鉄道復権―自動車社会からの「大逆流」―
1,430円(税込)
発売日:2012/03/23
- 書籍
- 電子書籍あり
ニッポン再生の特効薬! 「自動車から鉄道へ」の大転換を読みとく。
この10年、「鉄道」が世界中で大躍進を遂げている。自動車に交通シェアを奪われてきた斜陽産業が、なぜ復権したのか? 欧州発のグローバルな大転換を、ビジネス・環境・高齢化・地域再生の側面から徹底分析。次々とローカル鉄道を廃止し、ジリ貧に陥っている日本社会に警鐘を鳴らす。脱・自動車社会を予見する交通経済学。
突出した営業係数/お雇い外国人の提案/「の」の字運転/環状線の完成
(2)小田急で逃げませうか
私鉄の勃興/欧米と日本の違い/小田急開通/いっそ小田急で逃げませうか
(3)湘南電車から新幹線へ
戦後の鉄道/ソウナン電車からビジネス特急へ/「こだま」誕生/夢の超特急「ひかり」
(4)ニュータウンの夢――ペコちゃんから金妻へ
高度成長期/多摩田園都市/ペコちゃん/玉川線から新玉川線へ/P線制度が支えた建設
欧州市場統合/イコール・フッティング/ビーチング・アックス/自由化に向けた転換/上下分離とオープンアクセス
(2)地域化と都市再生
フランスの交通権/ドイツの地域化/都市再生/ニースの再構築
(3)地球環境問題
欧州の地球環境対策/環境グルネル/交通白書
(2)TGV対ICE
TGVの登場/ICEの開発/TGV東線開業
(3)2つのユーロスター
ETRシリーズ/イタリア鉄道vsフランス国鉄/本家ユーロスター
(4)グローバル競争と日本
韓国のTGV「KTX」/折衷技術の台湾高鉄/巨大市場中国のリスク/遅れてやってきた米国/世界市場の2つの流れ
近代産業の宮殿としての駅/東西ベルリンのターミナル/ベルリン中央駅建設/ウィーン中央駅計画/ターミナルではなく結節点
(2)パリの大環状線
メトロとRER/トラムの復活/ネットワーク・環境・まちづくり/グラン・トラム計画/ストックホルムとロンドンも
(3)欧州の大手民鉄が選んだ道
北ミラノ鉄道とは/経営形態の変化/運輸連合の設立/貨物ビジネス
(4)ウィーン地方鉄道の挑戦
ウィーン地方鉄道とは/通勤通学路線として/ウィーンから全欧州へ
(5)模索する日本
大都市圏の鉄道ビジネス/鉄道網の盲点/都市モノレール法/大阪モノレールの開業/大阪モノレールから考える
LRTとは何か/増え続けるLRT
(2)「環境首都」フライブルクの選択
自動車の締め出し/路線延伸とまちづくり/環境切符/フライブルクの成功
(3)「世界一の生活水準」チューリッヒの価値観
廃止の危機を乗り越えて/公共交通優先策/税金を何に使うか
(4)多様化するLRT
ミュールーズの挑戦/トラムトレイン/ローカル線と都市再生
(5)地方都市の鉄道が再生された理由
(2)日立市とひたちなか市の選択
日立電鉄の廃止/ひたちなか海浜鉄道
(3)和歌山電鐵の成功
廃止から存続へ/和歌山電鐵モデル
(4)宇都宮市の苦悩
二転三転のLRT計画/近視眼的思考の壁
(5)富山市の挑戦
富山ライトレール/お団子の串として/セントラム開業
(2)計り知れない効果――集積効果とオプション価値
(3)リスク分散――基幹交通としての潜在力
(4)成熟した社会とは――多様な価値観と選択肢
(5)自動車と鉄道――すみわけと共存
(6)「黒字」経営の罠――鉄道投資の必要性
(7)日本の課題――上下分離とクオリティ
(8)鉄道が拓く成熟社会――「共助」と「公助」
コラム3:欧州鉄道の合従連衡 コラム4:貨物鉄道の復権
コラム5:パークアンドライド コラム6:水平のエレベータ
コラム7:電車がきまっせえ コラム8:着席の価値
おわりに
註
書誌情報
読み仮名 | テツドウフッケンジドウシャシャカイカラノダイギャクリュウ |
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シリーズ名 | 新潮選書 |
発行形態 | 書籍、電子書籍 |
判型 | 四六判変型 |
頁数 | 240ページ |
ISBN | 978-4-10-603701-6 |
C-CODE | 0365 |
ジャンル | 産業研究、鉄道 |
定価 | 1,430円 |
電子書籍 価格 | 1,144円 |
電子書籍 配信開始日 | 2012/09/28 |
書評
波 2012年4月号より 事実としての「鉄道の優位性」
鉄道好きの人によりもむしろ、各地でまちづくりや地域づくりに携わっている人に読んで欲しい。地域に根ざす事業者やNPO関係者、公務員、マスコミ関係者の方々。もちろん首長や議員諸氏、そして地域活性化に関心のある学生諸君にもお勧めだ。特定地域に関心がなく「そもそも日本国はどちらの方向に進むべきか」といった大所高所からの話ばかりが好きなあなたにも、ここはひとつぜひ手に取っていただきたいものだ。
「鉄道マニア本」ではまったくない。「鉄道を復権させよという主義主張」を述べた本でもない。いったん自家用車+道路網に敗れ去ったかに見えた鉄道システムが、なぜ世界各地で復権してきているのか。本の中で詳しく紹介されている大陸欧州のほか、中華圏、北米などでもそのような流れは明らかだと思うが、著者はそうした「鉄道が復権してきているという事実」を具体的かつ網羅的に語り、その背景にある「鉄道の優位性」を分析する。
この本で復権が語られるのは、新幹線タイプの高速鉄道だけではない。採算の取りやすい大都市の通勤通学路線だけでもない。欧州の地方都市の鉄道が、まちづくり・地域づくりのツールとして復活し、利用者を増やしているという流れも紹介される。復権の背景にあるのは、車と鉄道の「イコール・フッティング」という考え方、すなわち鉄道と車が対等の土俵で成り立つよう軌道部分は道路と同様に公費で整備し、利用を民間事業者に競わせる仕組みだ。
きちんと読めば、鉄道事業者が軌道の維持整備負担をすべて負い、多額の公費投入で維持補修されている高速道路や一般道を走る車と競争しなければならないという、日本のやり方のおかしさに気づかざるをえない。しかし著者は、決して煽らないし悲憤慷慨もしない。代わりに、欧州は日本と同様、いやそれ以上の車社会であることを示し、それでも鉄道が復権しつつあるという事情を語って、同じ必然が日本にも働くはずだと示唆する。抑制的だが、実に説得力がある。
振り返ってみれば、高速道路と航空機に世界の大勢が傾く中で東海道新幹線を開発し、世界的な高速鉄道網整備の流れの源流となったのは日本だ。多くの意欲ある民間事業者が、住宅開発や観光地開発、都心開発とセットで鉄道新線を敷設し、世界最大の民間鉄道網を構築してきたのも日本だ。しかし今では逆に、特に地方都市における鉄道の退潮傾向は明らかだ。欧州に倣ってLRT(高性能路面電車)を導入しようとの動きも、富山などの先進例を除いてなかなか進まない。そのあたりの事情を読んだ後に、欧州の事例を読み返して見ると、「日本も何とかなるはずだ、ここまで世界の最先端を走ってきたのだから」という著者の秘めた思いがよく理解できるだろう。
日本と地域のこれからを考える方すべてにお勧めする。
担当編集者のひとこと
鉄道復権―自動車社会からの「大逆流」―
日本の必敗パターンから抜け出せるか 先月、半導体大手のエルピーダメモリが経営破綻しました。
80年代に世界を席巻した日本の半導体産業も今は昔。他にも、携帯音楽プレイヤー、携帯電話、薄型液晶テレビ……かつては日本のお家芸だった分野が次々と外国企業の前に敗北を喫しています。いずれも、技術力では負けていないのに、過去の成功体験に囚われてビジネスモデルが硬直化し、世の中の変化に対応できなかったことが敗因と言われています。
そしていま、日本が誇る鉄道産業がまったく同じ轍を踏もうとしている、と著者は警告します。世界に先駆けて新幹線を開発し、自他共に認める鉄道先進国として君臨してきた日本ですが、21世紀の初頭に欧州で起きた「鉄道革命」の波に乗り遅れ、トップグループから脱落しつつあるというのです。
一体どういうことでしょうか? 「鉄道革命」とは何のことでしょうか? どうすれば日本は「必敗パターン」を抜け出し、新しい鉄道時代に適応できるのでしょうか?
ここで大事なことは、これらの問いに答えていくことが、単に「鉄道産業の浮沈」という問題ではなく、「日本の社会全体をどうデザインしていくか」、すなわち「国家の浮沈」という大きな問題に直結していくということです。
ビジネス書としてはもちろん、経済社会論としても読み応えのある内容ですので、ぜひご一読下さい。
2016/04/27
イベント/書店情報
著者プロフィール
宇都宮浄人
ウツノミヤ・キヨヒト
1960年、兵庫県生まれ。京都大学経済学部卒業。1984年に日本銀行に入行し、マンチェスター大学大学院留学、一橋大学経済研究所専任講師、日本銀行調査統計局物価統計課長、同金融研究所歴史研究課長等を歴任。2011年に関西大学経済学部教授に就任。『路面電車ルネッサンス』(新潮新書)で第29回交通図書賞受賞。共著に『経済統計の活用と論点』『世界のLRT』『LRT―次世代型路面電車とまちづくり―』など。