだそうです。もちろん私も大乗り気で、Hさんと一緒に阿刀田さんにお願いしたのを覚えています。
面倒見のいい阿刀田さんとしては、「なんでもやってみよう」というほかに、あいつらも困っていそうだからという手助けの気持ちもあったのではありますまいか。
その阿刀田さんとは、年二回は顔を合わせます。「麦(ブレ)の会」というクラス会と、阿刀田ご夫妻が中心になっている「朗読21」の公演です。
この朗読会では朗読に先立って、阿刀田さん自身がその回のテーマにそった講演をするのが習いです。話の中身と語り口の巧みさはさすがですが、もう一つ感服するのは持ち時間ぴったりに収まることです。あれは分秒刻みに追われるテレビの生放送の司会をしたのが役立っているに違いない、と、これは私のこじつけですが、ひょっとすると当たっているかもしれません。
ところでなぜ五時間半などという長時間のレギュラー番組を組んだのか。それは教育番組を中心に放送する「科学技術教育局」として誕生したばっかりに、金も制作体制もないないづくしの「番外地」と呼ばれていた局の編成としては、他局にないものをやるしかなかったからでした。カッコ良く言えば、捨て身のチャレンジ精神です。この番組で会得した縦長編成を正月二日の十二時間ドラマ(今は十時間ですが)につなげたり、「食べ物番組」を初めてゴールデンアワーに持ち込んだりとか、まあいろんなことをやりました。
そんな苦労をまとめてみたらというわけで、この度の『テレビ番外地』になったのです。
が、ご承知のとおり、ここに来てテレビ界の状況はすこぶる思わしくない。視聴率も収入も右肩下がりが続いているうえに、この不況です。盛者テレビの必衰を憂う声が飛び交っています。となると、昔話のつもりだった起死回生の体験談が、極めて今日的な教本になるやも知れず、テレビマンOBの私としてはなんとも複雑な思いでいます。
蘊蓄倉庫
東京12チャンネル(現テレビ東京)は、昭和40年代前半、大胆な番組編成をしています。平日は1日5時間半、日曜日は1日4時間放送という「超短縮編成」です。これは「テレビばかり見ないで、家族で語らう時間を持ちましょう」という試みなどではまったくなく、単に経営難でどうにもならなくなったからでした。そこからどう盛り返したのか、そのあたりについては『テレビ番外地』で。
担当編集者のひとこと
マイ「テレビ東京」
『テレビ番外地』は、東京12チャンネル(テレビ東京)の元常務取締役が同局の開局から現在までの秘話を綴ったものです。なぜ「番外地」かといえば、かつてあまりの視聴率の低さから、そのように揶揄されたことがある、というのが由来です。
たしかに視聴率は全般的に低かったのでしょうが、不思議なことに、周囲の人に「今度テレビ東京の本を出す」というと意外なほど反応が良いのです。それぞれの人が、「あの番組は面白かった」「あれが懐かしい」と口にします。「ローラーゲーム」という人もいれば、「パリーグ中継」という人もいますし「TVチャンピオン」という人もいます。こっそり「ギルガメッシュないと」を挙げる人もいます。
どうもそれぞれの人が、それぞれにお気に入りの番組を持っているようなのです。人は誰しも心に「マイ『テレビ東京』」とでもいうべき番組を持っているということでしょうか。
どうやら多くの人は支持していないかもしれない。でも俺は見守っている。世間のやつらにこの良さはわからないかもしれないが、俺は見捨てない。そんな気持ちがあるからこそ、皆さん思い入れがあるのだと思います。
私は今ならば「やりすぎコージー」は全部のお笑い番組の中で一番面白いと思っています。
またちょっと前には深夜の通販番組「テレコン・ワールド」に度肝を抜かれました。夜中、いきなりアメリカの若干怪しいセールスマンが、日本では見たこともないような商品を売りつけるのです。その熱意は尋常ではなく、クルマの洗剤だかワックスだかの凄さを示すために、わざわざボンネットに火を点けて焦がし、その汚れを取ってしまうという荒業までやってのけます。夜中に油断してテレビを眺めていたら、こんな大胆な実験が繰り広げられたので、最初は「これは本当に通販なのか、それともコントなのか」と考えたくらいです。
『テレビ番外地』の中には、この「テレコン・ワールド」開始のエピソードも書かれています。何ともテレビ東京っぽくて面白いなあと思わせる成り立ちです。
マイ「テレビ東京」を持っている方にお勧めしたい一冊です。
2008/11/25
著者プロフィール
石光勝
イシミツ・マサル
1934年、東京都生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。文化放送を経て、東京12チャンネル(現テレビ東京)に入社。常務取締役から、設立に携わった系列の通販会社プロントの社長となる。著書に『テレビ番外地』『テレビ局削減論』、共著に『通販』などがある。