発酵は錬金術である
1,210円(税込)
発売日:2005/11/20
- 書籍
難問解決のヒントは発酵! コイズミ教授直伝、常識を打ち破る“発想の錬金術”。
泡盛の蒸留廃液から「もろみ酢」、かつお節の削りカスから「天然液体かつお節」、回収した芳香ガスから「ノンアルコールビール」……発酵の力を駆使して生み出したヒット商品は、数知れず。その他、糞尿や灰を活用した古人の知恵、リサイクルを極める中国四千年の知恵など、柔軟かつ大胆、経済効果抜群の発想法のすべてを公開。
「黄色い砂糖」の発想
「麦出酢」の発想
米糠から天然のうま味を作る発想
動物の飼料・削りカスから超高価天然フレーバーを生んだ発想
ユニーク醤油への発想
ワインへの発想
吟醸香集積装置の発明
「もろみ酢」の発想
「夏の甘酒」の発想
「猫またぎの鯖」をサバイバル化する発想
小便から爆薬を作る発想
「擬き」の発想
造り酒屋の水
文献からの発想
寿司屋の煎酒の発想
「商標」への発想
「発酵唐辛子」の発想
中国に見る究極のリサイクル
生ゴミから宝を生んだ発想
「豚血を使った酒の熟成」という奇妙な発想
気候を利用する爽やかな発想
プロフェッショナル農業集団
人類の未来への発想
書誌情報
読み仮名 | ハッコウハレンキンジュツデアル |
---|---|
シリーズ名 | 新潮選書 |
発行形態 | 書籍 |
判型 | 四六判変型 |
頁数 | 176ページ |
ISBN | 978-4-10-603557-9 |
C-CODE | 0395 |
ジャンル | 暮らし・健康・料理 |
定価 | 1,210円 |
書評
波 2005年12月号より 先生は天才くさい 小泉武夫『発酵は錬金術である』
先生が農学博士で、東京農大の教授だというのも勿論知っていた。エッセイストで作家だというのも知っていた。
だが実は、それだけではない。造り酒屋の共同経営者でもあり、お酒のネーミングや、広告戦略を考えるコピーライターでもあり、泉のごとく湧き出るアイデアで、すでに20以上の特許を取得している「発明家」でもあったというのである。えッ? 発明家!?
たとえば泡盛の蒸溜廃液から作った健康飲料の「もろみ酢」。かつお節の削りカスから作った「天然液体かつお節」。回収した芳香ガスを利用した「ノンアルコールビール」。これらが先生の発明でヒット商品を生んだ、そのごく一部だという。
おどろいたけれども、よく考えてみれば、先生の本職は「東京農業大学応用生物科学部教授」なのだった。そして専門は醸造学、発酵学なのである。
しかし、応用科学の教授ならみんな発明家であるかといえば、無論そうではないだろう。深い知識があれば、発明が出来るというわけでもない。
発明王エジソンが言ったという有名なコトバ「発明は99%の汗と、1%の霊感が作り出す」というのは、実は新聞記者の捏造であったそうだ。エジソンの言ったのは「いくら努力したって、霊感がなければなんにもならない」である。
いかにも天才のコトバではないか。そしてわが小泉先生もまた天才である。天才は独創の才能がある。人のしない事、人の考えないことを考えられる。つまり人がこだわること、人がとらわれていることから自由になれる。
「お宝は、生ゴミや余り物のなかに眠っている!」と先生は考えられる。これは、先生が天才的にクサイものを嫌わない(むしろ好きだ)からこそ得られた独創的な発想である。
フツーの人間は、生ゴミが嫌いだ。生ゴミはクサイからである。クサイと嫌いを判断する脳の部位は同じ辺りにあるらしい。そこでフツーの人間は自由な発想を制限されてしまう。生ゴミがダメなら、まだくさくなっていない、残りカスだの食べカスだの、残りものや廃品だのも、生ゴミに準じるものとしてとるにたらないものと判断してしまうのだ。
先生は、ウンコだのションベンだのも好きだ。バイキンだのカビだのも好きだ。それでバイキンやカビのふるまいが、まるで魔法のような結果をもたらすことを熟知している。
つまり「発酵は錬金術である」ということだ。この本は儲け話や発明のヒントとして読むこともできるし、発想法の極意としても読める、発酵学の入門書としても、また痛快な読物としても、文明批評としても読める。すばらしくおもしろい本である。
担当編集者のひとこと
発酵は錬金術である
難問解決のヒントは「発酵」にあり! コイズミ教授直伝、常識を打ち破る“発想の錬金術”。
どんなビジネスであれ、発想力を発揮するには、大切なことがいくつかあります。まず、独創性です。目の付けどころですね。理論の裏付けも必要です。そして、時代の流れを読んで、世の中に受け皿があるかどうかを見極める分析力。それに、人の心をつき動かすような物語性があれば完璧です。「もろみ酢」という飲み物をご存じでしょうか。美容と健康に効果があるとして、大ヒットしている商品なのですが、何から生まれたと思いますか。実は、これは泡盛を造る過程でできる蒸留廃液なのです。この廃液には、クエン酸という体にいい成分がたくさん含まれているのですが、ずっと豚の餌にされていました。
これに目を付けたのが、小泉武夫先生です。「食の冒険家」を自任する小泉先生は、世界中の美味しいもの、くさいもの、変なものを食べ歩いていますが、その間もしっかり研究の目を光らせていました。発酵学と醸造学がご専門なので、発想の過程で何か壁に突き当たったら、発酵微生物の力を借りて難問を解決します。柔軟かつ大胆、ユーモアと遊び心にあふれた発想で、すでに20以上の特許を取得しています。
この蒸留廃液が、どのようにして健康飲料に生まれ変わったのかについては、本を読んでいただくとして、コイズミ流発想術の極意を、もうひとつ付け加えておきましょう。
“発想も、発酵させなければならないのである!”
2016/04/27
著者プロフィール
小泉武夫
コイズミ・タケオ
1943(昭和18)年、福島県の酒造家に生れる。東京農業大学名誉教授。農学博士。専門は発酵学、醸造学、食文化論で、2022年12月現在は発酵学者・文筆家として活躍中。世界中の珍味、奇食に挑戦する「食の冒険家」でもある。『不味い!』『発酵は錬金術である』『猟師の肉は腐らない』『幻の料亭「百川」ものがたり』『魚は粗がいちばん旨い』『食いしん坊発明家』『灰と日本人』『くさいはうまい』『日本酒の世界』『肝を喰う』『北海道を味わう』など、著書は150冊を超える。