ウェブ人間論
748円(税込)
発売日:2006/12/20
- 新書
- 電子書籍あり
「ウェブ進化」によって、人間はどう変わるのか? 異分野の二人が徹底討論!
日本におけるインターネット元年から十年。今、ウェブ2.0という新たな局面を迎え、本当の大変化が始まろうとしている。「ウェブ進化」によって、世の中はどう変わりつつあるのか、そして人間そのものはどう変容していくのか──。ビジネスとテクノロジーの世界に住む梅田望夫と、文学の世界に生きる平野啓一郎が、その変化の本質と未来を徹底的に話し合った、熱く刺激的なウェブ論。
検索がすべての中心になる
「ウェブ2.0」への変化
ネット世界で日本は孤立する
自動翻訳の将来性
ブログで人は成長できる
ピン芸人的ブログ
情報にハングリーな人たち
ウェブ=人間関係
リンクされた脳
理想の恋人に出会えるか?
五種類の言説
新しい公的領域
匿名氏の人格
抑圧されたおしゃべりのゆくえ
顔なしですませたい
アイデンティティからの逃走
たかがネット
ネット世界の経済
平野啓一郎という無名人
空いてるスペースを取る
分身の術
『サトラレ』の世界
パソコンをリビングに
「立ち読み」の吸引力
本は消えるのか?
紙を捨てて端末に?
スタンドアローンなメディア
ユーチューブの出現
iPodと狂気
グーグルは「世界政府」か
通過儀礼としての『スター・ウォーズ』
ダークサイドとの対決
シリコンバレーの共同体意識
オープンソース思想とは
「島宇宙」化していく
ネットで居場所が見つかる
頭はどんどん良くなる
情報は「流しそうめん」に
ウェブ時代の教養とは
魅力ある人間とは
テクノロジーが人間に変容を迫る
一九七五年以降に生まれた人たち
百年先を変える新しい思想
書誌情報
読み仮名 | ウェブニンゲンロン |
---|---|
シリーズ名 | 新潮新書 |
発行形態 | 新書、電子書籍 |
判型 | 新潮新書 |
頁数 | 208ページ |
ISBN | 978-4-10-610193-9 |
C-CODE | 0236 |
整理番号 | 193 |
ジャンル | 文学賞受賞作家、IT、コンピュータサイエンス |
定価 | 748円 |
電子書籍 価格 | 660円 |
電子書籍 配信開始日 | 2007/10/05 |
書評
波 2006年1月号より 時代の変わり目の深い考察 梅田望夫、平野啓一郎『ウェブ人間論』
シリコンバレーに存住し、インターネットの世界の変遷を十年以上に亘って現場で体感している梅田氏は本当の大変化はこれから始まると色々な形で発信している。平野氏はヨーロッパに脈々と流れる哲学と思想、文学の可能性を信じ、意欲的な作品をデビュー以来、発表し続けている。
“文明の衝突”ではないが、その会話からどんな接点が表われ、どんな方向へ議論が進んで行くのか、期待を持ちながら読み始めた。お二人は決して妥協をすることなく、また特定の話題を避けることもなく、現在ある二つの世界、存在、またその狭間について、的確に評論、実践されていてとても多くの示唆を示してくれている。
また、読み進めて行く内に両氏の考えが更にパワーアップし、進化をとげているような感覚に襲われた。
それはまさに現代に起こっている出来事がこの場にも同時に起こっているようだった。
話は進み、テーマは“人間はどう進化をするのか”という未来へと移って行く。
これこそが多くの人々が今、大きな関心があり、不安にもさせている要因だ。
個人でブログを始める人が爆発的に増えている現象について島宇宙化していくと表現されており、成程と思った。
今までもテクノロジーの進歩が人間の生活様式を変化させることはよくあった。
しかし、それらのほとんどは人間から見れば受け身で他の人々に影響を与えるケースはとても少なかったが、個人が情報を発信し始める行為はとても能動的で世論の形成など今までとは異なったプロセスをきっとこれからたどって行くのだろう。
また、増殖し続ける島宇宙が今後、どのような変化をとげて行くのかとても興味深い。例えばとてもマイナーな趣味を持った人達がネット等を通じて同好会を作る(一例としては交通標識を愛好する会、たぶん、存在していないと思う)。その交通標識を愛好する会に入会するためにはすべての標識を記憶していなければならず、極めて少人数で外界との接点の全くない同好会へと進んで行くのか、中国の交通標識を愛好する会(これもたぶん無いと思うが)と連携をして万国共通の標識にしようとか、片方にしか無かった解りやすい標識を取り入れようとするなどのコラボレーションのある会へと進んで行くのか。完全に二色に分類をするのは不可能だろうが、色々な組み合わせを繰り返している内に誰もが予想も出来なかった事が起こるのか、あるいは錬金術のようにある特定の条件をそろえなければ決して何も起こらないのか、興味は尽きない。
両氏の対話の最後のテーマは百年先を変える新しい思想で、どちらかというと今まで置き去りにされて来た思想が改めて何か必要となっているのではないか、そんな気持ちにさせられた。また、それが学問として存在するのではなく、生活をして行く極めて現実的な世界の中でテクノロジーとも不可分の領域の中でどんな方向へと進もうとしているのか、深く考えさせられる一冊だ。
書評・養老孟司
時代というものがあって、いまの時代は年寄りが威張る。そのつもりはなくても、生きている以上、ジャマになるのは仕方がない。そんな時代に若い人はどうすればいいか。いちばんまともな生き方は、年寄りがダメな世界で頑張ること。ならばウェブは格好の分野ではないか。
だからこの『ウェブ人間論』は、『ウェブ進化論』を書いた四十代の梅田望夫と、三十代はじめの作家、平野啓一郎の対談になっている。とにかく一生懸命に話しているから、そこに大いに好感が持てる。私は高度成長期に生きたからひねくれていたが、いまは時代がひねくれているから、一生懸命のほうに加担したくなる。若い人に「べつにー」とかいわれると、頭に来るほうなのである。若いんだから、なんでもいいから一生懸命にやりゃいいじゃないか。というと、テロになったりするから、厄介だが。
ネット上の分身がブログだ、と梅田はいう。若いときから、社会的な分身を作ることができるというのは、面白い実験である。若い世代がはまる理由がわかる気がする。実際の社会は硬い。そこではそんな実験は簡単にはできない。大学のロッカーに変身用小道具を入れて、ときどき別な人物になるということを私は考えたが、面倒くさくてやらなかった。梅田は『ウェブ進化論』に対する意見を一万以上読んだというから、呆れた。私は一切読まない。でも若い人はさすがに違う。ウェブで人間が変わっていくはずだと、二人していうが、そうだろう。そもそもウェブがなければ、自著について、そんなに他人の意見を聞くことはできないのである。
平野が一九九八年にデビューしたとき、ネットでかなり嫌な思いをしたという。だから梅田とは少し立場が違って、やや慎重なもの言いになる。しかし梅田のいい分をそこで採用するなら、ネットのおかげで「人は育つ」のである。続いて、ネットをやる人間の意識には五通りあるという平野の説明が続く。そのうちリアル社会では露呈できない本音をネットで語る、あるいは妄想や空想のはけ口にする、そうしたいわばネガティブな面に平野は作家としての関心が向くという。たしかにネットはそういう面の宝庫かもしれない。
ウェブについて、平野は新しく発生した公的領域だという認識を述べる。これは重要な視点であろう。まさに私的に発生したものが、おびただしい人々の参加によって、必然的に公的性格を帯びてくる。それが二人のいう「リアル社会」にどう影響するか。すでに影響している可能性が高いのだが、それをどう測定するか。
梅田は十年後に出てくる新しいものは、いま皆が議論していることとは絶対に違うはずだ、という確信を述べる。ネットの世界はそれだけ急速に動いているという実感からであろう。そしてリアル世界の第一線で活躍している人ほど、知的好奇心の磨耗が生じているという。ネットの面白さに関心を示さないことが多いからである。
最後に年寄りの意地悪を一言。世界は二つに分かれる。「脳が作った世界(=脳化社会)」と、「脳を作った世界(自然、といってもいい)」である。私は「脳を作った世界」にしか、本当は関心がない。本書でいわれる「リアル社会」を、私はかねがね「脳化社会」と呼んできた。ネットの社会は、私から見れば、「リアル社会」がより純化したものである。「ネットに載る以前の存在」を「どうネットに載せるのか」、それだけが私の関心事だったし、いまでもそうである。ネットに載ったらそれは情報で、私の真の関心は情報化そのものにある。なぜなら私は年寄りで、情報化社会以前に発生した人間だからである。山中に閑居した李白は詠む。別に天地あり、人間にあらず。この人間はジンカン、つまり世間のことである。
著者プロフィール
梅田望夫
ウメダ・モチオ
1960年東京都生れ。慶應義塾大学工学部卒。東京大学大学院情報科学科修士課程修了。1994年よりシリコンバレー在住。1997年にコンサルティング会社、ミューズ・アソシエイツを創業。2005年より(株)はてな取締役。著書は『ウェブ進化論』『シリコンバレー精神』。
平野啓一郎
ヒラノ・ケイイチロウ
1975年、愛知県生れ、北九州市出身。京都大学法学部卒。1999年、大学在学中に文芸誌「新潮」に投稿した「日蝕」により芥川賞を受賞。以後、一作毎に変化する多彩なスタイルで、数々の作品を発表し、各国で翻訳紹介されている。著書は小説作品として、『日蝕・一月物語』、『葬送』、『高瀬川』、『滴り落ちる時計たちの波紋』、『決壊』(第59回芸術選奨文部科学大臣新人賞)、『ドーン』(第19回Bunkamuraドゥマゴ文学賞)、『かたちだけの愛』、『空白を満たしなさい』、『透明な迷宮』、『マチネの終わりに』(第2回渡辺淳一文学賞)、『ある男』(第70回読売文学賞)、『本心』などがある。評論、エッセイとして、『私とは何か 「個人」から「分人」へ』、『「カッコいい」とは何か』、『死刑について』、『三島由紀夫論』(第22回小林秀雄賞)などがある。