もしも義経にケータイがあったなら
748円(税込)
発売日:2005/06/17
- 新書
- 電子書籍あり
義経ってバカ? 現代の経営・人事理論から読み解く悲劇の英雄、失脚の道筋。
英雄・義経はどうして転落したのか――。義経は、鎌倉から動かない総大将・頼朝の承認も得ず、独断即決で行動することが多かった。組織において、上司への詳細な報告、迅速な連絡、緻密な相談は不可欠である。それは時代を問わない。もしも、義経に携帯電話があったなら、もしも、義経が社内根回しの大切さを知っていたら、もしも、始末書の書き方を知っていたら……。現代の経営・人事理論で読み解く義経失脚の謎。
目次
まえがき
第一章 旧体制平清盛─強大さの構築と維持の秘訣
1 平清盛の分断戦略・独占戦略・そして自己改革
2 なぜ頼朝、義経らは殺されなかったのか─巨大独占企業の自主的自衛策
3 史実以前の義経・苦労人好きの国民性
2 なぜ頼朝、義経らは殺されなかったのか─巨大独占企業の自主的自衛策
3 史実以前の義経・苦労人好きの国民性
第二章 同族企業源氏一門の成長・頼朝の戦略・義経の戦術
1 もしも以仁王にファックスがあったなら─源氏蜂起から京都占拠まで
●すべては以仁王からはじまった
●もしも木曾義仲にトラックがあったなら
●もしも義仲がマクレガー(X理論・Y理論)を知っていたなら
●もしも木曾義仲にトラックがあったなら
●もしも義仲がマクレガー(X理論・Y理論)を知っていたなら
2 頼朝のマネジメント─敵を知ることと自分を知ること
●雌伏期の頼朝─敵の弱点と己の弱点を知ること
●頼朝のランチェスター戦略とコンプライアンス
●頼朝の人事管理─創業期には開拓者を、安定期には管理者を
●頼朝のランチェスター戦略とコンプライアンス
●頼朝の人事管理─創業期には開拓者を、安定期には管理者を
3 義経の創業期開拓戦術
●正攻法を学ばねば奇策も生まれない─対 木曾義仲戦
●ギャンブラー将軍義経─創業期にはハイリスク&ハイリターンを
●ギャンブラー将軍義経─創業期にはハイリスク&ハイリターンを
第三章 義経の失脚─同族企業から大企業への転換期を知れ
1 『ホウレンソウ』は組織人の基本─義経最初の失脚
●義経を語る史書たち
●人事音痴義経の発端─一ノ谷合戦後の独断任官
●人事音痴義経の発端─一ノ谷合戦後の独断任官
2 勢いあまって詰めまであまい─屋島合戦の強引
●社内営業名人 梶原景時
●ギャンブル大帝義経 対 社内営業名人梶原景時
●永遠の少年源義経─巨大企業の自覚のないままの壇ノ浦
●ギャンブル大帝義経 対 社内営業名人梶原景時
●永遠の少年源義経─巨大企業の自覚のないままの壇ノ浦
3 壇ノ浦合戦後─社内営業敗北者義経
●「バクチ打ちは他人には面白く身内には迷惑」の原則─梶原景時の讒訴
●確定人事はくつがえらない─あまえんぼう将軍義経
●左遷人事は追い込みすぎるな・会社の力を自力と間違えるな─頼朝・義経のミス
●確定人事はくつがえらない─あまえんぼう将軍義経
●左遷人事は追い込みすぎるな・会社の力を自力と間違えるな─頼朝・義経のミス
第四章 勝者頼朝の安定戦略・敗者義経の敗北の美学
1 勝利者頼朝の恐怖と孤独
2 敗北者義経の人気─敗者の美学
2 敗北者義経の人気─敗者の美学
義経関連地図
書誌情報
読み仮名 | モシモヨシツネニケータイガアッタナラ |
---|---|
シリーズ名 | 新潮新書 |
発行形態 | 新書、電子書籍 |
判型 | 新潮新書 |
頁数 | 192ページ |
ISBN | 978-4-10-610124-3 |
C-CODE | 0221 |
整理番号 | 124 |
ジャンル | 評論・文学研究、ノンフィクション、日本史 |
定価 | 748円 |
電子書籍 価格 | 660円 |
電子書籍 配信開始日 | 2007/11/23 |
インタビュー/対談/エッセイ
波 2005年7月号より イケイケ将軍源義経 鈴木輝一郎『もしも義経にケータイがあったなら』
相撲界で「無理ヘンにゲンコツ」と書いて「兄弟子」と読ませるのであれば「無理ヘンに不公平」と書いて「会社」と読むことに異論はあるまい。
部長とか局長クラスが異動になると、組織改編と人事異動を真っ先にやりたがる。自分より若い上司ができるのは、まあ、しかたあるまい。しかし自分より無能で、客や部下より上司へのヨイショだけがうまい奴が上司になったりすると、結構悲惨な思いをさせられる。
さりとて、いざ自分が経営者の側に立ってみると、現場で優秀な奴を管理職にしたとたん、周囲をひっかきまわしたりするので油断はできない。
さて、源義経。
意外なことに義経がやった歴史的大勝負は「木曾義仲掃討」「一ノ谷合戦」「屋島合戦」「壇ノ浦合戦」の四つだけだ。ただしこれらの合戦は、ひとつこなすごとに、源氏を個人商店から零細企業、同族企業、全国規模の巨大企業へと変身させるものであった。
もっとも、義経本人は組織の変化にはほとんど関心がなかった。イケイケドンドンの営業マンよろしく、義経は勝利のためにあらゆることをやった……まあ、そこいらは本書にまかせるとして、義経のいちばんの問題は、鎌倉源氏商店が源氏財閥に変身をとげたのに、まったくやりかたを変えなかったことにあった。
零細企業は「あれこれ言うより結果がすべて」。正攻法が難しければ、奇策・怪策あたりまえで、結果を出したもの勝ちである。しかし会社の規模がしかるべき大きさ以上になると、結果でなくプロセスを求められる。根回しや社内営業が重要になってくる。
義経はそこいらのチームプレイを理解しなかった。人事権の重要さを理解しなかったし、「営業第一、安全第二」という経営方針は、個人商店のイケイケ営業では重要でも、大企業の理念にしてはならないのは、近年のマンモス企業の不祥事の頻発をみればわかる。
源平時代というと、八百年近く前の話になる。武士道どころか、切腹という風習さえ一般的ではない、遠い時代である。
けれども、ことほどさように義経の行動は、現代の我々に通じることが多い。もしも義経に携帯電話があり、こまめに頼朝に報告をしていれば失脚しなかったろう。もしも義経が始末書の書き方を知っていれば、頼朝の勘気もとけていただろう。
さあ、本書を読んだら、あるいは読む前に、あなたの身のまわりを……でなければ鏡をみてほしい。そこにも、ここにも、あそこにも、何よりもあなた自身のなかに、義経は生きているのだ。
部長とか局長クラスが異動になると、組織改編と人事異動を真っ先にやりたがる。自分より若い上司ができるのは、まあ、しかたあるまい。しかし自分より無能で、客や部下より上司へのヨイショだけがうまい奴が上司になったりすると、結構悲惨な思いをさせられる。
さりとて、いざ自分が経営者の側に立ってみると、現場で優秀な奴を管理職にしたとたん、周囲をひっかきまわしたりするので油断はできない。
さて、源義経。
意外なことに義経がやった歴史的大勝負は「木曾義仲掃討」「一ノ谷合戦」「屋島合戦」「壇ノ浦合戦」の四つだけだ。ただしこれらの合戦は、ひとつこなすごとに、源氏を個人商店から零細企業、同族企業、全国規模の巨大企業へと変身させるものであった。
もっとも、義経本人は組織の変化にはほとんど関心がなかった。イケイケドンドンの営業マンよろしく、義経は勝利のためにあらゆることをやった……まあ、そこいらは本書にまかせるとして、義経のいちばんの問題は、鎌倉源氏商店が源氏財閥に変身をとげたのに、まったくやりかたを変えなかったことにあった。
零細企業は「あれこれ言うより結果がすべて」。正攻法が難しければ、奇策・怪策あたりまえで、結果を出したもの勝ちである。しかし会社の規模がしかるべき大きさ以上になると、結果でなくプロセスを求められる。根回しや社内営業が重要になってくる。
義経はそこいらのチームプレイを理解しなかった。人事権の重要さを理解しなかったし、「営業第一、安全第二」という経営方針は、個人商店のイケイケ営業では重要でも、大企業の理念にしてはならないのは、近年のマンモス企業の不祥事の頻発をみればわかる。
源平時代というと、八百年近く前の話になる。武士道どころか、切腹という風習さえ一般的ではない、遠い時代である。
けれども、ことほどさように義経の行動は、現代の我々に通じることが多い。もしも義経に携帯電話があり、こまめに頼朝に報告をしていれば失脚しなかったろう。もしも義経が始末書の書き方を知っていれば、頼朝の勘気もとけていただろう。
さあ、本書を読んだら、あるいは読む前に、あなたの身のまわりを……でなければ鏡をみてほしい。そこにも、ここにも、あそこにも、何よりもあなた自身のなかに、義経は生きているのだ。
(すずき・きいちろう 作家)
著者プロフィール
鈴木輝一郎
スズキ・キイチロウ
1960(昭和35)年岐阜県生まれ。日本大学経済学部卒業。作家。『めんどうみてあげるね』で日本推理作家協会賞受賞。著書に『国書偽造』『はぐれ五右衛門』『美男忠臣蔵』『片桐且元』『何がなんでも作家になりたい!』『中年宮本武蔵』『家族同時多発介護』『巴御前』など多数。
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