人はなぜ簡単に騙されるのか
748円(税込)
発売日:2006/12/20
- 新書
- 電子書籍あり
振り込め詐欺、架空請求、インチキ宗教、超能力……。プロマジシャンが看破する騙しの心理トリック!
振り込め詐欺から超能力といったオカルトまで、身の周りにはびこるトリックの数々。客観的に眺めると、どれも騙されるなんておかしいのではと思えるような単純な手法ばかりだが、人は条件さえ整えば、案外簡単に騙されてしまうもの。騙すという意味では同じ立場のプロマジシャンが、心理を操るメカニズムを明快に解き明かしてみせます――。そして最後に仕掛けられた究極のマジック、必ずやあなたも騙されるはず。
目次
はじめに
第一章 まずはあなたを騙してみせます
トリックの入口へ/弱点をあえてプラスにする手法/D・カパーフィールドの巧妙さ/「カレンダー・トリック」/キレイに騙されるという愉しみ
第二章 自分の世界観が崩壊する時
あべこべの発想の持つ不思議な魅力/物体が物体を貫通する!/「秘密の目印」はどこに付けたか/心理的に見えない動作、ミスディレクション
第三章 「信じる」ってなんだろう?
盲目的に信じてしまう人/“物事をありのままに見ることは難しい”
第四章 マジックにおいて「騙す」とは
マジックまがいの騙し/ Mr.マリックは「超」ではなく「近距離」魔術
第五章 人には「信じたい」という本能がある
再び「信じる」ということについて/観客の気持ちとは……/演じる側の条件/騙すための五つのコツ/街頭の「ジョニー君」人形
第六章 プロ奇術家が看破する犯罪詐欺
オカルトにはまる人たち/最強のトリック、そしてその効用/固定観念という「バカの壁」/チープな百回の嘘の説得力
最終章 最後の挨拶
おわりに
主な引用、参考文献
主な引用、参考文献
書誌情報
読み仮名 | ヒトハナゼカンタンニダマサレルノカ |
---|---|
シリーズ名 | 新潮新書 |
発行形態 | 新書、電子書籍 |
判型 | 新潮新書 |
頁数 | 192ページ |
ISBN | 978-4-10-610196-0 |
C-CODE | 0211 |
整理番号 | 196 |
ジャンル | 心理学、手品、落語・寄席・演芸 |
定価 | 748円 |
電子書籍 価格 | 660円 |
電子書籍 配信開始日 | 2012/08/31 |
インタビュー/対談/エッセイ
波 2006年1月号より ルール違反の「種明かし」 ゆうきとも『人はなぜ簡単に騙されるのか』
人は自分の理解できないことに対して不安や恐れを抱くもの。例えば不思議な現象や謎を体験し、そこにある種の興味を覚えたならば、真相を知りたくなるのが道理であるといえましょう。そしてこの心理を利用することで、人は実に単純なトリックにでも騙されてしまうものなのです。こうした事実を、奇術家の経験則から実例を提示し検証したのが『人はなぜ簡単に騙されるのか』です。
ところで、いくら人には不可解なことの真相を知りたがる心理があるからといって、それが例えばパズルやミステリを楽しんでいる途中で、一方的にその答えや犯人を知らされたり、大切な秘密やオチを明かされたりしたら、どうでしょう。これほどひどいルール違反はないとはいえないでしょうか……。無論これはマジックに関しても同様です。この場合はそもそもネタを知ること自体が目的ではないですし、謎や不思議を直接体験する前に、いきなり種明かしだけを見せつけられたとしても、そこで得をする人は誰もいないはずです。
拙著の発売日が決定して、最終チェックも終えた頃に、おそらくマジック史上最大最悪の“ネタばらし”がテレビを中心にあらゆるメディアで繰り返し流されました。現行の日本円硬貨にマジック用の加工を施していたものをインターネット等で大量に販売していたということで、複数の業者(奇術家を含む)が逮捕された事件です。
今回一番驚いたのは、テレビの報道における事件の取り扱い方でした。この事件を報道するのであれば、「貨幣損傷等取締法違反」のみに言及すれば充分なはずです。しかし恐らくそれだけではインパクトが弱いと考えたのか、本来ならばまったく必要ないはずの加工された硬貨の構造上の秘密(オチ)を“そのまま”放送してしまったのです! 思わず我が目を疑いました。これはどう考えても、“あきらかなルール違反”です。たまに裏ビデオの業者が摘発されたニュースが報道されますが、女性アナウンサーがしたり顔で「これが今回押収されたビデオの問題のシーンです」などと言い、家族団欒の夕食時にテレビ画面いっぱいに××が映し出され、「いや~これは露骨ですねえ……この女優さんには青少年の夢を壊さないでほしいものです」と、そんなコメントをされたとしたら、どうでしょう? 私には、このような状況と同じくらい破廉恥な行為に思えてしまうのです。
この“本当の恥ずかしさ”は、正直、奇術家でなくては理解できないことかもしれません。しかし少しでも冷静な視聴者であれば、テレビ局のデリカシーのなさ、メディアのあり方に疑問を感じたのではないでしょうか。
もちろん今回の“ネタばらし”でまともな奇術家が直接困ることはありません。心配なのは、その場限りのインパクトを求め、それでOKという雰囲気がさらに蔓延してしまうこと。加えてマジックの良い印象が無残に破壊されてしまうことです。
ところで、いくら人には不可解なことの真相を知りたがる心理があるからといって、それが例えばパズルやミステリを楽しんでいる途中で、一方的にその答えや犯人を知らされたり、大切な秘密やオチを明かされたりしたら、どうでしょう。これほどひどいルール違反はないとはいえないでしょうか……。無論これはマジックに関しても同様です。この場合はそもそもネタを知ること自体が目的ではないですし、謎や不思議を直接体験する前に、いきなり種明かしだけを見せつけられたとしても、そこで得をする人は誰もいないはずです。
拙著の発売日が決定して、最終チェックも終えた頃に、おそらくマジック史上最大最悪の“ネタばらし”がテレビを中心にあらゆるメディアで繰り返し流されました。現行の日本円硬貨にマジック用の加工を施していたものをインターネット等で大量に販売していたということで、複数の業者(奇術家を含む)が逮捕された事件です。
今回一番驚いたのは、テレビの報道における事件の取り扱い方でした。この事件を報道するのであれば、「貨幣損傷等取締法違反」のみに言及すれば充分なはずです。しかし恐らくそれだけではインパクトが弱いと考えたのか、本来ならばまったく必要ないはずの加工された硬貨の構造上の秘密(オチ)を“そのまま”放送してしまったのです! 思わず我が目を疑いました。これはどう考えても、“あきらかなルール違反”です。たまに裏ビデオの業者が摘発されたニュースが報道されますが、女性アナウンサーがしたり顔で「これが今回押収されたビデオの問題のシーンです」などと言い、家族団欒の夕食時にテレビ画面いっぱいに××が映し出され、「いや~これは露骨ですねえ……この女優さんには青少年の夢を壊さないでほしいものです」と、そんなコメントをされたとしたら、どうでしょう? 私には、このような状況と同じくらい破廉恥な行為に思えてしまうのです。
この“本当の恥ずかしさ”は、正直、奇術家でなくては理解できないことかもしれません。しかし少しでも冷静な視聴者であれば、テレビ局のデリカシーのなさ、メディアのあり方に疑問を感じたのではないでしょうか。
もちろん今回の“ネタばらし”でまともな奇術家が直接困ることはありません。心配なのは、その場限りのインパクトを求め、それでOKという雰囲気がさらに蔓延してしまうこと。加えてマジックの良い印象が無残に破壊されてしまうことです。
(ゆうき・とも プロマジシャン)
蘊蓄倉庫
ミスディレクション、心理的に見えない動作
例えば、よくこんなことはないでしょうか? 自分の部屋で探し物をしている時に、あれだけチェックしても見つからなかったものが、後からどう考えても視野に入っていた場所から見つかって驚かされる……。人は物事を認知する際、視覚で捉えているはずなのに、結果的には全く見えていないといったことが実はよくあるものなのです。「日常よくある光景」という固定観念に囚われてしまっており、決して印象に残らないからです。
言い換えると、こうした「心理的に見えない動作」を利用しさえすれば、人は案外簡単に騙されてしまうものなのです。マジックやミステリの世界などでも、これはよく使われる手法です。いかに騙す相手の思考をディレクション(方向付け)し、騙す側にとって都合よくコントロールするか、それを「ミスディレクション」といいます。そして、この騙しのテクニックはマジックやミステリで使われるだけに止まりません。あなたの身近のあらゆるところに、詐欺師たちのトリックが蔓延っているのです――。
例えば、よくこんなことはないでしょうか? 自分の部屋で探し物をしている時に、あれだけチェックしても見つからなかったものが、後からどう考えても視野に入っていた場所から見つかって驚かされる……。人は物事を認知する際、視覚で捉えているはずなのに、結果的には全く見えていないといったことが実はよくあるものなのです。「日常よくある光景」という固定観念に囚われてしまっており、決して印象に残らないからです。
言い換えると、こうした「心理的に見えない動作」を利用しさえすれば、人は案外簡単に騙されてしまうものなのです。マジックやミステリの世界などでも、これはよく使われる手法です。いかに騙す相手の思考をディレクション(方向付け)し、騙す側にとって都合よくコントロールするか、それを「ミスディレクション」といいます。そして、この騙しのテクニックはマジックやミステリで使われるだけに止まりません。あなたの身近のあらゆるところに、詐欺師たちのトリックが蔓延っているのです――。
掲載:2006年12月25日
著者プロフィール
ゆうきとも
ユウキ・トモ
1969(昭和44)年岩手県生まれ。本名、高橋知之。プロマジシャン。トランプやコイン、お札などを利用して観客の目の前で演じる「クロースアップ・マジック」の専門家。1992年、「世界マジックシンポジウム」クロースアップコンテスト優勝。2004年、厚川昌男賞受賞。
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