「ポスト・グローバル時代」の地政学
1,540円(税込)
発売日:2017/11/24
- 書籍
- 電子書籍あり
国際報道の第一人者が現場から読み解く「現代地政学」の決定版!
互いに引かれあうトランプとプーチンの真意、中国「一帯一路」の最終形、弱小国・北朝鮮が求めるもの、移民と難民に悩む欧州と中東……そして日本の行く先は? 隘路に嵌った資本経済と民主主義から生まれる人々の「怒り」をキーワードに、エゴを剝き出しに動き始めた国々の“行動原則”と世界を見るための“8つの指標”を示す。
(2)Democracy――民主主義は復活するか
(3)Capitalism――資本主義の新しいルール
(4)Energy――安い石油と地球の未来
(5)Nukes――核兵器を禁止できるか
(6)Civic rules in Cyberspace――サイバー空間のルール
(7)Demography and Religion――人口動態と宗教
(8)Chokepoints――地政学リスクの克服
書誌情報
読み仮名 | ポストグローバルジダイノチセイガク |
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シリーズ名 | 新潮選書 |
装幀 | 駒井哲郎/シンボルマーク、新潮社装幀室/装幀 |
発行形態 | 書籍、電子書籍 |
判型 | 四六判変型 |
頁数 | 296ページ |
ISBN | 978-4-10-603819-8 |
C-CODE | 0331 |
ジャンル | 政治 |
定価 | 1,540円 |
電子書籍 価格 | 1,232円 |
電子書籍 配信開始日 | 2018/05/11 |
インタビュー/対談/エッセイ
「地政学」だけでは決まらない!
地政学の祖であるハルフォード・マッキンダーの問いかけがモチーフとなってこの本が出来上がった。
マッキンダーは「ハートランドを支配する者が世界を制する」という警句が有名だ。地政学はその国の持つ地理や資源などで運命が決まるとの決定論でもある。だから、マッキンダーは冷たい戦略家と思われがちだ。しかし、著書『デモクラシーの理想と現実』の中で彼は、シェイクスピアの言葉を引用しながら、人生は運勢ではなく個人の努力が決めると結んだ。つまり地理の制約が世界を律するのではなく、自由を希求する努力こそが「人間を地理の奴隷から解放する」と考えた。
この地政学と人間の努力の相克は、私の30年間の国際報道で常に頭に浮かんでいたテーマだ。
例えば日本。この国ほど地政学者が重視する国はないのに、地政学は主流にならなかった。これは驚異である。日本はユーラシア大陸の大陸パワー(中国、ロシア)と海洋パワー(米国)がせめぎ合う接点にある。どちらに顔を向けるかで、世界の覇権の行方は決まる。いわゆる回転軸(ピボット)の国である。
マハン、マッキンダー、ハウスホーファー、スパイクマンといった地政学の先駆者が、日本を研究しその動向に目を光らせたのは、当然だ。戦後もケナン、キッシンジャー、ハンチントン、ブレジンスキーら戦後の世界秩序を描いた戦略家は日本研究を怠らなかった。日英同盟、日独伊三国同盟、日ソ中立条約、そして戦後の日米同盟は地政学の帰結である。
しかし、世の中、地政学だけでは決まらない。戦後の日本は米国と同盟を結びながらも、中国やロシアと柔軟に友好関係を築く知恵を持った。しかも、「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して」、日本の安全と生存を保持するという憲法を大事にしてきた。地政学とはまったく対極にあるグローバリズムの理想に日本人は愛着を感じた。マッキンダーにならって言えば、地理の束縛を超えて自由にグローバルに行動しようという知恵の発露である。
だが、今の世界はもっと複雑である。知恵ではなく人々の感情、その中でも「怒り」が渦巻き、世界を動かす。トランプの登場、英国のEU離脱、欧州右派政党の躍進、「イスラム国」の出現、中国の挑戦、そして北朝鮮の核ミサイル危機。民族の怒りや屈辱が、世界の安寧を揺さぶっている。グローバリズムの暗黒面、党派政治の機能不全、異質を嫌う人間性。そんな説明がなされている。そしてSNSという民主化されたメディアが怒りを拡散し、政治に動員していく。
問題はこうした負のスパイラルが解決する兆しが、ポスト・グローバル時代の世界のどこにも見えないことだ。記者として地球のあちこちを観察してきた正直な気持ちを言えば、悲観的にならざるを得ない。破局を回避するヒントとして8つの指標を本書の最終章に上げた。
(すぎた・ひろき 共同通信社論説委員長)
波 2017年12月号より
著者プロフィール
杉田弘毅
スギタ・ヒロキ
1957年生まれ。共同通信社論説委員長。一橋大学卒業後、共同通信入社。テヘラン支局長、ニューヨーク特派員、ワシントン特派員、ワシントン支局長、編集委員室長などを経て2016年6月から現職。安倍ジャーナリスト・フェローシップ選考委員、東京-北京フォーラム実行委員、早稲田大学大学院アジア太平洋研究科講師なども務める。著書に『検証 非核の選択』(岩波書店)、『さまよえる日本』(生産性出版)、『アメリカはなぜ変われるのか』(ちくま新書)、『入門 トランプ政権』(共同通信社)など。