英国のOFF―上手な人生の休み方―
1,760円(税込)
発売日:2013/09/20
- 書籍
「何のために働く? もちろんOFFのためさ」英国人って意外と休み上手。
生活大国イギリスには日常を輝かせ、人生を楽しむ知恵がある。たとえば一杯のマグのお茶から、週末の海の家、貸し農園の庭いじり三昧、友人とのジャムづくり、アーリーリタイアを謳歌する街……ロンドン在住20年で培った幸福になるコツとは? お金をかけずに限りない贅沢を味わえる、英国人に教わった「人生のOFF」時間。
目次
OFF1 河と海の間で
テムズ河口北岸
Sea Side―Life ON the Cusp,OFF the Cuff.
Sea Side―Life ON the Cusp,OFF the Cuff.
OFF2 ブリカブラック一杯の幸せ
ロンドン、および市内各所
Hobbies―Case of Collectionism and Horticulture.
Hobbies―Case of Collectionism and Horticulture.
OFF3 三人寄ればジャム日和
ロンドン、ブリテン島南部ヘイスティングス
Jar the Jam―Screw the lid off a Tough Time.
Jar the Jam―Screw the lid off a Tough Time.
OFF4 ひとりベンチ
ニューカッスル、およびロンドン市内 プリムローズヒル、テムズバリア、サウスバンク
Isolation―Benches are Philosopher's Thrones.
Isolation―Benches are Philosopher's Thrones.
OFF5 甘く長い週末
イングランド南東部ウィチタブル
Long Weekend―I Wish It Could Be OFF Everyday.
Long Weekend―I Wish It Could Be OFF Everyday.
OFF6 二度ある人生は三度ある
イングランド南東部ブライトン
Early Retirement―Keep Calm It's Only a Midlife Crisis.
Early Retirement―Keep Calm It's Only a Midlife Crisis.
OFF7 ティータイムは終わらない
ロンドン市内各所
Tea Time―Char,Brew,Rosey,Cuppa....Whatever You Want.
Tea Time―Char,Brew,Rosey,Cuppa....Whatever You Want.
OFF8 キャラバンで夏を追いかけて
イングランド中部ハーリイ
Caravans―No More Worries for Me or You.
Caravans―No More Worries for Me or You.
OFF9 人生は道草だ
ロンドン市内北部ハムステッド
Grand Tour―OFF Makes the World Go Round.
Grand Tour―OFF Makes the World Go Round.
書誌情報
読み仮名 | エイコクノオフジョウズナジンセイノヤスミカタ |
---|---|
シリーズ名 | とんぼの本 |
雑誌から生まれた本 | 考える人から生まれた本 |
発行形態 | 書籍 |
判型 | B5判変型 |
頁数 | 128ページ |
ISBN | 978-4-10-602248-7 |
C-CODE | 0326 |
ジャンル | 社会学、地理・地域研究 |
定価 | 1,760円 |
書評
波 2013年10月号より Lazy Sunday
「ライジー・サンディー・アフタヌーナァ!!」
1960年代イギリスのモッズ・ムーブメントの代表的なバンド、スモール・フェイセスの人気曲「Lazy Sunday」のサビ部分である。頭にこびりついて離れないこのフレーズの奇妙な発音が、どうやら「コックニー訛り」らしいと知ったのはずっと後。コックニーとは東ロンドン、つまり「イーストエンド」に多く住んでいた労働者階級の人々のことで、メンバーはみなこの地域の出身なのである。こうした都市のロウアーなエリアに住む人々は独特の「粋」の感覚を持っていて(江戸の下町と同じく)、ロンドンから300km離れた街から来た地方出身者のビートルズにはない、ジモティ(死語ですか)ならではの「お洒落なワル」のムードが、彼らの音楽からはビンビン感じられた。
「Lazy Sunday」は「のんびりとした日曜の午後、何も気にしないで、目を閉じてウトウトしよう」と歌った曲だが、入江敦彦『英国のOFF―上手な人生の休み方―』によれば、日曜の午後のコックニーたちは電車に乗ってテムズ川の河口へ貝類を肴に一杯やりに行くのが習慣なのだそうだ。かつては「満足な長期休暇をとれない仕事」に就いている人が多かったイーストエンドの人々にとって、最寄り駅から国鉄一本乗り換えなしで味わえる海の幸は大切な休日の楽しみだったとか。本書はこうしたイギリスのさまざまな地域に住む人々が過ごす独特の「OFF」のあり方を描いたエッセイである。
京都と英国について、その住民性をテーマにした多くの著書を持つ入江は1961年に京都市上京区西陣の髪結いの長男として生まれた生粋の京都人だが、渡英してすでに20年以上が経っており、レジデンツとしてのキャリアは相当なもの。当然ながら、その視点は豊富な体験と深い洞察に基づいている。
ブリテン島南部ヘイスティングスでは友人たちとこだわりまくった「男のジャム」作りに参加し、春の終わりと秋の始まりのロング・ウィークエンド(土日の前後どちらかにもう1日休みを取る、忙しいミドルクラスのためのOFF)はウィチタブルで旨い地元牡蠣を出す店の経営者と食いしん坊談義に興じる。サマーホリデーは親友の一族が毎夏過ごすハーリイのキャラバン(可動式住居)で時間を贅沢に「浪費」する。それぞれの土地、それぞれの家族、それぞれの人の休み方があるけれど、あくまで個人の嗜好に忠実に、自由に楽しむ英国流の「上手なOFF」は、枠にはまった日本人の「休み」観をほぐしてくれる。細やかな地域性の違いに鋭い批評と深い愛情をもって目を向けたテキストが与えてくれる「気付き」が楽しい。
1960年代イギリスのモッズ・ムーブメントの代表的なバンド、スモール・フェイセスの人気曲「Lazy Sunday」のサビ部分である。頭にこびりついて離れないこのフレーズの奇妙な発音が、どうやら「コックニー訛り」らしいと知ったのはずっと後。コックニーとは東ロンドン、つまり「イーストエンド」に多く住んでいた労働者階級の人々のことで、メンバーはみなこの地域の出身なのである。こうした都市のロウアーなエリアに住む人々は独特の「粋」の感覚を持っていて(江戸の下町と同じく)、ロンドンから300km離れた街から来た地方出身者のビートルズにはない、ジモティ(死語ですか)ならではの「お洒落なワル」のムードが、彼らの音楽からはビンビン感じられた。
「Lazy Sunday」は「のんびりとした日曜の午後、何も気にしないで、目を閉じてウトウトしよう」と歌った曲だが、入江敦彦『英国のOFF―上手な人生の休み方―』によれば、日曜の午後のコックニーたちは電車に乗ってテムズ川の河口へ貝類を肴に一杯やりに行くのが習慣なのだそうだ。かつては「満足な長期休暇をとれない仕事」に就いている人が多かったイーストエンドの人々にとって、最寄り駅から国鉄一本乗り換えなしで味わえる海の幸は大切な休日の楽しみだったとか。本書はこうしたイギリスのさまざまな地域に住む人々が過ごす独特の「OFF」のあり方を描いたエッセイである。
京都と英国について、その住民性をテーマにした多くの著書を持つ入江は1961年に京都市上京区西陣の髪結いの長男として生まれた生粋の京都人だが、渡英してすでに20年以上が経っており、レジデンツとしてのキャリアは相当なもの。当然ながら、その視点は豊富な体験と深い洞察に基づいている。
ブリテン島南部ヘイスティングスでは友人たちとこだわりまくった「男のジャム」作りに参加し、春の終わりと秋の始まりのロング・ウィークエンド(土日の前後どちらかにもう1日休みを取る、忙しいミドルクラスのためのOFF)はウィチタブルで旨い地元牡蠣を出す店の経営者と食いしん坊談義に興じる。サマーホリデーは親友の一族が毎夏過ごすハーリイのキャラバン(可動式住居)で時間を贅沢に「浪費」する。それぞれの土地、それぞれの家族、それぞれの人の休み方があるけれど、あくまで個人の嗜好に忠実に、自由に楽しむ英国流の「上手なOFF」は、枠にはまった日本人の「休み」観をほぐしてくれる。細やかな地域性の違いに鋭い批評と深い愛情をもって目を向けたテキストが与えてくれる「気付き」が楽しい。
(いで・こうすけ 編集者)
著者プロフィール
入江敦彦
イリエ・アツヒコ
1961年京都市西陣生まれ。多摩美術大学染織デザイン科卒業。ロンドン在住。作家、エッセイスト。主な著書に、生粋の京都人の視点で都の深層を描く『京都人だけが知っている』ほか、『イケズの構造』、『怖いこわい京都』、『イケズ花咲く古典文学』、『読む京都』、『京都喰らい』や小説『京都松原 テ・鉄輪』など。『秘密のロンドン』『英国のOFF』など、英国の文化に関する著作も多数。
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