アメリカン・コミュニティ―国家と個人が交差する場所―
1,430円(税込)
発売日:2013/04/26
- 書籍
- 電子書籍あり
アメリカをより深く理解するための鍵は、コミュニティにある――。
強固な外壁に囲まれたロスの超高級住宅街、保守主義の牙城・アリゾナの巨大教会など9つの地域を丹念に調査。国家と個人をつなぎ、多様性を象徴するコミュニティこそが、アメリカ現代社会を映す鏡である。なぜこの国はダイナミックに変化し続けるのか、真の力の源泉とは何か――現代アメリカ論の新しい名著、装いを改め選書化。
書誌情報
読み仮名 | アメリカンコミュニティコッカトコジンガコウサスルバショ |
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シリーズ名 | 新潮選書 |
雑誌から生まれた本 | 考える人から生まれた本 |
発行形態 | 書籍、電子書籍 |
判型 | 四六判変型 |
頁数 | 256ページ |
ISBN | 978-4-10-603725-2 |
C-CODE | 0395 |
ジャンル | 社会学、地理・地域研究 |
定価 | 1,430円 |
電子書籍 価格 | 1,144円 |
電子書籍 配信開始日 | 2013/10/25 |
書評
波 2013年5月号より トクヴィルを受け継ぐ新たな古典
トクヴィルは、アメリカのデモクラシーが一つでなく、地域による差異があることを強調している。同じ東海岸でも、マサチューセッツとニューヨークとペンシルベニアでは、住民の自治活動に違いがあることを具体的に指摘しているのだ。こうした指摘は、「アメリカは○○である」という単純な物言いを免れさせている。
本書は、『アメリカのデモクラシー』と同様の方法を、二十一世紀に日本人が実践した新たな古典として読むことができる。政治思想史の世界では、日本でもこれまで数多くのトクヴィルに関する研究がなされてきた。しかし自ら飛行機やレンタカーを使ってアメリカを縦横に旅行し、地域によって異なるコミュニティに身を置きながら研究を進めた学者はいなかった。もちろん著者は文化人類学者であるから、こうしたフィールドワークは当然なのかもしれないが、あまりにも書斎中心で、テキスト解釈に偏りすぎた政治思想史学に対する批判としても十分に読める。
本書で取り上げられた九つのコミュニティはどれも非常に興味深い。ゲーテッド・コミュニティやメガチャーチなどについてはすでに他の評者が言及しているので、ここではニュー・アーバニズムの影響を受けたフロリダ州のセレブレーションにつき一言しておきたい。
ニュー・アーバニズムでは、自動車に代わって鉄道などの公共交通が奨励されるが、セレブレーションにそうした手段はない。私自身が二〇一〇年に訪れたオレゴン州ポートランドのオレンコのように、ライトレールの駅前に住宅地が整備された町は、アメリカではまだ一部にすぎない。アメリカにおける自動車の浸透は、大都市圏を中心に鉄道が網の目のように発達してきた日本と比較すると、いっそうはっきりする。
セレブレーションに近い日本の住宅地を強いてあげるとすれば、東急田園都市線沿線に広がる多摩田園都市だろうか。鉄道が敷かれる一方、自動車の保有を前提とした街づくりが民間資本により計画的に進められ、中産階級が多く住み、反共保守の地盤となってきた点が似ている。だが、こうした住宅地はきわめて珍しい。
本書を読めば、彼我の違いの大きさを改めて考えずにはいられなくなる。トクヴィルがアメリカを旅行しながら、絶えず同時代のフランスとの違いを考えていたように。
担当編集者のひとこと
アメリカン・コミュニティ―国家と個人が交差する場所―
現代アメリカ論の新しい名著、選書版で刊行! 本書の“主役”は、アメリカの9つのコミュニティ。1)「しなやかな原理主義」を標榜する宗教コミュニティ、2)スラムから脱却したボストンの地域コミュニティ、3)強固な外壁に囲まれたロス郊外にある超高級住宅街、4)社会学者によって「類がないほど典型的」と称された都市、5)大企業による寡占化に対抗する農牧業コミュニティ、6)宗教右派を草の根から支える巨大教会、7)ディズニーが創った町、8)南太平洋に浮かぶ「小さなアメリカ」、9)刑務所の町――。
「『コミュニティ』という極小知から『アメリカ』をめぐる極大のパラダイム知」を引き出そうと、著者は9つの地域を訪ね歩き、それぞれを丹念に調査・分析しています。
なぜコミュニティを詳しく論じることが、アメリカ全体を考える上で重要になるのか。それは「社会のなかに様々なカウンター・ディスコース(対抗言説)を擁していること。そうしたディスコースが絶えず生み出されては、せめぎ合っていること。そして、それが許される〈自由〉」こそが、アメリカ社会最大の特徴であり、この視点を手放せば、「アメリカとは○○である」という安易な定義付けを許してしまう。はたしてそれで「アメリカを理解した」と言えるのでしょうか。
こうした個人と国家、ローカリズムとグローバリズム、伝統と革新、保守とリベラルなどといった「カウンター・ディスコース」が、せめぎ合い交差する場所こそが、コミュニティなのです。
本書の元となった単行本が刊行されたのは、2007年11月(本書は、新たに「アメリカを見つめて」という序文を加えた選書版)です。刊行から6年が経ちましたが、アメリカにおける「カウンター・ディスコース」は、現在進行形のものです。2008年には初の黒人大統領が誕生。以降、草の根保守による「ティーパーティ」運動、リベラル左派による「ウォール街を占拠せよ」運動と、相変わらずアメリカ社会は、二極を振り子のように揺れながら前に進んでいます。「自らに足払いをかけながら」永遠に変化し続けるアメリカ社会は、いまだ健在なのです。
その点をふまえれば、本書が「現代アメリカ論の新しい名著」ということも、決して大げさではないことがおわかりいただけるかと思います。
2016/04/27
著者プロフィール
渡辺靖
ワタナベ・ヤスシ
1967年生まれ。慶應義塾大学SFC教授。専攻は、文化人類学、文化政策論、アメリカ研究。上智大学外国語学部卒業後、1992年ハーバード大学大学院修了、1997年Ph.D.(社会人類学)取得。2004年、『アフター・アメリカ』でサントリー学芸賞を受賞。著書に『アメリカン・コミュニティ』(新潮選書)、『アメリカン・デモクラシーの逆説』(岩波新書)、『文化と外交』(中公新書)、『アメリカのジレンマ』(NHK出版新書)など。