日本の少子化 百年の迷走―人口をめぐる「静かなる戦争」―
1,540円(税込)
発売日:2015/12/22
- 書籍
- 電子書籍あり
今日の深刻な少子化は、「人口戦」の敗北から始まった――。
日本の人口の減少速度はこれからさらに加速し、毎年数十万人単位で減り続けることになるという。戦争でもこれほどまでの急減をもたらすことはないだろう。一体なぜ、ここまでの惨状を招いてしまったのか?――実は、そこには国家の衰退を根幹から導くよう、他国より仕掛けられた「静かなる有事」が存在した。驚きの裏面史。
第二項 欧米にとっての脅威ニッポン
第三項 希望の大地・ブラジル
第四項 鈍かった政府の対応
第五項 解決策としての産児制限
第六項 「人口危険区域」としての日本
第七項 米英の謀略? 繰り広げられた情報戦
第八項 生き残り懸けて満州へ
第九項 人口問題解決策ではなかった満州開拓
第一一項 産児調節運動の弾圧
第一二項 閣議決定された人口増加政策
第一三項 国を挙げての出生増加策
第一四項 「産めよ殖やせよ」の裏にあった少子化の危機
第一五項 欧州の「人口戦」に危機感を覚える
第一六項 軍部が恐れた周辺国との出生率の差
第一七項 具体的脅威はソ連の人口増
第一九項 日本の共産国化を懸念したGHQ
第二〇項 少子化はGHQによる「人災」だった
第二一項 「日本人による産児制限」画策
第二二項 日本人協力者への接触
第二三項 優生保護法をめぐる戦い
第二四項 日本政府懐柔への秘策
第二五項 日本人の価値観を変えろ――第一ラウンドは米の勝利
第二六項 “静かなる戦争”の第二ラウンド開戦
第二七項 「産児制限」を受け入れた吉田内閣
第二八項 突如のベビーブームの終焉
第二九項 主権回復と二度目の優生保護法改正
第三一項 行き過ぎた少子化への懸念
第三二項 突然訪れた転機
第三四項 「産めよ殖やせよ」への忌避感
第三五項 少子化対策を否定した民主党政権
参考文献一覧
明治期から現代までの出生数他、関連するグラフ
「人口問題」に関連する年表
書誌情報
読み仮名 | ニホンノショウシカヒャクネンノメイソウジンコウヲメグルシズカナルセンソウ |
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シリーズ名 | 新潮選書 |
発行形態 | 書籍、電子書籍 |
判型 | 四六判変型 |
頁数 | 304ページ |
ISBN | 978-4-10-603779-5 |
C-CODE | 0333 |
ジャンル | 政治 |
定価 | 1,540円 |
電子書籍 価格 | 1,232円 |
電子書籍 配信開始日 | 2016/06/10 |
書評
明治以降の日本史を「人口」から考察する
本書は明治以降の日本史を「人口」という視点から考察した労作である。明治維新以降、日本の人口は激増し、既に少子化による人口減少に苦しんでいた欧米列強に脅威を与えた。これが「黄禍論」やワシントン軍縮会議、日本移民排斥、日本封じ込め政策の根本にあったという。人口は国力であり、国防力の要諦であると考えられていた。
戦前のこのような時代背景での「産めよ殖やせよ」政策の裏で、一九二〇年をピークに日本の出生率は下落し始めた。実は当時の人口学者は昭和一〇〇年(二〇二五年)の人口予測として、少子高齢化を警告していた。
日米間では、戦後も人口戦は続いた。米国は日本が再び「領土的野心」を抱くことを疑い、日本の人口膨張を止めるための戦いを仕掛けたと本書は見ている。当時人口抑制に繋がる禁断の政策と考えられていた「産児制限」をめぐる戦いだった。
本書は、GHQが実に巧妙に、その爪痕を残すことなく、あくまで日本国民自身の意思として、日本に産児制限を受け入れさせた様子を当時の新聞記事やGHQの文書から掘り起こした。GHQはまず、医療支援や衛生環境の向上、さらには工業化政策により死亡率を低下させ「少死少産」への転換を促すなど「外堀埋め作戦」を実行した。さらに日本人協力者をピックアップして議会に送り込み、議員立法を提出させて日本国民の意思として産児制限を合法化した。産児制限普及の結果、団塊世代と呼ばれる第一次ベビーブームはわずか三年間で終わりを告げた。団塊世代の最終年である一九四九年の年間出生数二七〇万人から翌年は二三四万人へ一挙に三六万人も減少し、八年後の一九五七年に一五七万人で底を打つまで落ち続けたという。産児制限の効果がいかに絶大であったかが分かる。
日本は今、いずれの先進国よりも急激な人口減少に苦しんでいる。人口減少は社会経済に大きなマイナス影響をもたらし好ましくない。日本のような成熟した先進国家であれば、人口は増加せずとも安定化を図ればよく、出生率でいえば2を目指す必要がある。
これには仕事と出産・育児の両立など、働く女性への配慮が欠かせない。OECDの統計によれば、先進国では女性の社会進出が進んでいるほど出生率が増加するという関係がある。日本に当てはめて考えると、企業のトップ自らの決断で事業所内に保育所を作り女性の社会進出を支援し、少子化へ対峙するなどの対策が急務である。
本書を読めば、日本の少子化の原因はどこにあるのか、なぜ止まらないのか、どのような対策をとるべきかなどに無関心ではいられない。本書は日本の少子化とその対策について、国民一人一人が真剣に考え、行動する契機となる。
(こみやま・ひろし 三菱総合研究所理事長)
波 2016年1月号より
担当編集者のひとこと
トキの心配をしている暇はない、「絶滅危惧種」としての日本人
日本の少子化がいかに深刻な事態であるか、国立社会保障・人口問題研究所(社人研)が出した日本の将来の人口動態推計の統計を見ると改めてゾッとさせられます。
それによると、日本の人口減少はこれからさらに加速し、毎年数十万人単位で減り続け、2041年以降は毎年100万人のペースにもなるのだそうです。100万人といえば、どこかの県や政令指定都市が毎年一つずつなくなるようなものです。戦争でもこんなに急激に人口を減らすことはないでしょう。仮にこのペースで日本の人口減が進むとなると、日本の総人口は2060年に8700万人弱、2110年には4300万人を下回る計算となります。さらに進めば、机上の計算では200年後の日本の人口は1400万人弱、300年後は約420万人に、西暦2900年には何と4000人、そして西暦3000年にはわずか1000人となってしまうことになり、日本列島からほぼ日本人が消えてしまうことを意味します。ここまで少なくはならずとも、日本人が半減した時点で日本という国はわれわれがイメージする「日本」ではなくなってしまうことでしょう。今の日本は、実にこのような国家存亡の淵に立たされているのです。本書の著者、河合雅司氏は、今日のこのような事態を「静かなる有事」という強い言葉で警鐘を鳴らしています。
いったい日本は、どうしてこれほどまでの深刻な少子化に陥ってしまったのか――その答えは、日本の近代史を「人口」の観点から顧みることによって明らかとなってきます。日露戦争の勝利以降、欧米列強は日本の人口膨張をずっと警戒の眼差しで見つめ続けてきました。そして、それは日本の敗戦後、米国の占領下においても変わらず続けられてきたのです。人知れず行われてきたGHQによる人口抑制、産児制限の数々の策謀と仕掛け……。ただし、日本人もそれらGHQの仕掛けた策を否定することなく、あえてそれらに“乗った”のです。
新たな観点から読み解く日本の近現代史。その詳細は是非本書をご高覧下さい。
2015/12/22
著者プロフィール
河合雅司
カワイ・マサシ
1963年、名古屋市生まれ。産経新聞社論説委員、拓殖大学客員教授、大正大学客員教授。中央大学卒業。専門は人口政策、社会保障政策。内閣官房有識者会議委員、厚労省検討会委員、農水省第三者委員会委員などを歴任。2014年、「ファイザー医学記事賞」大賞を受賞。主な著作に『中国人国家ニッポンの誕生――移民栄えて国滅ぶ』(共著、ビジネス社)、『医療百論〈2015〉』(共著、東京法規出版)、『地方消滅と東京老化――日本を再生する8つの提言』(共著、ビジネス社)など。