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ミヒャエル・エンデが教えてくれたこと―時間・お金・ファンタジー―

池内紀/著 、小林エリカ/著 、子安美知子/著 、他

1,760円(税込)

発売日:2013/11/29

  • 書籍

未来は、エンデのなかにあった。

『モモ』『はてしない物語』ほか、ファンタジー物語の傑作を残したエンデ。その作品世界は、社会に対する鋭い洞察から生れたものでした。「時間」や「お金」といった概念を捉えなおし、読者に気づきをもたらすその言葉は、現代人への伝言でもあります。詳細なバイオグラフィと作品ガイド、貴重な自筆画も収録した待望の入門書。

目次
INTRODUCTION
はじめに
今、輝きを増す ミヒャエル・エンデの残したもの
BIOGRAPHY
エデンのあゆみ 1929-1995
ファンタジー作家の65年
LITERATURE
エンデの作品
邦訳文芸作品31冊解説
WORDS
エンデの言葉
インタビュー・対談・講演より
ILLUSTRATION
エンデの絵
『はてしない物語』『モモ』原書未収録の自筆画
ESSAY
エンデと時間
『モモ』と2つの時間 青山拓央

エンデとお金
エンデが夢見た経済の姿 廣田裕之

エンデとシュタイナー
ホメオパティーとしての物語 子安美知子

エンデと日本
エンデが気づかせてくれた「日本らしさ」 堀内美江
TRAVEL
エンデの旅
ドイツ、ゆかりの地をめぐって
COLUMN
私とエンデ1 時間の国へ 小林エリカ
私とエンデ2 エンデ氏物語 池内紀
MUSEUM
信濃町黒姫童話館

書誌情報

読み仮名 ミヒャエルエンデガオシエテクレタコトジカンオカネファンタジー
シリーズ名 とんぼの本
発行形態 書籍
判型 B5判変型
頁数 128ページ
ISBN 978-4-10-602250-0
C-CODE 0398
ジャンル 評論・文学研究、ノンフィクション
定価 1,760円

書評

思想家? 作家?

猿田詠子

 つい最近、個人商店が多く残る地域に移り住んできた。八百屋、魚屋、肉屋、昔ながらの小間物屋も元気に営業しているところに惹かれたのだ。しかしあるとき、早朝にコピーを取る必要があり、駅前に1軒だけあるコンビニに向かったら、なんとオープンは7時。「なんて不便な街に引っ越してしまったのだろう!」とがっかりする自分に、時間を盗まれ、心と生活が貧しくなっていく世界を描いた『モモ』を思い出した。
『ミヒャエル・エンデが教えてくれたこと』では、エンデにまつわる「時間」「お金」「シュタイナー」「日本」というテーマのエッセイが収載されている。哲学者の青山拓央さんは、『モモ』での時間の扱いについて「私たちが歳をとることで、灰色の男たちをたんなる悪とは見なせなくなるのは、彼らの求める時間もまた大切にすべき―せざるをえない―時間であることを、経験を通して知っているからである」と言う。私たちは、モモと灰色の男たちとの狭間で揺れながら生きている。
 正直に言うと、子どもの頃は『モモ』が苦手だった。〈さかさま小路〉〈どこにもない家〉といった、イメージしにくいものが多くて、不気味ですらあった。何か考えさせようとしているな、と警戒もした。大人になって改めて読んでみても、やっぱりエンデの物語は、風刺や暗喩めいていて、教訓的なものを読み取りたくなってしまう。しかし、子安美知子さんによれば、エンデは自身の作品を「何らかの思想を『お説教』として伝えるための啓蒙書として読んでほしくない、と強調していた」という。このズレは、どうやって埋めたらよいのだろうか。
 本書で紹介されているとおり、物質世界と精神世界が両立すると主張するルドルフ・シュタイナーや、金利を問題視し、地域通貨を実践したシルビオ・ゲゼルの影響を受けながら、エンデには望ましい世界のありかたを考える思想家という一面もある。
 とはいえ、エンデの本質はものを作る「作家」であった。そのために、エンデは現代社会を嘆くばかりではなく、ポジティブな未来像を物語に託すことができた。エンデがシュタイナーに対して「読み手の思考のなかにたえず創造のプロセスが生じるのをうながす」と指摘しているのは、エンデ作品の読み方にも当てはまりそうだ。ヨーゼフ・ボイスとの対話では、「作品が存在するというだけで、世界は変革される」とも語っている。特定の思想を伝えることよりも、エンデの世界に触れることで、読者の内面に何らかの変化があることを期待しているように思う。だから、読み直すたびに、われわれが勝手に何かを感じとってしまったって問題はないのだ。

(さるた・うたこ 編集者)
波 2013年12月号より

著者プロフィール

池内紀

イケウチ・オサム

1940(昭和15)年兵庫県姫路市生れ。ドイツ文学者。翻訳、評論をはじめ、エッセイ、人物列伝、演芸・歌舞伎論など、執筆範囲は多岐にわたる。訳書に『カフカ短篇集』、『ファウスト』(毎日出版文化賞)、著書に『二列目の人生』、『恩地孝四郎』(読売文学賞)、『海山のあいだ』(講談社エッセイ賞)などがある。

小林エリカ

コバヤシ・エリカ

1978年生れ。作家、マンガ家。2007-08年、アジアン・カルチュラル・カウンシルの招聘でニューヨーク滞在。著書にアンネ・フランクと実父の日記を巡る『親愛なるキティーたちへ』(リトルモア)、『忘れられないの』(青土社)など。

子安美知子

コヤス・ミチコ

1933年生れ。ドイツ文学者、早稲田大学名誉教授。東京大学大学院修了。シュタイナー教育を紹介し、1987年東京シュタイナーシューレ設立に至る。信濃町黒姫童話館エンデ資料室監修。著書に『ミュンヘンの小学生』(中公新書)、『エンデと語る」(朝日選書)など。2012年瑞宝中綬章受勲。

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