ホーム > 書籍詳細:運命と復讐

運命と復讐

ローレン・グロフ/著 、光野多惠子/訳

2,970円(税込)

発売日:2017/09/29

  • 書籍

結婚という名の壮大な悲喜劇を描く
オバマ前大統領も絶賛の全米話題作!

電撃的な出会いで結婚した、売れない俳優ロットと美貌のマチルド。純真な妻に支えられた夫はやがて脚本家として成功し、それは幸せに満ちた人生のはずだった――妻のいまわしき秘密を知るまでは。家族の愛は夫婦の嘘に勝てるのか? 巧みなプロットと古典劇の文学性を併せ持ち、全米図書賞候補にもなった圧巻の大河恋愛小説!

目次
第一部 運命の神々
第二部 復讐の神々
訳者あとがき

書誌情報

読み仮名 ウンメイトフクシュウ
シリーズ名 新潮クレスト・ブックス
装幀 Sorano Amahama/イラストレーション、新潮社装幀室/デザイン
発行形態 書籍
判型 四六判変型
頁数 528ページ
ISBN 978-4-10-590141-7
C-CODE 0397
ジャンル 文芸作品
定価 2,970円

書評

人生を一変させる結婚の両義性

中江有里

 結婚とは、他人だったふたりが家族となる契約である。
 一生が激変するかもしれない重大な契約を結ばせるのは、感情の高ぶりだ。人は恋や愛と名付けた感情を「運命」と信じて、結婚という道へ人生のハンドルを切る。その先にあるのは良い結末だと信じて。
 ここに衝動的ともいえる結婚をした男女が登場する。
 愛し合う彼らは、結婚したばかりの高揚感と一体感に浮かされている。まさに結婚のピーク状態。物語のクライマックス。若さあふれる、まぶしいほどの姿を読者の瞼に焼き付けて、物語の幕は開ける。
 裕福な家に育った、今は売れない俳優であるロットは、ある日恋に落ちる。相手はマチルド・ヨーダー。ある週末、初めてマチルドと夜を過ごしたロットは、彼女が処女だったことを知る。これまで数え切れないほどの女性と関係してきたロットは思う。
「この女性はいままで会った中で一番純粋な人」
 自分にとって都合の良い解釈を選ぶロットは、恵まれること、愛されることに無意識なナルシシストだ。自らに潜む女性蔑視の感情にも気づかない。
 二部制の本書の第一部は、ロット中心の世界が描かれる。
 冒頭はロットの両親のなれそめに続き、両親から愛されて育ったロットの子ども時代、父が急死してから、ロットを取り巻く世界が変わっていく様子を映しだす。ドラッグとセックスに溺れた学生時代に出会った英語教師は、悲劇と喜劇の違いをこう説いた。
「正解を言うと、違いなどない。あるとしたら、見方の違いだけだ。筋を語ることは同時に風景描写であり、悲劇は喜劇でありドラマである。要はどういう枠組みに当てはめて物事を見るか、ということだ」
 このセリフは本書を端的にあらわしている。
 人生という劇場で繰り広げられる物語の作家は、自分だ。演劇にのめり込み、やがて俳優から劇作家に転身、成功を収めていくロットは、身の上に起きる悲喜劇を情感たっぷりに語っていく。途中に顔を出す友人、妹レイチェル、叔母サリー、上の階に住む老女とその飼い猫たちもロットについて語りたがる。こうして彼を中心にして回る世界が終わろうとするとき、ロットは妻の秘密を知ることになる。

 貞淑な美貌の妻・マチルドの視点から描かれる後半部は、前半部では巧妙に隠されていた部分が剥がされていく。
 不幸な事故から、両親の愛を失った幼少時代、祖母、伯父の元で暮らした少女時代は、保護者の庇護なしに生きられない人間という生物としての弱さを突きつける。
 22歳で出会ったロットとの結婚生活、24年にわたった結婚生活のあとの時間が重奏的に綴られる。結果はどうであれ、ロットとの結婚は彼女の運命を変える出来事であり、これまでの人生から逃れる方法でもあった。
 中でも「オーレリー」と呼ばれた少女が、自らマチルドと名乗る場面は鮮烈に残った。素の自分を捨てて、マチルドになることで彼女は武装したのだろう。
 第一部で、ロットの理想の女性として存在したマチルドは、ロットという蓋が取れた途端、誤って振ってしまった炭酸のように吹き出していく。長年にわたって空気に混じっていた泡は、どこかで発散するはずの泡だったのかもしれない。自らの運命に復讐するかのようなマチルドに、不思議な爽快感を覚えた。
(自分の中に潜む邪悪なものは彼にけっして見せまい)
 名前や国籍を偽ったマチルドだが、ロットを愛する気持ちは真実だった。
 その愛は、彼女にとっても意外な結末だったのかもしれない。

(なかえ・ゆり 女優・作家)
波 2017年10月号より

インタビュー/対談/エッセイ

結婚という名の壮大なる悲喜劇

光野多惠子

 まだ肌寒いメイン州の砂浜に一組の男女が現れた。駆け落ち同然で結婚したふたりはそこで体を重ね、肉体は永遠に離れそうになかった。裕福な家庭に生まれながら、屈折した青春時代に役者を目指し、苦節の末、戯曲家として成功をおさめるロットと、夫を支える美貌のマチルド。前半は穢れなき妻を愛する夫の視点で綴られるが、後半の妻の視点になると一転、マチルドのスキャンダラスな過去が飛び出し、 25年におよぶ結婚生活に、全く異なる真相が秘められていたことが明らかになっていく。
 著者ローレン・グロフは在学中に発表した短篇が雑誌に掲載されて注目を浴び、そのひとつが村上春樹編訳のアンソロジー『恋しくて』に収録されている。長篇三作目となる本書は、書評誌で軒並み高い評価を受け、全米図書賞の最終候補に。2015年のAmazon年間総合ベストブックにも選ばれ、オバマ前大統領もその年のベストに挙げるほどの人気作品となった。
 それにしてもなんと熱く、自由な小説だろう。一組の夫婦の幼少期からのヒストリーを夫と妻の側から描くことで、結婚生活、あるいは人間関係そのものが、立場によって喜劇にも悲劇にも転ずることを痛感させられる。その語り口もまた独特で、長い年月の出来事を寓話のように圧縮して語り、シェイクスピア劇の要素を取り入れながら詩のように詠い上げ、パーティーでの会話劇を重ねることで、年月の経過や登場人物の心情変化を生き生きと描き出す。それらをぎゅっと一冊にまとめるエネルギーに圧倒され、この破天荒で魅力的な語り口をぜひ日本語にしてみたいと願い、作家のパワーに引き摺られるように翻訳作業に取り組んできた。
 次のページでどこに連れて行かれるのか全く予測のつかない、破格の熱量の大河小説をぜひ楽しんでいただきたい。

光野多惠子・文 text by Mitsuno Taeko
波 2017年9月号より

短評

▼Nakae Yuri 中江有里

自分の運命という物語を作るのは、自分だ。素晴らしい場面は印象的に取り上げ、都合の悪い真実は描かない。まるで神のように、自分の運命を司る作家となり、ドラマティックに運命を盛り上げていく。そうして人は自分の運命に騙される。自分だけは絶対に嘘をつかないと信じているから。才能あふれる男と、純粋な女。ひと組の男女が運命的に出会い、恋に落ちる……そんな純愛物語の語り手が代わると、別の物語へと変貌した。ナルシストな夫と、何も語らなかった妻の物語の果てに、思いもかけない愛が生まれていく。


▼The New York Times ニューヨーク・タイムズ

ローレン・グロフは並はずれた才能を持った作家である。そして『運命と復讐』は喜劇であると同時に悲劇でもあり、作者の素養と才能のきらめきが全篇を通じて感じられる、真に野心的な作品である。


▼Publishers Weekly パブリッシャーズ・ウィークリー

グロフの文章はさまざまな意味合いで潤いに満ち、挑戦的で官能的、かつ仮借がない。どのページを開いても言葉の嵐が吹き荒れている。


▼Library Journal ライブラリー・ジャーナル

ギリシャ悲劇と同じく、グロフの小説にも見せ場があり、神をも恐れぬ思い上がりがあり、叙事詩的な愛があり、コロスを思わせる脇台詞まである。並はずれた文芸的力作であり、登場人物たちもそろって魅力的だ。一読されることを強く勧めたい。

どういう本?

タイトロジー(タイトルを読む)

この作品の原題はFates and Furiesである。日本語に訳すと「運命の神々と復讐の神々(いずれもギリシャ神話に登場する三姉妹の神)」だが、復讐の神々に当たるfuriesがfuryの複数形で、もともとは激しい怒りを表わす言葉であることに注目していただきたい。本作はヒロインが様々な怒りに満ちた自分の人生と向き合い、それと折り合いをつけようとする物語でもあるのだ。(訳者あとがきより)

著者プロフィール

1978年ニューヨーク州生まれ。ウィスコンシン大学大学院で創作を学ぶ。「ニューヨーカー」などの雑誌に短篇を発表。『アメリカ短篇小説傑作集』に収録されて注目を集める。「アトランティック・マンスリー」に掲載された「L・デバードとアリエット――愛の物語」は村上春樹氏による編訳アンソロジー『恋しくて』に収録されている。『運命と復讐』は3作目となる長篇小説。

光野多惠子

ミツノ・タエコ

1953年生まれ。津田塾大学卒業後、舞台制作の仕事などを経て1994年から翻訳家に。訳書にロバート・B・パーカー『勇気の季節』、ライオネル・シュライヴァー『少年は残酷な弓を射る』(共訳)、ルース・ホワイト『ベルおばさんが消えた朝』、ジャネット・S・アンダーソン『最後の宝』(産経児童出版文化賞推薦受賞)など。

この本へのご意見・ご感想をお待ちしております。

感想を送る

新刊お知らせメール

ローレン・グロフ
登録
光野多惠子
登録
文芸作品
登録

書籍の分類