ヒトはこうして増えてきた―20万年の人口変遷史―
1,430円(税込)
発売日:2015/07/24
- 書籍
- 電子書籍あり
何が人類をここまで激増させたのか?
20万年前、アフリカで誕生したわれわれは穏やかに増えていくが、つい最近、突然の増加をみた。農耕が始まった約1万年前のわずか500万人が、文明が成立し始めた5500年前には1000万、265年前の産業革命で7億2000万となり、2015年には72億人に。そしてこの先どう推移するのか? 人口という切り口で人類史を眺めた新しいグローバルヒストリー。
ヒト化 ホミニゼーションとサピエンテーション/道具をつかう/ヒトにとっての食物
狩猟採集という生き方 現生狩猟採集民/食の安定化戦略/性による分業/ヒトの社会性/「豊かな」社会
適応を測る 生物適応と文化適応/ダーウィン適応度/適応指標としての人口指標/適応の評価をめぐって
出生と死亡からみるヒト 過去の出生と死亡に迫る/古人骨からの情報/死亡の原パターン/現生民からの情報/出生の原パターン/チンパンジーとの比較から/潜在的な出生力の上昇/出生と死亡の原像
狩猟採集民としての過適応 人口支持力を高める/火による環境改変/野生大型動物の絶滅/飽和に近づいた人口
農耕の起源と伝播 起源地と伝播ルート/西アジア―ムギ農耕/中国―水田稲作/東南アジア―根栽農耕/ニューギニア島―もう一つの根栽農耕/西アジアからの伝播/アフリカでの展開/アメリカ大陸―独自の農耕/家畜飼育―さまざまな家畜動物/搾乳と犂耕
残されたフロンティアへ エクメーネとアネクメーネ/高地へ―身体を適応させて/乾燥地へ―家畜とともに/南太平洋に乗り出す/ポリネシアの島々に生きる/イースター島の悲劇
農耕による生存基盤の拡充 土地生産性と労働生産性/実測された生産性/多様な農耕の戦略/ムギ類の畑作と水田稲作
コア・ユーラシア コア・ユーラシアという地域/コア・ユーラシア西部―西アジアと地中海地域/コア・ユーラシア東部―中国とインド/シルクロード/巨大帝国の興亡/コア・ユーラシアの北と南
二回の「人口循環」 「第一の人口循環」/紀元五〇〇年の世界/世界の八つの地域―自然と文化に基づく区分け/「中世の人口循環」前半/「中世の人口循環」後半/技術の「大衆化」―人口支持力の向上/交易圏の拡大―戦争と感染症の大規模化/食にみる一五〇〇年ころの世界
現代の幕開け 「現代の人口循環」/遠洋航海のはじまり/新大陸の「発見」/アメリカ大陸の征服/プランテーションと奴隷貿易/移住者と奴隷移住者の数/世界人口にとっての新大陸
日本―ユニークな軌跡 縄文人と弥生人/古代から高かった人口密度/江戸時代―前期の人口爆発と後期の「停滞」/急速に進んだ人口転換
二〇世紀半ば以降―激動する人口 国連による人口の把握/増加率がピークだった二〇世紀後半/途上国の人口転換/途上国における死亡率の低下/途上国における出生率の変化/人口転換後の先進国
主な参考文献
書誌情報
読み仮名 | ヒトハコウシテフエテキタニジュウマンネンノジンコウヘンセンシ |
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シリーズ名 | 新潮選書 |
発行形態 | 書籍、電子書籍 |
判型 | 四六判変型 |
頁数 | 264ページ |
ISBN | 978-4-10-603773-3 |
C-CODE | 0333 |
定価 | 1,430円 |
電子書籍 価格 | 1,144円 |
電子書籍 配信開始日 | 2016/01/15 |
書評
5千人から72億人へ
〈著名人が薦める〉新潮選書「私の一冊」(1)
少子高齢化を前に人口政策の是非が議論されている。先進国の生産性には大差がないので、経済の基軸はやはり人口だと考える。昨年『人口の世界史』(マッシモ・リヴィーバッチ)という良書が出版されたが、20万年の人口変遷史を具体的な数値で追った本書も示唆に富む。
20万年前(世界人口5000人、以下同じ)に誕生したヒトの出生と死亡の原像は生涯出産数が4.4程度で、生後1年間に4分の1近くが死亡し平均寿命は20歳ちょっとと推定される。出アフリカの後、地球全域への移住が本格化したのは7~6万年前(50万人)、定住と農耕が始まったのは1.2万年前(500万人)のことだ。文明が始まった5500年前(1000万人)から、都市が出現し農村部からの移入で人口が集中するようになったが、人口の集中は感染症のリスクを増大させた。
文明の進展によって人口は増え続けたが、1800年ほど前(1.6億人)に第1の人口循環が生じて300~400年にわたり人口が減少した。その後、再び増勢に転じて1200年ごろに3.7億人に達したが、第2の人口循環が生じて200年ほど人口は減少する。モンゴル帝国の拡大やペストなどの疫病が原因であろう。
15世紀末に新大陸が再発見され、世界は劇的に変化する。南米原産の穀物(トウモロコシやイモ類)によって人口支持力が上昇し、また先住民が感染症で大量死したため300年間に約1000万人のアフリカ人が海を渡った。265年前の産業革命(7.2億人)にヨーロッパで人口転換(多産多死から少産少死へ)が始まる。人口転換の前期には多産少死で人口爆発が生じたが、新大陸が6000万人を吸収した。
1950年に25.3億人だった世界人口は現在72億人を超えた。地球の人口支持力(環境収容力)は120億人とも言われる。アイパット「環境負荷I=人口P×豊かさA×技術T」の指標などから、人類の行く末を考えさせられた。
(でぐち・はるあき ライフネット生命会長兼CEO)
「読売新聞」2015年9月20日書評より
人類の壮大な歴史をたどり、未来を読む
ダン・ブラウンの『インフェルノ』(越前敏弥訳、角川書店)は、「人口文学」と呼ぶべき作品である。人口爆発による人類の滅亡を憂えるスイスの大富豪ゾブリストの企みとは何か? フィレンツェ、ヴェネツィア、イスタンブールを舞台に、主人公ラングドンの追跡劇が始まる。
最近、日本でも「人口文学」が立て続けに発表されている。ところがテーマは『インフェルノ』とは正反対である。『ミッション建国』(楡周平)は少子化対策、テレビドラマにもなった『限界集落株式会社』(黒野伸一)は過疎化、『七十歳死亡法案、可決』(垣谷美雨)は超高齢化、『百年法』(山田宗樹)は不老長寿社会をテーマにしている。
人類を滅亡に導くのは人口爆発か、それとも人口消滅か? 大塚柳太郎氏の新著『ヒトはこうして増えてきた―20万年の人口変遷史―』は、この疑問に対する解答を導いてくれるだろう。
人類生態学の視点から人口を研究してきた著者は、人口の歴史を四つのフェーズに分ける。第一はヒトがアフリカで誕生した二〇万年前から、緩やかに増加していた時期、第二はヒトがアフリカから西アジアに進出し、地球全体に拡散しはじめた一二万五〇〇〇年前以後、三番目は定住生活が始まり、農耕と家畜飼養を行うようになった一万年以上前からである。そして第四フェーズが、産業革命と人口転換が引き金となって人口の爆発的増加が起きる十八世紀以降である。
無文字社会の人口に関する考察は大いに興味をそそられる。発掘人骨から寿命が推定され、あるいは病歴や死因が明かされる。骨に残されたコラーゲンの安定同位体分析によって日常の食べ物の組成まで推定される。特定遺伝子の発現頻度分析からは人口再生産率の程度まで推定される。農耕の開始が社会の階層化をもたらしたと言われてきたが、そうではなくて、農耕社会でなくても、多くの人々が密集して暮らす集住と、食料獲得場所の排他的な利用が階層化の引き金になるという推論にも目を開かされた。
文明化した世界の人口に関して著者は、マッキーヴディとジョーンズの推計にもとづいて大きな人口増加の波が三回繰り返されてきたという。第一循環は農耕が始まった頃に始まり、西暦五〇〇年頃に終焉した。その後はじまった中世の人口循環は一四〇〇年頃まで続く。そして現代の人口循環は十八世紀以降、人口増加を加速させてきたが、先進国では人口転換が生じて、いまや人口減少時代に直面している。
世界人口の増加率は二〇二〇年以後、低下していくと国連は推計している。二十一世紀は人類史の上で、何度か繰り返されてきた人口減退期を迎えているのだ。二〇万年にわたる壮大な人口の歴史を展望させてくれるこの本は、二十一世紀のヒトの一生や文明のあり方を考える上で、多くの手がかりを与えてくれるだろう。
(きとう・ひろし 静岡県立大学学長)
波 2015年8月号より
著者プロフィール
大塚柳太郎
オオツカ・リュウタロウ
1945(昭和20)年、群馬県生れ。東京大学理学部生物学科(人類学課程)卒、理学博士。専門は人類生態学。東京大学大学院医学系研究科教授、国立環境研究所理事長を経て、自然環境研究センター理事長。著書に、『熱帯林の世界:トーテムのすむ森』(東京大学出版会)、『地球に生きる人間』(小峰書店)、『地球人口100億の世紀』(ウェッジ・共著)、編著書に、『地球に生きる――資源への文化適応』(雄山閣)、『生活世界からみる新たな人間-環境系』(東京大学出版会)など。